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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬  25(補記)

2010年01月22日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
    25補記
 確かに午後になるとずっとぼくらの小学校の校庭
でうろうろしていたのを見たよ。いつからって言わ
れても・・・一週間ぐらい前からいたような気がす
る。何回か給食のパンをやったことがある。とても
うれしそうに食べていたよ。もちろん先生には内緒。
 海陽小学校の6年生の男の子がテレビカメラに向
かって嬉々としてしゃべった。すると今度は女の子
が友達と押し合い圧し合いしながらマイクに前歯を
ぶつけそうにして証言した。

 それが小学校の道を挟んで向かいの室蘭警察著の
駐車場に夕方になると毎日いたよ。ちびって名前を
つけて呼んで触ったりした。でもその駐車場からぜ
ったい出ないの。みんなで追い駆けて歩道へやろう
としたけどすぐに駐車場に戻るの。お巡りさんがパ
トカーから出てきて捕まえようとしても同じで駐車
場の植え込みに隠れて捕まらない。すばしっこくて。
 レポーターがここ室蘭の町ではそいつが十日間も
この室蘭の町に居座っていたことについてさらに駅
前のすし屋さんは?とマイクを中年の職人に向けた。

 はい。朝は必ず駅前ロータリーを通ってうちのす
し屋の前を横切って国道の方へ歩いていたべさ。東
室蘭の駅で寝泊りしてたんじゃないのかな。見たわ
けじゃないからはっきりしたこと言えんけど・・・
レポーターに画面は切り替わって、
 この十日間どういうわけか犯人の連れていた犬が
室蘭警察署の周りをうろついていたようです。父親
殺しで捕まった鹿内純平が最初に連行された室蘭警
察にまだいると思っていたのでしょうか。ただ昨日
からその犬も姿を見せないようで残念ながらカメラ
におさめることはできませんでしたが、すし店の中
村さんが撮った携帯の動画をVTRで見てください。

 背中に黒毛のあるシバの雑種の仔犬が携帯のレン
ズに向かって吠えて去って行った。
画像は荒いけどかなり筋肉質の仔犬であることはわ
かった。

 夕張川の土手を歩きながら風見駿は、横山秀人に
口を尖らして、間違いないと宣言した。
「テレビ見てないから・・・俺、わからんよ。駿ち
ゃん。」
「バカ。本当にあれ、ぜったいチャータだよ。」
「でもなんで室蘭にいるんだよ。」
「犯人が連れて行ったんじゃんか。そりゃ」
「でもテレビ画面だけじゃ、似てる犬っていっぱい
いるからな。」
「ぜったい。チャータだって。あれ・・・」
 春休み間近ですっかりだらけ切った秀人はチャータ
の顔すらもう忘れかけているように駿の語るテレビニ
ュースで発見した大スクープに対して関心がうすか
った。むしろ今から行く進学塾の入塾面接のことで
頭がいっぱいだった。
 しかし駿は、たとえ秀人が同意してくれなくても
チャータの生きている姿を確認できただけでも興奮し
て雪道を踏む足取りも弾むように心が晴れ晴れとし
ていた。そして二人は、橋の袂の清水沢進学塾のプ
レハブの中へ一緒に入って行った。
 それから二日後夕方の地方子供ニュースで視聴者
投書コーナーで「父親殺し犯人の連れていた犬」の
続報が一件あったことをメイド服を着た女の子のキ
ャスターが読み上げていた。それはハンドルネーム
雄太という小学生からのもので室蘭警察署に居座っ
て突然姿を消した仔犬が室蘭港で見かけたというも
のだった。それを型どおりに読み上げてメイド服の
キャスターはエンディングの音楽に押されて早口に
コメントをした。
「メールありがとう。最新のワンちゃん情報ですね。
さあて。ワンちゃん、港でお魚でも食べに行ったの
かなー。是非雄太くん。続報があったら又メールし
てね。それではコマーシャルです。」

 室蘭港を出航していく貨物船のデッキにチャータ
はいた。高い波に流され上下しながら船の行く手に
広がる津軽海峡を仔犬はじっと見つめていた。
海は大きく傾いて空と足元を揺らした。
太陽は水平線に姿を隠そうしていて赤い毛布を海い
っぱいに広げていた。

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