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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー若葉のころ24

2010年07月09日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      24
 久しぶりの弘前の朝は、凍てれる冷たさが同じ東北
でも岩手とは違う。春なのにまだまだ身の切られる寒
い空気が町中に漂っている。
 盛岡のトミーのおばちゃんを見舞ってからそのまま
青森の弘前まで車を飛ばして陸奥鶴田の実家に着いた
のは、深夜一時を回っていた。母は、私が市営住宅の
外来車庫に車を入れる間に玄関を開けて待っていた。
 律儀に寝ないで娘が帰って来ると知って遅くまで起
きていた。昔はこの母の律儀さがうっとしく感じて反
発もしたが自分が結婚して子供もでき、遠く離れて暮
らして年を重ねると逆に申し訳ないという気持ちが先
にたってうれしい寂しさを感じてしまう。そして元気
そうね。ああ、元気さ。一人暮らしは楽でいい。とい
つも聞くセリフを拝聴すると黙って居間に敷かれた懐
かしい花柄の布団で寝た。翌朝8時には朝食を母と一
緒にこれも黙って母手作りのわっこめしでとって夕方
のオマツとの待ち合わせまで十分時間があるので近所
の河原を散歩した。母は鶴田図書館の清掃のパートを
やっているというので私のお昼ご飯を用意して、へば
行ってくるっ。と自転車で出て行った。私は散歩から
帰って煮物の母のお昼ご飯を食べるとすぐにぐっすり
と寝てしまって起きたのは四時に近かった。うっすら
首筋に汗をかいてよく寝た。久々に起きたときにここ
はどこだっけという存在不明な感覚に陥った。そう。
実家か。幼年時代ではなく一児の母になった現在平成
の世なのだ。よく子供の頃昼寝をして寝ぼけたあのぐ
っすり眠った後の戸惑う感覚が甦ったようだ。
遠くで小学校の放課後のチャイムが鳴り響いてもう夕
方の気配が迫ってきた。
 そこで私は、口紅だけ塗りなおしてオマツと待ちあ
わせの弘前へ急いで車を走らせたのだった。 
 うすく晴れ渡った空に岩木山がくっきりと映える。
あの数日前の豪雨がウソみたい。つくづく嵐の後には
必ず晴れ間がくると落ち込んだ人を励ますのに使われ
る常套句が本当なんだと思う。
 ちょうど弘前駅前のロータリーについたのは五時前
だった。私は車から降りてショッピングプラザのある
ビルが待ち合わせだったのでショーウィンドーを見る
ように歩いていると後ろからオマツの声がする。
振り向くと歩道脇に停めたアコードに寄りかかってオ
マツが笑っている。
「わたしの前を車から降りてテクテク行ってしまうん
だもの。」
「うそ。いたの。歩道に。」
「いたさ。目の前に。ちゃんとすみれの運転している
車も判ったし・・・まあ。それよっかプチ同窓会まで
二時間あるし、知ってるとこの駐車場に入れて、お茶
でも飲もうっ。」
「わかった。」
といって車に二人で乗り込むと商店街のはずれの信用
金庫の駐車場に車を置いて、近くの古いレンガ造りの
喫茶店に入る。 
「ここ高校のときからあったよね。」
「すみれはまじめだったからあんまり入ったことない
だろうけど、わたしとトミーは時々入ったことあった
のよ。」
「もしかして駅前で弘大の男子に引っ掛けられて喫茶
によく行ったってここのこと。」
「ただでコーヒー飲めたし、わざと柄のカーディガン
着てたら高校生ってわかんないってトミーの入れ知恵
もあったし、ただ大学生とダベルだけだもん。あのこ
ろは。」
「ふーん・・・」
と私はすっかりふっくらとしたショートカットのオマ
ツの目を見る。
オマツは、たぶん高校生の時からすると二倍近く太った
、クビレのない体を揺すってククっと笑うその笑い方が
「今だったらカッコいい人いたし、最後までつきあって
いたのに純情で残念なことした」と後悔しているのが明
らかな大人の邪気を含んでいる。
「そのトミーなんだけど・・・」
オマツは夏の積乱雲みたいに急に顔を黒雲で曇らせて私
に聞いてくる。
「トミーが海に投げ出されたなんてトミーのおばちゃん、
まったく信じていないの。」
「そう。そりゃそうね。あの頭のいいトミーがそんなミ
スはしないでしょ。」
「ただ私は、どうもポルシェを海に流されるとこに置い
たままにするだろうかとポルシェを嬉しそうに運転して
いる姿を見ているからそれもあり得ないなあ、って思う
の。」
 オマツは、私がそういうと少し考えるように眉を顰
めて大きく息を吐いて答える。
「でもいちばんおばちゃんがトミーの身近にいるんだし
、いつものように男に狂って失踪して又戻ってくるって
言うんでしょ。」
「うん。」
私は、そう答えるしかなかった。
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31アイスクリームのハッピードール~シーちゃんのおやつ手帖142

2010年07月09日 | 味わい探訪
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