東急シアターオーブ 「ウエスト・サイド・ストーリー」

脚本&ブロードウェイ・リバイバル演出:アーサー・ローレンツ
音楽:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーブン・ソンドハイム
初演時演出・振付:ジェローム・ロビンス
ツアー演出:デイヴィッド・セイント
振付再現:ジョーイ・マクニーリー

指揮:ジョン・オニール
トニー:ロス・リカイツ
マリア:イヴィ・オルティーズ
アニタ:ミッシェル・アラビナ 他
(2012年7月21日昼) 

 原脚本を書いたアーサー・ローレンツ自らのリバイバル演出をもとに、映画で振り付けを行ったジェローム・ロビンズが演出・振り付けを行うという、非常にオーセンティックな舞台。
速めのテンポでぐんぐん進むエネルギッシュな公演で、夢見るようなロマンチックな演奏とは一線を画した、リアリズム溢れる演劇性の強い舞台だったと思う。緊迫感の強い、迫力あるダンスと歌唱は、本場ブロードウェイ版というにふさわしいものだった。

私は、「ウエストサイド物語」の映画は、DVDやらで200回以上は観ていると思う。しかし、舞台で見るのは初めてだ。
多くのファンは、「ウエストサイド物語」をロバート・ワイズ監督の名画で知ったと思うから、これを舞台で公演するとなると、映画での演奏を上回らなければならない。これは、ほとんど不可能と思える。映画の演奏は、それほどまでに素晴らしい。
今回のクールの演奏でも、映画の演奏を上回れないもどかしさはあった。しかし、これは無理もない。映画の後に録音されたウエストサイドのCDは、作曲者自身のものも含めて、どれもこのサウンドトラック盤を上回れないのだ。 その限りで言えば、ナマの打楽器など、迫力ある演奏は、十分に楽しめた。
作曲者と言えば、ウエストサイド物語に関するもう一つの謎、すなわちバーンススタイン自身はスコアの何割くらいの音符を書いて、残りの編曲を誰が行ったのかという疑問も興味深い。

しかし、この公演の最大の特徴は演出にある。オリジナルを再現したものだからだ。
この公演を観ている人は、初演時にタイムスリップする。舞台から、1950年代の匂いがプンプンする。当時の雰囲気を知っている人にとっては、十分に郷愁をそそるものだろう。
一方で、映画ではおそらくカットされた卑俗な表現も聞かれ、かえって若者たちの庶民的なパワーが伝わってくる。マリアとトニーのロマンティックな心のドラマは、完全にジェット団とシャーク団の対立の一部になってしまって、物語は若者たちの対立を軸に直進的に進行するから、印象は、ラブ・ストーリーと社会派劇の遠近法が効果的な映画とは相当に違う。ローレンツとすれば、21世紀のウエストサイドを世に問うたのだろう。ただ、現代の日本人にとって、プエルトリコ人とイタリア人の対立に、どれだけ感情移入できるだろうか。「トゥナイト」も立ち止まらずにどんどん進むから、聴衆は感傷に浸っている暇はない。
歌手は、どうこう言えるような知識はないけど、よく歌っていたと思う。ただ、私の席は2階の後方で、スピーカーからの音も聴くことになるが、やや(ホンの心もちだが)キンキンした。このあたり、エージングが進めば改善されるのかもしれない。

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