カジュアル・アミーガ         本ブログの動画、写真及び文章の無断転載と使用を禁じます。

ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロー28-

2007年09月28日 | 投稿連載
 愛するココロ  作者 大隈 充
           28
 高速道路を降りてすぐカーブした産業道路のコンビニ
の駐車場でワゴン車を停めたトオルは、フロントガラスに
こびり付いた土埃りの汚れを拭こうとしていたところだった。
虹は、その綺麗に湾曲したフロントガラスにはっきりと
映っていた。
「おーい。由香っぺ。ほら。虹!」
と指差した方向をコンビニからお茶のペットボトルを
二本抱えて出てきた由香がワゴン車に近づいて、トオルの
人差し指の通りに振り返った。
「きれいっ!」
「どう?ここのまま東京へ行かん?」
「東京に行ってどうするの?」
「いろいろ遊ぶとこあるし・・」
「エノケン一号を放っておいて。」
「だってさっきカトキチから京都で生存が途絶えた
って言っていたじゃん。」
「この京都のどこかにいるのよ。」
「もしかしてトラックに轢かれてスクラップになって
るかもしれないじゃん。」
「そんなことないっ。縁起でもない。」
「それって、恋。」
「何が?」
「エノケンに恋したわけ?」
由香は、不意をつかれて不覚にもココロが少し大きく
揺れ動いたのをイヤらしいトオルの目がしっかりと覗き込
んでいたのを一瞬でも隠せなかったことを悔んだ。
「恋しちゃいけないわけ。」
トオルは、その由香のはじめて見る腰が据わった巨大な鉄
の壁のような意思にたじろいでパタッと喉が詰まって、
慌てて由香の手からお茶のペットボトルを取り上げて
くるりと蓋を取るとゴクゴクと乾いた喉に流し込んだ。
「私だって恋するのよ。」
「そりゃ・・・」
「私だって女よ!」
「でも・・・」
「でも何なのよお!」
「でもエノケン一号は、ロボットだよ。」
「ロボットがどうしたのよ。」
「いや、その、ロボットは、機械だし・・」
「エノケン一号は、ココロを持っているのよ」
「ココロ?」
「ココロがない人間だっているじゃない。エノケン一号は、
少なくとも愛するココロを持ってる。私は、そのことが
今判ってきているの。そんなエノケンのココロに憬れている
かもしれないけど、それがすばらしいことだと思ってるの。
それが恋とよばれようが、何と言われようがここまで来て、
この気持ちを大切にしたいの。」
「はい・・・」
トオルは、大学の新入生の頃新歓ハイクで洞海湾を渡って、
一年生の由香と若松の高塔山へクラスで行ったとき
のことを思い出した。
あのときも由香は、地球環境を科学で救いたいと力説していた。
あのときの渡し舟のデッキで初めて話かけたのにいきなり
熱く捲し立てられたのに辟易とした。なんて可愛い顔の割りに
男みたいに固い理論派なのだろうと惜しいなと密かに思った。
でも今目の前で熱く捲し立てている由香は、どこかあの
新入生のときと違う。どこが違うのだろう。
そう、目と頬の輝きだ。すっかり大人になった由香は、
恋という単語を発するときその赤い唇からコイ、ココロと
KOと頭の子音と母音がつながって出た瞬間に由香の瞳が濡れ、
形のいい唇が艶かしく蠢いてうっすらと頬が赤色していく。
どう足掻いても逃れられない蜘蛛の網にかかったみたいな
吸着力をもったひとりの女がそこにいる。見違えるように
ツヤツヤした燃え盛る火のついた女の体そのものが由香
という名前をもらって立っている。
トオルは、そのことに消えかかる虹をぽおっと
眺めながら、実感した。
「わかった。エノケン一号を探そう。」
お茶に咽ながら咳き込んでトオルは言った。
「・・・・・」
由香は、トオルを見ていなかった。
ワゴン車のフロントガラスに映っていた青い空とキラキラ
と光を放つ虹のカケラを見ていた。ココロがその虹から
由香の下へ帰ってくるのに時間がかかっているみたいだった。
「・・・・・・」
「由香ちゃん。ねえ、由香っぺっ!」
「ええ?何?・・」
「エノケン一号を探すんだろ。」
「エノケン・・・」
由香は、泣いていた。
なぜ涙が出ているのかわからないみたいだった。
「私、どうしたのかしら?」
「京都中を走り回ってエノケン一号を探すんじゃないの。」
「ああ。そう。そうね。エノケン一号を探さなくちゃね。」
「わかったよ。ここまで来たらトコトン付き合うよ。由香ちゃん。」
「・・ありがとう。」
由香は、ダッシュボードにペットボトルを置くと
車の助手席に乗り込んだ。
「ありがとう。トオル君。」
「オレも恋したかも。」
エンジンをかけながら独り言のように小さな声でぽんと
虹の映っていないフロントガラスに言葉を投げた。
「何?何んて言ったの?」
「いや。別に。虹がキレイだったね。」
「うん。虹、キレイだった。」 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロイスピエール~シーちゃんのおやつ手帖15

2007年09月28日 | 味わい探訪
小さいのにびっくりするぐらい高いお店はいっぱいある。
安くても本当においしいところは、宣伝もしないので
地元のひとの顧客で細々まじめにお菓子をつくっている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする