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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵-35-

2008年11月07日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
          35
安田美貴の家の玄関を出てきた福田刑事を表通りで待ってい
たのは黒のトヨタ・マークⅩの覆面パトカーだけではなかった。
赤いBMWから佐藤沙織と水島ミカが出てきて福田刑事の前
へ躍り出た。
福田の鼻先まで進み来た、品よさそうな甘いコロンの香水を漂わ
せた、よくトリミングされた二匹のプードルのような若い主婦
が無精ひげと目ヤニの目立つ安月給の刑事には、何をいいに
来たのか激しい自分への希求の感情を漲らせて迫ってくるのが
不思議な光景として映った。
実際は一二分かもしれないが長い時間ピンクの二匹の生徒会
役員みたいな主婦と野良のような刑事とが見詰め合った。
沙織もミカも緊張してどう切り出したらいいか判らなかった。
「何か?」
やっと福田刑事が声をかけた。
「あのー、あのー、」
「はい?」
刑事の切り替えしに沙織は、又声が詰まってしまった。
「ここのわんにゃん天国堂って悪い商売をしています。
捕まえてください。」水島ミカが一気に発声した。
「しょう、証拠もあるんです。ペット探偵の犬飼さんが中
の犬のひどい飼育状態を写真に撮ってます。」
沙織も慌てて付け加えた。
しばらく福田はふたりをまじまじと見つめた。
「お二人は?」
「私は、佐藤と言います。ネットでここのチワワを買ったら
すぐに死んだンです。こちらは、水島さんって言うんですが、
妹さんがやはりプードルを買ったら、腎臓疾患がもともと
あることを黙ってお金だけまともにとられたんです。」
「ここの被害者ということですね。」
「はいっ!」
二人して選手宣誓みたいな空に抜けるような声を張り上げた。
「そうですか。」
福田はそっけなく答えると、パトカーのマークⅩに乗り込んだ。
沙織とミカは、唖然として後をついて屋根に警報ランプのつい
たマークⅩの運転席まで来た。
「はい。福田です。はい。ああ。わかりました。そちらの方は
よろしくお願いします・・・・」
福田は運転席で点滅していた警察無線に迅速に反応していた
のだった。
「それから、ちょっと待ってください、」
安田家の裏庭に行っていた、去年まで大学リーグでバスケット
の選手をやっていたような背が高くて若い警官がメジャーを
巻き戻しながら駆け寄って来た。
「巡査部長。やっぱりそうです。一メートルも隣の畑にはみ
出していました。」
白い歯を見せて若い警官が沙織とミカを押しのけて、巻尺の一
メートルのところを泥の詰まった爪の親指でつまんでマークⅩ
のシートに座った福田に見せた。
「有難う。すぐに畑の持ち主に連絡してくれ。」
はい、と警官は、住宅街へ走って行った。
沙織は、むっとして車内に座ったままの福田刑事に詰め寄った。
「あのー。私たちの言ったこと聞いてます?」
「よくわかりました。ただ今回は、ブリーダーの安田夫婦に
要があるのではなく、あの息子について捜査していまして・・
だいたいのペット業としての悪評は聞いてます。あなた方の
ような被害に関して一応調べてみたんですが、事業認可の
届けも登録もしてますし、死んだペットを捨てたことがここ
のものかどうかの判断証拠も正確には揃ってなくて・・・
ワンちゃんや猫ちゃんからは逮捕はできないんですよ。」
「そんな、私たちの証拠写真も見ないで。どうしてもっと
ちゃんと調べないんですか。奥多摩湖に捨てられたんですよ。
こんな小さな命が。」
ミカが健太に貰ったケージで顎がないチワワの写真を見せる。
「この犬の写真がここのブリーダーのものだと証明できま
すか。これ一枚で。」
ミカは次の言葉が出なかった。
「この顎のないチワワが奥多摩湖のチワワと写真だけでは
特定できないんです。」
沙織は、カーッと血が上ってバッグからケイタイを取り出す
と犬飼へ電話をした。
「今この写真をここで撮った探偵さんを呼びますから・・」
勢い込んだ割には全くつながらなかった。
「私たちも犬飼さんにはもう一度お話を伺いたいと思って
探しているんですがどこにもいないんです。」
沙織は唇を噛んでケイタイを切った。
「ではこの夫婦は捕まえられないんですか。」
福田刑事は、ハンカチで洟をかんでじろりと沙織とミカの
ピンク色に上気した細くて小さい顔を見た。
「今から捕まえますよ。まずは事情徴収ですがね。」
????生徒会の二人の女の子は眼をパチパチした。
「土地建物使用に関する法律でね。」
「土地?」
「裏庭の駐車場が隣の畑にはみ出していて以前から畑の
持ち主から訴えが出ていましてね。」
と名刺を今度は二人の役員に渡す。
「すぐにお話をお伺いすることがあると思います。その
ときはよろしくお願いします。」
はい、と二人は名刺をそれぞれ受け取るとハンドバック
に入れた。
ちょうど陽が沈みかけて赤く長い沙織とミカの影が福田
のマークⅩのボンネットに延びていた。そして福田がエ
ンジンをかけようとキーを廻した時その二人の影を何か
が遮った。
キャャャーとミカが悲鳴をあげた。
福田も慌ててエンジンを切ってフロントガラス越しに
黒い大きなものが飛んできたので身構えた。
「セイコちゃん!」
ボンネットの上に舞い降りたカラスにそう声をかけた
佐藤沙織は、屈むように覗き込んでつづけた。
「犬飼さんは、どこにいるの?」

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