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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

雨の花図鑑

2007年07月06日 | 写真コラム
少し梅雨らしく。
ひかえめな気持ちで花が咲いています。

水のめぐみ。

生きている。ぼくの足もと。
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愛するココロー16ー

2007年07月06日 | 投稿連載
       愛するココロ  作者 大隅 充     
                  16
興行の世界は、新しい景気からもっと即物的な笑いや欲求に変わっていった。
新宿駅東口周辺の不法占拠の屋台は、戦前からの持ち主「睦会」の法的な
勝利はみたものの、実質的にはなかなか進まず老舗の「中村屋」が土地を
取り戻したのは、翌年の昭和二十九年になってからだった。
この新宿駅前のムーラン・ルージュ劇場のあった辺りは、映画館と
ストリップ小屋だけ残って時代は、有楽町日劇とテレビの試験放送とに
移って行って東口は、歌舞伎町から二丁目の二番遊郭の怪しい香りが
その強い毒気をますます放っていた。
 エノケンが本家の喜劇王の真似でしか日銭が稼げなかったことで
地方周りが多かった事情と新宿に帰って来ても博打に入れ揚げたこと
が日劇進出を果たせなかったことの大きな要因だった。
 額縁ショーから、キャバレーの司会、地方ではストリップ劇場の幕間芸人。
エノケンの当時の生業は種々様々だったが、月給取りの客は、老芸人の
人情小話や食えないネタには興味は示さず、早くストリップを見せろと
野次が入ることの方が多くなっていた。
「ちょっと前になりますが、りんごの歌というのが流行っていました。
りんごの皮を剥くとその皮を後ろから拾って食べられたものです。
誰にって?猫に?うちの婆さんに。」
客席。沈黙。
「今じゃ、なんでもテレビとかいうものがもうすぐできるそうで映画
のような画を家庭に送れるようになるらしいんですがそのときラジオは、
どうするんですかね。りんごの皮みたいに食べられないし・
・・困ったものです」
客席。小さな笑い声の後、野次が飛び交う。
「おまえも食えねえや。早く裸見せろ!」
「引っ込め!おっさん!」
万事がこういった調子だった。
九州や大阪が古い興行主との付き合いで多くなり、ただそれも
数を自ら減らして、新宿の博打場でよく顔を見せるようになり、
ある意味負けない博打の才能を発揮していた。
地周りの連中からは、「勝ち逃げのエノケン」と呼ばれてもいた。
 新宿の街にジングルベルが鳴り響く頃。森下組のマサは、とうとう
正森興行の跡目を借金づけにして追い出した。
 角筈の博打場からの帰りエノケンは、マサの手下に捕まった。
そして南口の大ガード下へ連れて行かれると村越マサが待っていた。
「てめい。マリーを逃がしたんだってな。落ち目のくせに!」
「知らんよ。チンピラさん。」
「ほう。いい度胸だ。」
と数人の子分がエノケンを捕まえて殴る蹴る。
エノケンは観念したように抵抗しなかった。前歯二本と肋骨を折る
怪我で曙アパートに運ばれたとき、エノケンは俺の青春だった
新宿は終わったと感じた。
源ちゃんに呼ばれて駆けつけたマリーは、仕事を休んで看病した。
「ひどい顔。ごめんなさい。」
「ここに博打で儲けた百万ある。一緒にアメリカに行こう。ラスベガス
に知り合いがいる。 そこで出直しだ。俺はボブ・ホープになる。」
「じゃ一ヶ月待って。借金の目途がつくから」
「きっとだ。迎えに行く。」
 源蔵さんが昭和館の正面入り口の照明を消して、ドアに鍵をかけた。
エノケン一号は、ゆっくりと前へ進み出た。
「それで一緒にアメリカに行ったんですか?」
 トオルがエノケン一号の方向転換するのを手伝いながら云った。
源蔵は自転車に股がると向いのラーメン屋のオヤジにおやすみと声
をかけてから答えた。
「それが・・・」
由香とトオルとエノケン一号は、歩き出した源蔵のあとを
追いながら聞き耳を立てた。
「それが、マリーがいなくなった。」
「エノケンと逃げたんじゃないの。」
由香が熱心に尋ねた。エノケン一号がぐっと遅れ出した。
「いいや。新大久保の駅前で森下組の車にマリーが押し込まれるの見たんだ。
当然自慢の自転車で追っ駆けたよ。しかし池袋の交差点で転んじまった。
それっきり。」
「どうなったの?」
「あとで歌舞伎町では死んだという噂がたったよ・・・」
「殺されたの。」
トオルが大きな声を出した。
「たぶん!・・・それでエノケンがそのマサを刺してアメリカに逃げたんだ。」
「ひどい・・・」
「羽田で見送ったのは、私ひとりでしたよ。あれだけ女出入りの華やか
だったエノケンさんも、マジになったのが運の尽きだったかもしれんねえ・
・・私もあの池袋の転倒以来競輪選手はあきらめたよ」
エノケン一号の歩みがゆっくりになって、胸のランプが点滅をはじめた。
「どうしたの? エノケン一号」
由香が振り返って云った。
「エネルギーガ、アリマセン」
完全に動きが止まった。
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