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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-7-

2008年04月25日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めくみ
            7
 迷子犬の手配ポスターがキャノンのプリンターから
吐き出されてきた。そこにはスナップ写真を引き伸ば
した中型犬の全身像が印刷されていた。
ナナ。6か月。茶褐色。きわめて気が強い。
仔犬と言っても立派な柴犬ぐらいの大きさの雑種の犬だった。
「もう出来たんですか。」
その試し刷りのポスターを手にとって黒ぶちメガネの
田村良弘は、財布の中のナナの写真とポスターの写真と
を見比べながら感心して云った。
「迷子さがしは、速さが勝負なんですよ。1時間で数キロ
は移動してしまうので、最初の半日が勝負で日を追うごと
に発見が難しくなるんです。」
プリンターに用紙をセットしながら、窓のブラインドを
開けて犬飼健太は、そう説明すると田村と向かい合わせ
にテーブルについた。
「それでも猫に比べれば犬の発見率は高くて賢い飼い犬だ
と何週間もして家にひょっこり帰ってくることだってあるから・・」
「ナナは、まだうちに来て一週間しかたってないんです。」
「そうですか。お宅は確か杉並ですね。」
「荻窪です。」
「多摩川には、初めて連れて来た?」
「はい。河原が広いって人に言われて・・」
「うーん。多摩川は緑のベルト地帯と言われて、よく迷子犬
や野犬が紛れ込むんです。いろんな匂いが交雑してるから川
を上ってれば見つかりやすい。」
「はいっ。」
田村は、身を乗り出した。
健太は、プレハブの事務所の窓を開けて、風を入れた。
自由が丘駅に発着する電車の騒音が入り込んで薄い壁の部屋
全体に共鳴してホームにいるような雰囲気になった。
「ただし、川に平行して走っている環八を超えると、住宅街
で行き先は一気に広範になってしまう。目撃情報が集めが
カギになる。」
「もし見つからなかったら・・・・」
「とりあえず根気よく捜すことですよ。このポスターを近隣
の動物病院や保健所に配り公園や緑道の電柱にも貼っていく。」
「はい・・・・・」
涙ぐんでる田村に健太は、うんざりして依頼書を引き出し
から取り出すとテーブルの上を田村の方へすべらせて置いた。
「1日の捜索五時間で一万五千円です。発見しますと別途
手数料と発見協力者に謝礼が発生します。もし捜査を打ち
切る場合は、すぐに言ってください。その時点で終了します。
よければ、その捜査依頼書にサインしてください。」
田村は、健太の事務的な説明を聞いていたのかそれとも
夢の世界へひとりで漂っていたのか、なんの質問もなく
物理的に依頼書に淡々とサインした。
「前金が2万円になります。」
「はい・・・」
田村は、札束で膨らんだ財布から二枚の万札をテーブルに置いた。
「実は、この夏ぼくたち結婚するんです。ナナは彼女が気に
入って買った子犬なんです。・・・逃がしちってどう彼女に
説明したらいいか・・・」
又泣き出した。
「はい。はい。犬と新郎と同じバランスってわけね。」
「・・・・・」
マトイのど真ん中に弓矢が突き刺さった。
田村の顔色が見事に血の気を無くしていった。
「つらいとこ・・だね。まあ、信頼してください。捜しますよ。
がんばります。」
「お願いします。」
「じゃまず、僕は多摩川を捜索に行きますから、田村さんは、
世田谷の保健所にこのポスターをもって行って下さい。」
プリンターから刷り終わった迷子犬ポスター
を百枚、田村と半分づつに分けて健太は、プレハブ事務所
の外へ出た。
そしてピーっと口笛を吹くと、健太の目の前の物干し台に
一羽のカラスが飛んできてとまった。
「セイコちゃん。又よろしく頼むよ。」
そう健太が言うと、セイコちゃんと言われたカラスは
ポスターの犬の写真をじっと見つめて、健太の手から十枚
ぐらいのポスターをひょいと咥えて飛んでいった。
屋上犬飼ペット探偵事務所から出てきた田村が気の弱い鳩の
ように首をかしげてカラスの飛んで行く自由が丘の空を見上げた。
「セイコちゃんは、ああ見えも優秀な助手でね。ポスターを
公園で空からばら撒いてくれるし、ハグれたワン公を見つける
と襲って、人ごみに追い込む。で、犬を見つけた人が騒ぐ。
通報がくる。ってわけです。」
「へーえ。カラスにそんなことができるんですか・・・」
呆れた田村に健太はちょっとむっとした。
「カラスの脳は、猫より大きいんです。何よりここの屋上で
親代わりに育てたんね。彼女はアホな学生バイトより働く。」
「いや、この探偵事務所はすごいですね。」
「それより保健所が閉まらないうちに行かないと、捕まって
一週間で迷い犬はガス室だから。」
「はあ、わかりました。」
胸にポスターを抱えて田村は階段へ急いだ。

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