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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷17

2009年06月12日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
      17
ヤマイヌという単語が僕には妙な響きに聞こえた。
イラン人が本当にそんなことを言ったのかと兄
ちゃんは、秀人に聞き返した。
秀人は、少し考えて大きな黒い犬と茶色い犬が
いたとその外人はその時言った後で、横にいた
黄色い歯のブルドーザーの日本人のおじさんが、
そりゃヤマイヌだべって言ったんだと正確に思
い出した。
ヤマイヌって野良犬とは違うの?
僕が素朴に質問したら、兄ちゃんはわからんと
吐き捨ててから、山に住んでいる犬のことだべ
と不機嫌に答えた。
    X    X    X
 それからさらに一週間が過ぎた。
僕はいつものように熊谷ガソリンスタンドの休
憩所兼事務所に学校が終わって行った。
すると青い顔のタツヤ兄ちゃんが出てきて、今日
は行かないと低い声で一言云うと休憩所のソファ
にドカンと腰を沈めて動かなくなった。
「どうしたん?」
僕が聞いてもじっと天井を見つめて何も云わず兄
ちゃんは僕に目も合わせようとしなかった。
「ねえ。どうしたん?」
兄ちゃんは、ソファに突然ゴロンと寝そべって風
邪ひいたみたいな掠れた声を出した。
「ラリーが国道で轢かれた・・」
「死んだん?」
いつ、何に、と聞くつもりだったのが口から出て
きたのが死という言葉だった。
「今朝来た清水沢運送の山田さんが国道で犬が轢
かれてガードレールに寄せられているのを見つけ
て保健所に持って行った。」
「でもラリーじゃないかも。」
「すぐに保健所さ行ったさ。昼休みに。首と腰の
骨が折れていた。首の前のところにカーテンフッ
クの傷もあって・・ラリーだった。痩せていた・・」
そう云うと兄ちゃんは、鼻声になって黙り込んで
しまった。
僕は、タツヤ兄ちゃんが『痩せていた』と云った
後の鼻声で掠れて聞き取れなくなった言葉を正確に
読み取ることができた。そして急に悲しい気持ちに
なった。

何日も食べてなかったんだべ。ラリー。

僕はその言葉をもう一度自分の中で繰り返して言
ってみた。
すると僕の中から涙があふれ出てきて止まらなく
なった。
「チャータとコロは?・・・」
「ダメだろう。もうー」
僕ではなく床下に向かって兄ちゃんは唾を吐くみ
たいにそう呟くとテーブルに掛けられていたウエ
スと洗剤スプレーを持って僕のランドセルを押し
て外へ出た。
もう帰れと怖い顔で一言云うと休憩室のガラス窓
をウエスでせっせと拭きだした。
僕は、出てくる涙が乾くまで延々と歩いた。雪が
解けないで夕張川の土手に黒い土と交じり合って
連なっていた。
僕は気が付いたらシューパロダムの坂道を登って
いた。
夕日はすっかり傾いて坂の上にいるガードマンの
影が僕の足元まで届きそうだった。
ピピピー、ガードマンが笛を吹くと僕に止まれと
赤い警棒で合図を遣してきた。
立ち止まって僕が見上げていると何台もの大型ト
ラックが荷台に山のような廃材を積んで坂の上か
ら次から次に降りてきた。僕は三台目のトラック
の荷台にあの幽霊屋敷の秘密の書斎にあったデス
クが瓦礫と一緒にのっかているのを見つけた。
チャータとコロ。
トラックの通過する轟音で僕の声は、かき消された。
僕はあきらめて坂を下りた。
 次の日学校に行ったら、秀人の様子がおかしく
僕を休み時間も避けて余所余所しかった。
昼休みになって手洗い場でやっと秀人を捕まえて
どうしたの?とまるまるとした腕を捕まえようと
したら急に秀人は僕の頬にビンタを食らわした。

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