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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬 20

2009年12月11日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
    20
 俺は、おまえが生まれた時室蘭製鉄所の鋼材運搬船
の船員をやっていたんだ。ずっと過去のことは俺自身
あの女と別れてから封印してしまってさ。幼いおまえ
が何度となく聞いて来てもダンマリをするしかなかっ
たんだべさ。本当。おまえには悪かったが俺の心が土
砂に埋まった貝みたいになって硬く閉ざしてしまって
俺がなんとかしたいと思っても何もできなかったんだ。
許してくれなんて言わないが俺もこれが精一杯でおま
えを学校にやって毎日めし食わせるのがやっとだった
んだべ。確かに俺は人間としては何の取柄もなくだら
しないし要領もわるい。
せいぜい温泉旅館の掃除人を言われた通りハイハイと
毎日やってゆくしか能のない人間さ。
それに正直なことを言うとさ、俺、子供嫌いなんだ。
どう接していいか皆目見当がつかん。俺が小さい時俺
のとっさんとかっさんは出稼ぎに冬になると出て寝た
きりの婆さんと港で拾った魚売って生活していたよう
なもんで家庭をもつということがどういうことだった
か、未だにわらんしゃ。
俺がカッとしていつも悪さしたおめいを殴ったときお
めいが心底軽蔑して俺のことを恨んでいたのはわかっ
とったさ。
おまえが俺のことをこの世から消しゴムで消すみたい
に消したかったのは、よくわかるべ。俺だっておまえ
だったらそうしたっさ。だから俺、おめいのことは恨
んどらん。これ、本当さ。
女は、おまえが生まれてからずっと精神的に不安定に
なってな。何回も自殺未遂したんさ。俺には訳わから
んかった。
会いに行くと乳が出ないと泣いて、おまけに産後の肥
立ちも悪く病院から退院できないでいたんさ。そうこ
うして三ヶ月経って突然病院からも兄さんのアパート
からも姿消して乳飲み子のおまえを抱えて俺はサロベ
ツへ戻ったのさ。それでおまえとふたりきりの番屋の
シヨボイ生活になったのさ。
俺は、女がどうなったか今でもわからん。知ろうとも
思わない。自分の子を置いてこの世から消えた奴なん
か、何の理由があっても俺は理解できない。俺もそり
ゃ偉そうなこと言えないのは、わっとるべ。自分の子
を満足に育てられないでこうしてやられてしまう始末
だもんな。
ただ俺は逃げなかったことだけは認めてくれ。頼むよ。
それだけは。
オレは、目が覚めるとバス停の雨避けの屋根にはも
うコウモリはいなく、チャータに連れられた買い物帰
りの主婦や子供らに囲まれていた。
「ああ。生きてる。」
幼稚園の制服を着た男の子がオレを見て叫んだ。チャ
ータは唸るような低い声で盛んに吠えた。
「生きてる。ちょっとウトウトしてた。」
オレは、頭にかかった雪を払って起き上がった。この
団地の住人らしい金歯の小母さんが旅行者に見えんが、
具合でも悪いんなら病院に連れて行こうか。としっか
りとした威厳のある声で言うのでこれは町内会長か何
かではないかと踏んでオレは、聞いてみることにした。
「いや。もう大丈夫です。ちょっと尋ねたいですけど
この団地に宮沢さんという火傷した人いませんか。」
二三人の若い主婦たちは、首を傾げていたがその会長
らしき小母さんは、よく知ってるという風に答えた。
「あんた。誰だべ。その宮沢さんは、去年亡くなって
看病していた妹さんならいる。」
「妹ー?」
「鹿内さんよ。」
そう小母さんが言うと主婦たちがああ、鹿内さんと知
っている様子だった。
「シカウチ」
オレは、掠れた声でそう呟いた。
「どうした?」
小母さんも主婦たちも子供もオレが泣いているのにび
っくりして屋根の根雪がガサっと落ちたときのような
ドヨメキが起きた。
シカウチ・・・・
母さんは、オヤジの名前を名乗っていた。
オレは、次から次から出てくる涙を抑えられなくなっ
ていた。
「あんた、鹿内さんだね。」
その小母さんは、雪を固めたような重い声でオレに
聞いた。
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菓乃実の杜~シーちゃんのおやつ手帖118

2009年12月11日 | 味わい探訪
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