クラシック音楽を生活の糧としている私が出会った演奏会、CDやDVDなど印象に残ったことを紹介をしていきます。
クラシック音楽のある生活
ニュー・イヤー・コンサート2005(ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)
ズビン・メータが指揮した今年のニュー・イヤー・コンサートはあまりまじめに聴かなかった。去年のマリス・ヤンソンスは尻上がりに楽しかったが、ノリがよすぎて最後は格調を失う寸前まで行った。来年はジョルジュ・プレートルが指揮するらしい。
ニュー・イヤー・コンサートを一番多く指揮したのはボスコフスキー以降では計11回のマゼールだ。ヨハン・シュトラウスとボスコフスキーとマゼールに共通しているのは、みなバイオリンの名手だということ-そう、ヨハン・シュトラウスは「1に歌、2に歌、3、4も5も全部歌」だ。バイオリンの甘いフレージングをいかにウィーン風に回して見せるかは、ニュー・イヤー・コンサートで毎年指揮者が受ける恒例の試験問題のようなものだ。それをボスコフスキー以降、一番見事にクリアして見せたのがアメリカ人のマゼールではないだろうか。
例えばマゼールがここでバイオリンをも弾いている「ウィーンの森の物語」。ここでバイオリンが随所に見せる絶妙なフレージングは思わず唸らせる。それに「狩ポルカ」で見せる天性のリズム感! それでいて音楽が節度を保って格調を失わないあたりのバランス感覚は、大家の風格さえある。もともとマゼールは弦楽器のフレージングに長けていて、私は実演でもCDでも、時に「この人は天才だ」と驚嘆する瞬間があった。こういう芸は誰にでもは出来ない。
2002年の小沢征爾のニュー・イヤー・コンサートはテレビの実況放送で見たが、正直言ってつまらなかった。一つ一つの音符が意味なく鳴っているようで、聴いていて空しかった。それに比べてここでは全ての音符に生命が吹き込まれていて、どの瞬間でもどの奏者の音からも充実した至福の幸福感を感じることが出来る。
私は別な年だが過去に一度だけウィーンで年を越したことがあって、大晦日の「こうもり」を見たその次の元旦の朝に、雪景色の中、列んで買った切符を手に楽友協会大ホールに駆けつけ、マゼールの指揮するニュー・イヤー・コンサートを聴いた。まさに世界一と感激したウィーン国立歌劇場管弦楽団より、その時のウィーン・フィルがマゼールのもとで更に磨かれた美しい音を奏でたのには本当にびっくりしてしまった(だいいち、オペラ・ハウスではあんなに間違うのに、なぜここでは一音もはずさないんだ!?)。
この2005年の演奏は過去のマゼールの指揮したニュー・イヤー・コンサートの中でも最高のものではないだろうか。こういう「至芸」とでも言うべきレベルがどうして可能になるのかを言葉で説明することは難しい。おそらく11回という数字は一つのポイントだろう。ウィーン・フィルも信頼を寄せるマゼールの指揮のもと、膨らみすぎず痩せすぎず、緩すぎず締まりすぎず、理想的なバランスで魅惑の音を奏でている。(2枚組)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )