R.シュトラウス&ドヴォルザーク(マイスキー&ギリロフ)



 「消えたフェルメールを探して~絵画探偵ハロルド・スミス」を渋谷の映画室(とても映画館とは呼べない)で見た後、次の予定まで時間があったので、特に何か買いたい目的があった訳ではないが、渋谷のタワーレコードに寄った。ここは平日は時々来るが、日曜日にはめったに来ない。すると、たまたまマイスキーのミニ・コンサートにぶつかった。

渋谷のタワーレコードのクラシック売り場では、ときどき土日の午後に、話題のCDを出した演奏家を呼んで、無料のミニ・コンサートをしている。しかし、マイスキーは特別の大物で、さすがに聴衆も多かった。無料だが、すぐ近くで演奏が聴けるし、普通のコンサートにはないトークがある。このときも、日本にもう30数回来ていることとか、アルゲリッチとの今後の演奏予定などを愛想良く話していて、気さくさがよくうかがえた。
しかし、演奏にはいると、さすがに集中力が強くて、音楽に没頭する様がよく分かった。演奏を終えた直後も、話していたときとは違う表情をして、決して無料の比較的少数を前にしたコンサートでも気を抜いていないような気がした。ドヴォルザークの小品、リヒャルト・シュトラウスの「明日の朝」など、近くで聴いたこともあって、そのきめ細かい感情表現に感銘を受けた。
このCDはその時に買って、引き続いて行われたサイン会で、盤面にサインをしてもらったものだ。握手にも応じていたのにはちょっと驚いたが、右手だからだろう。私もその昔チェロを弾いていたので、あやかろうと思ってミーハーになってしまった。

現在世界のチェリストでもっとも人気があるのが、このミッシャ・マイスキーだろう。この人のチェロは、まるでヴァイオリンのようによく歌う。実際、ヴァイオリンのように持っているのではないかと思うほどだ。反面、どっしりとしたチェロの落ち着き・重厚さといったものは求められない。表情付けも、非常にきめ細やかで、高い集中力、微妙な感情表現などに特徴がある。イスラエル系特有の、音楽の滑らかさ、音色の甘さもある。

このCDは、脈絡がないように見えて、実はシュトラウス、ドヴォルザークの同時代のチェリスト、ハヌシュ・ヴィーハンのために書かれた作品を中心にしている。
1曲目、シュトラウスにチェロ・ソナタがあるのは知らなかったが、ヴァイオリン・ソナタより更に若い頃、19歳の時の作品だ。でも、シュトラウスはモーツァルトにも負けないような早熟の天才だったから、聴き応え十分だ。ドヴォルザークの「ロンド」も、しっとりとした副主題などなかなかいい。シュトラウスの「明日の朝」は、ミニ・コンサートでもよかったが、デリケートな音楽作りに本当に惚れ惚れする。
録音もよく、ミニ・コンサートと同じ音がするし(当たり前だが)、2つの楽器の空間感もよく捉えられている。

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シベリウス「アイノラの音楽の夕べ-バイオリン小品集」(ペッカ・クーシスト:バイオリン他)



 シベリウスは1904年、39歳の時、創作上の理由からヘルシンキ市街を離れ、同市郊外に山荘を建てて妻アイノと娘たちとともに移り住む。以後、第3交響曲以降の作品はここから生まれることになる。この山荘(「アイノラ山荘」と呼ばれる)でのシベリウスの曲は、音楽的な密度感を高めるとともに内省的な性格を強めていった。このCDに収められた曲は全てこの時代に作られたもので、場所もこのアイノラ山荘、ピアノもその山荘でシベリウス自身が弾いたというスタインウェイを用いて録音されている。

シベリウスは若き日にはバイオリニストを目指したというが、そのバイオリンのための小品は、意外なほどに簡素で親密な感じの曲が多い。20世紀の偉大なシンフォニストのもう一つの側面と言えるだろう。ここに収められているのは作品78、81、106、115、116の小品集で、どの曲もそのような性格を持っている。
控えめなバイオリンの奏法、古いピアノのくすんだ音色、そしてアイノラ山荘の残響の全くない録音により、このCDは異常なほどに静かだ。最初の作品81は舞曲集であり「マズルカ」「ロンディーノ」(これが一番有名か?)など耳に馴染む旋律を持っていて聴きやすい。そして次の78は舞曲から離れた曲集だが、第2曲「ロマンス」などやはりしっとりとして聴かせる。作品番号が100を超えるとさすがに内省的な性格は更に強まり、こちらも聴く頻度は落ちてくる。
ただこのCDの異常な静かさは、同時に聴き手をアイノラ山荘のおそらくは非常に静かな環境へと誘ってくれる。この中で、第5交響曲フィナーレの金管楽器の壮大な大音響や、第7交響曲の最後の協和音への長い導音が構想されたと思うと感慨もひとしおだ。

なおこのCDのブックレットにはアイノラ山荘でのシベリウス一家の写真が何枚か掲載されていて、五女をもうけた父親シベリウスの私生活での表情(クールでカッコいいんだ、これが!)を垣間見ることが出来る。今年はシベリウス没後50年ということでフィンランドのマイナー・レーベルONDINE(社員6人という)から多くのCDが発売されている。どれをとっても出来がいいし、値段も安くなっている。シベリウス・ファンは見逃せない。

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エルガー「バイオリン・ソナタホ短調&小品」(シモーネ・ラムスマ:バイオリン、三浦友理枝:ピアノ)



() エルガーのバイオリン・ソナタとバイオリンとピアノのための小品を11曲収めている。バイオリンのシモーネ・ラムスマはオランダ出身の新人で、2004年ベンジャミン・ブリテン国際コンクールで優勝し現在までに多くのオーケストラとの競演歴がある。このCDでは1734年ストラディバリウスを弾いている。それよりも日本人にとっては競演しているピアニスト三浦友理枝が注目されるだろう。この組み合わせは2人が共にロンドンの王立アカデミー・オブ・ミュージックに在籍していたことによると思われる。

ラムスマのバイオリンは伸び伸びしていて明るく、聴いていて気持ちがいい(性格もいい?)。開放的な弾き方とストラディバリウスの張りがありながらややすくんだ深みのある音色はそれなりに楽しめる。ただ平凡とは言えないまでも、完成途上だ。

それに対して三浦友理枝のピアノは全く非凡だ。この人は、音楽が内側から湧き出ていて、そのため出てくる音楽に自然な勢いがある。集中力が非常に強く、ベースとなるリズムがしっかりしている(左手の制動が効いている)ので、ピアノ・パートだけを聴いていると吸い込まれるような気持ちになり、感動する。それは「朝の歌」や「愛の挨拶」などの小品でもそうだ。こういう第一級の水準にあるピアノにはめったに出会えない。(ただ、このCDの録音は悪くはないのだがピアノ・パートがもう少しクリアーだったらと思う)。
インターネットのホームページには、外国での演奏会の帰りにおばあさんに車で送ってもらった時に、「素晴らしい一時をありがとう」と感謝され、「私の生きていく道ははこれだ!」と思ったことが語られている。

世界の舞台で活躍する日本人といえばバイオリニストが多かった。ようやくここにきてクラシックに限らずジャズの分野でも、世界で通用する日本人ピアニストが出てきている。この人のピアノも世界の多くの人々を感動させるだろう。(3つ目のハートマークはピアノリサイタルとして見たときです:-)

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