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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-25

2007年09月07日 | 投稿連載
    愛するココロ  作者大隈 充
           25
 パーキングのアスファルトに跳ねた雨粒がワゴン車の車体の
裾にお金のない町の花火大会の勢いのない打ち上げ花火のような
模様で土埃りの跳ね返りを十センチほどの裾幅で車体にぐるりと
へばり付かせていた。
 由香とトオルがサービスエリアのレストランハウスから骨の
折れたビニール傘を相合傘にしてワゴン車へやってきた。
「あれ?扉が開いている。」
「どうしたのかしら?」
ワゴン車のスライドドアが開いたままで中は空っぽだった。
「エノケン一号は?」
由香が車の中に入ってリアシート裏から座席の下まで覗き込んだ。
「いない!いないよお。」
「いったいどこに行ったんだ。」
トオルも運転席からなぜかダッシュボードの中まで探した。
「どこにもいない。」
由香とトオルは、傘を放り投げて車のまわりをぐるりと回ると
駐車しているトラックや乗用車の間を探しながら走り回った。
小雨が霧雨になって、由香の長い睫毛に水滴のいくつかの玉を
宿らせていた。
広いパーキングエリアの誰もいない雨の駐車スペースに出て、
目や額についた水滴を手でぬぐいながら途方にくれた。
「そんな、ひとりで行く筈ないよお。」
そこからトイレと自動販売機コーナーと由香は小走りに見て、
又パーキング・スペースに戻ってきた。
「ああ。ここで方向転換してる。」
ワゴン車を挟んで大型クレーン車の裏からトオルの声がした。
給油所のある駐車場の出入り口に濡れたフランネルの長袖シャツ
を脱いで手で絞りながらトオルが息を切らして立っていた。
ここ!と近づいてくる由香に真下の路面を指差した。
出口車線へ出るコーナーで黒くこすった痕が濡れた路面に
くっきりと残っていた。
「このキャタピラのサイズはエノケンのだ。」
屈みこんでまるで遺跡の発掘調査でヤジリを見つけた学芸員
のように黒いキャタピラの痕を凝視していた由香が、
そのキャタピラの擦れた方向を見上げた。
 出口の高速道路がその先にあった。
巨大なタンクローリー車が何台も連なって、水しぶきを
上げて走り去っていた。
「すいません。食事していた間にいなくなってしまって・・」
「変だな。で、ワイヤレスパームで呼びかけてみた?」
「何回もやったんですが、交信を受け付けない状態に
なっているんです。」
「ドアは開いていたんだね。」
「はい。」
「その車のドアの下には、キャタピラの痕はあったとかね?」
「・・・・ああ。ありました。」
トオルが運転している隣で由香がカトキチと携帯電話で話していた。
「たぶん自分で降りちょるね。」
相変わらずのんびりとした口調でカトキチが答えた。
「エノケン一号が自分で出て行ったんですか」
少し大きな声で由香が聞き返すと、トオルが横から信じられない
と首を横に振りながら由香の携帯を覗き込んで車の速度を落とした。
「誰かが持って行ったんじゃないの。こんな高速のサービスエリア
でどうやって一人で走って行くの。」
カトキチに聞こえるように大きな声で言った。
「どうしてひとりで・・・」
トオルの代わりに由香がカトキチに訊いた。
「それは、わからん。ただ自分の中にエノケンが着実に甦って
きているんだろ。」
「エノケン一号が進化しているですか。」
「何を考えて動き出したかわからんが、赤ちゃんのエノケンから
大人のエノケンへ成長しているのは、確か。」
「・・・うーん。先生。エノケン一号はどこに行ったのでしょう。」
「まあ、ちょっと待って・・・今一号のPHSの受信エリアを
電波マップの検索から探っているから・・・」
「このまま南へぼくら走ってていいの?」
速度を上げてトオルが由香に話しかけた。
「ううーん・・・さっきのサービスエリアの管理事務所には、冷蔵庫
みたいなロボットがいたらこっちの携帯に連絡してくれることに
なってるからとりあえずこのまま最初にエノケン一号が指した南へ・・」
「わかった。」
ひょょょょん・・・
由香の携帯から奇妙な動物の鳴き声が聞こえてきた。
ひゃゃよーんんんん・・・
「はい?・・・先生?」
「ひゃゃゃははは。いた。いた。アイツがいたぞ。」
電話から聞こえて来た奇妙な鳴き声は、カトキチの驚きの発声だった。
「アイツ?」
「真鍋くん、わかったぞ。エノケン一号は、東に猛スピードで
走っている。もう広島を越えて岡山へ向かっているよ。」
「ええ?岡山!逆に行っているんですか。」
「そんなバカなー・・・」
とトオルは、ブレーキをかけそうになって、車体がぐらついた。
「そりが結構早い速度ばいね。こりゃ。」
「先生。じゃ、進路変更しますか。」
「そうたいね。進行チェンジ。」
「じゃ次のサービスエリアで降りるよ」
又スピードを全快にした。
雨はほとんどおさまっていた。
 そのころ山陽自動車道路を大型トラックが自動販売機をいっぱい積んで
走っている。
ロープでしっかりと結わいつけられて荷台に並んでいる。
もう夕方。
高速道路の街路灯が風にめくれて旗めく後ろの幌を照らし出した。
最後部の荷台に自動販売機と並んでエノケン一号が
赤い目でしっかりと乗っていた。
トラックは、もうスピードでいま相生を通過したところだった。
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東京ひよ子プチデザート~シーちゃんのおやつ手帖12

2007年09月07日 | 味わい探訪
今では、東京のおみやげに売られているひよ子。
元は、福岡は、飯塚の銘菓。
炭坑町の飯塚は、お菓子屋が他にも多い。
米どころと長崎街道の宿場町とが関係があるらしい。
銘菓ひよこ本舗のホームページ。
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