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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷8

2009年04月10日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
     8
すると玄関のドアを激しく何かが体当たりして、うおおお
ーと獣の低い叫び声がした。
もう僕らは、こんなとこに来るんじゃなかったとかヨッチ
ンや深田さんに幽霊屋敷探検について報告メールを送るこ
とも先生や母ちゃんに今日シューパロの森に行ったことを
どう言い訳するか考えることなんかもみんな忘れてただた
だ観念した。
もうこうなったらどうなってもいい。
本当に僕らは、塩をかけられた小さな小さなナメクジにな
った。さようなら11年の人生。
するとその白いカーテンのような布が床下に入って来て僕
の顔を撫でて、すうっと穴を飛び越えて行った。
そのとき僕は、はっきりと見た。
その白い幽霊は、四つの足があった。黒い毛に覆われた四
本の足の先に鋭い鎌のような爪が光った。
それを見てしまった僕の瞳は、一瞬にして真冬にカチンカ
チンに凍る水道管みたいに眼から神経の配管を通って脳と
心臓までみるみる恐怖の冷たさが伝導して行って床下で消
えかかっていた僕自身のナメクジの最後の粒を完全にフリ
ーズドライしてしまった。
それからすぐに玄関の外ではげしい獣の争う肉を噛む音や
上がり階段や外れ落ちたドア板を転がる音がしばらく聞こ
えた。
僕も秀人も石灰に埋まった土偶のように息も細く固まって
動かなかった。
雄叫びと震える唸りとがニ匹の間で交差して夜の森に轟い
たが、果たしてどうなっていたのかさっぱりわからない。
記憶がない。飛び越えて行った四本の足以降の頭の中の書
き込みが夏休みに一字も書かなかった漢字練習長みたいに
どこを開けても真っ白なんだ。
 気がつくと、そこは闇の世界だった。
夜は幽霊屋敷をすっぽりと包んで床下の穴の中も廊下も階
段も暗い闇に覆われていた。僕はそっと床の上に顔を出し
て屋敷の中を見回した。
静かでしーんと冷たい空気がゆっくりと流れていた。どの
くらい経ったのか。ずい分長い時間を記憶がとんでいたみ
たいだった。
廊下へ僕は、上がってゆっくりと弱いライトを頼りに玄関
へ偵察しようとしたそのとき、窓の外からポッカリと開い
た玄関入口へ火の玉がゆらりゆらりと動いてホールのシャ
ンデリアの吊るされた天井へ巨大な影を走らせた。
僕は、再び萎むナメクジになって急いで秀人のいる穴の前
へ走って伏せた。
それも車にはねられた野良猫みたいぴょーんと跳んだため
にシューズが脱げて埃だらけの床に転がった。僕はシュー
ズを取り戻そうと振り返ると赤々とした火の玉が入口から
入ってきて寝そべった僕を追いかけて来た。
もう今度こそダメだ!とカタツムリになった。
「何してる?」
聞き覚えのある声がして、いきなりキャンプ用の大きなサ
ーチライトで明るく照らされた。闇の世界から昼の世界へ
僕は引きずり出された。
あの火の玉は、サーチライトだった。
眩しくて眼を細めながら入口の方を見ると、熊谷のタツヤ
兄ちゃんが立っているのを僕は見た。
「兄ちゃんー。」
「なんだ。風見駿か。やっぱりここに来ていたか。シュー
パロダムの脇にお前の自転車があったからな。たぶん幽霊
屋敷に行ったと思ったよ。」
「いやあ。よかった。火の玉か思った。いや、よかったあ。
兄ちゃんに遭えて。さっき僕ら白い幽霊見たよ。四本足のー」
「見たか。あいつはここの狛犬だ。守りオオカミさ。」
とゆっくり僕らの廊下の穴の開いたところまでタツヤ兄ちゃ
んは、足元を照らしながらやってきた。
「駿ちゃん。誰?」
床下から頭を出して秀人が囁いた。
「熊谷のタツヤ兄ちゃん!」
と僕は、サーチライトを手に立ち上がった。
「なんだ。デブちん。おまえも一緒か。」
「兄ちゃんだ!」
秀人は、涙声で叫ぶと急いで床上によじ登った。しかし慌て
たために腐ったフローリングの板を掴んでパキンと割れて再
び土底に落ちた。
「大丈夫かー」
と僕は秀人に手を貸して廊下へ引っ張った。
「ありがと。」
秀人は、赤ん坊みたいにタツヤ兄ちゃんのお腹に抱きついた。
「臭いよ。お前。石灰臭いよ。墓穴に埋まってたみたいだ。」
僕と秀人は、二人してパチパチと服の汚れを叩き合った。
「ちょっと待って。秀人。何持ってるの?」
僕は、秀人が右手に抱えている泥だらけの小箱を指差した。
「これ?ああ。これ。下で穴掘ってたら出てきたっさ」


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