CATS

グリザベラ: 木村智秋
ジェリーロラム=グリドルボーン: 朴慶弥
オールドデュトロノミー: 米田優
アスパラガス=グロールタイガー: 飯田洋輔

制作・演出: 浅利慶太
振付: 加藤敬二、山田卓
劇団四季
(5月1日、横浜キャノン・キャッツ・シアター)

 私はキャッツの音楽は100回以上聴いていると思うが、舞台を見るのは初めてだ。ロンドンにいた時に観たかったのだが、切符の入手が困難で、果たせなかった。
だから、全てのダンスナンバーは諳んじるほどによく知っているが、舞台と観客が一体になった満席の劇場の雰囲気や、エネルギッシュな歌と踊りの楽しさは、舞台ならではのものだった。

ロンドン初演から30年、「キャッツ」が多くの観衆を魅了して感動させてきたのは、何にもまして、グリザベラが「メモリー」を歌って昇天する際にもたらされるカタルシスにあるだろう。ダンスナンバーの歌詞が、T・S・エリオットの詩を用いているのに対して、この「メモリー」は演出を行ったトレバー・ナンが作詞している。
原詞はこのようなもので、日本語訳ではなかなか訳出できないようなウェットな表現が印象に残る。例えば、「I was beautiful then」とか「And I mustn't give in」とかだ。
私は最初にこのミュージカルを全曲通して音だけで聴いたとき、よく分からない猫語の歌詞に非常に戸惑ったが、「メモリー」になったとたんに平易な英語で、「負けてはいけない。もうすぐ夜が明ける。そうしたら新しい生活が始まる。」と歌い出したところで、「ああ、これは薄汚い夜を越して、新しい夜明けを迎えようとする猫の物語なんだ」と知って、ジーンと感動したのを覚えている。

私がその時聴いたのは、オリジナル・ロンドン・キャスト盤だから、「メモリー」を歌っていたのはエレイン・ペイジだ。非常に感情のこもった歌で、今だにこれ以上の「メモリー」はないと思う。
本公演でグリザベラは木村智秋が歌っていて、声の力では小柄なエレイン・ペイジ以上で、一転して感情のカタルシスをもたらすようなものというより、エネルギッシュなダンスの延長上にあるものだった。

「キャッツ」のスタイルもまた、時代とともに変わるのだろうが、人が「キャッツ」を観に行くのは、どんな時代にあってもグリザベラの昇天を見に行くのだと思う。
こういうことは、音だけ聴いたのでは分からない。初めて舞台を見て、このミュージカルが現代人にとってセレモニーのような意義を持ったものだということを感じた。

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