
「天の国の王様」
私にとっては、聖域の聖者と、この王様が、物語の二大主人公と言ったところです。
実を言うと、王様は、物語の中では最も特殊な存在です。月の世にも、日照界にも、また上部にも、彼と同じ種族はおりません。彼の正体を知っているのは、聖者のみですが、その聖者すらも、彼がなぜ月の世の天の国というところにいて、その王様をやっているのかは、知りません。
それを知っているのは、本人と、多分、神のみでありましょう。
かつて彼が、国の端の岬に立ち、寂しそうに歌を歌っていたのは、遠い故郷と、なつかしい同胞たちのことを、思っていたからでしょう。そこはきっと、彼がいつも夢に見る、あの雲の原にとてもよく似たところであるに違いない…。
彼は、神に何かの使命を与えられてそこにいるのですが、いつか、その使命が終われば、きっと、故郷に帰ってゆく。そのとき、人々は何を思うだろう。
彼が誰だったのかを、初めて知って、人々は、何を思うだろう。