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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
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さすらいー幽霊屋敷7

2009年04月03日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
        7
 僕は、床下で水が漏れているのかと思ったがどこにも
水の漏れているところが見つからず、何で濡れているの
だろうと顎に垂れた雫を手で払って、横を見た。
そこにまるまると太った秀人の顔があった。ちょうど僕
の背中にオンブされた赤ん坊みたいに蟻の心臓をもった
子豚が張り付いて又白目をむいていた。
そして僕の耳を長い前歯でしっかりと噛んでいたんだ。
暗くて色はわからなかったが、頬が濡れていたのは、耳た
ぶから流れていた僕自身の血だったんだ。
ヴヴヴヴっっヴヴヴっっっ
秀人は、気を失って僕の耳を噛んでいる異常事態も僕の耳
から血が流れていることも、もしかしたらここがシューパ
ロの幽霊屋敷ということも今クモの巣と埃と板くずのター
バンを巻いた絶壁の小さな頭の中では、この恐怖の現実が
きれいになくなってしまってもうお家に帰って晩飯でも食
べている夢でも見ているのかもしれない。
しかし痛みが黄泉がったのは、僕の方でこのまま秀人に噛
み続けられると、耳たぶが千切れてしまう。
それだけは避けたい。僕は、すぐに秀人の口に両手の指を
突っ込んで耳たぶから引き離した。太っちょ秀人のばか力
でなかなか外れなかったが強引に下顎を掴んだ右手の人差
し指を秀人の喉奥へ差し込んでくるくる廻したので秀人は
いっぺんに咽せて噛んでいたコンソメ味の口が僕の耳から
外れた。ただそのとき人差し指が危うく噛み切られそうに
なったが、爪を齧るだけで難を逃れた。
おーい。しっかりしろよ。
秀人の頬をパチンと叩くと、いきなりトイレを開けられた
人みたいにキョトンとわれに返って僕の方を見た。
耳から血が出たよ。バカ!
うそ?本当?オレが・・・ごめん。
と頭をペコペコしたが秀人の口の周りは、血だらけで吸血
ブタみたいでとっても怖い。
ギイイイー
腐りかけたジュータンの床を又歩く足音がした。僕と秀人
は血だらけで肩を寄せ合った。
パタン、パタン、ちょうど真上までそいつは、やって来た。
僕らは、床下の奥へ寝そべるように体を低くして這いつく
ばった。頭上の床下のネダ木がギイイとたわむのがわかった。
そして僕は、秀人の口を塞いで息をころした。
遥か二階のテラスからオオカミの遠吠えが森の奥の葉っぱの
浦々に響いていくのが聞き取れた。するとすぐ頭の上にいる
そいつは、大きなため息を吐いて僕らの落ちた床の穴の周り
をゆっくり回りだして何か獲物でも探しているようだった。
僕は、あまりに低く顔を地面の土につけたので石灰が鼻に入
って、苦しくて苦しくてもう我慢ができず大きなクシャミを
してしまった。
僕らだけでなくこの幽霊屋敷にいるすべての精霊たちが一斉
に聞き耳を立てた。
玄関ホールから二階、三階の塔まで僕のクシャミは冷たい空
気の中を木霊して行った。
柱に、割られた姿見に、手すりやメッキの剥げてしまった蛇
口の洗面台に、黄色いクシャミの反響が一通り終わったら、
びっくりするくらい緊張した沈黙が暗闇に広がった。
秀人は、もう怖いの三乗を超えて気を失うのも忘れて床下で
さらに土の中へモグラのように逃げようとでもするように、
ひたすら土を両手で掘って掘ってを繰り返していた。
次の瞬間。頭の上に雷が落ちた。
ダンダンダンダンーー
それは、白い服のあいつが床の上で足をドンドンドンと踏み
つけていたのだった。ここにいるのは、わかってる。もう逃
げてもダメだ。とそいつは宣言している。
僕と秀人は、暗闇で無色透明になった。
さらに激しく床板を叩かれたて白い服の裾が穴の中へ垂れて
きた。
もう眼をつぶるしかなかった。


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