8 クリステラの思い出
ヨーミス君とアメット先生と子どもたちは、ファンタンを探す。グスタフも途中から参加する。椎の木の森を、ファンタンを呼んで探し回る。村人もファンタンを探した。だがファンタンは見つからない。
ファンタンがいなくなって、初めて、村人たちはファンタンが本当にいたことをはっきりと自覚した。風がさびしい。あの見えないけど暖かい気配がどこにもない。村人たちは悲しくなった。
椎の木の森が汚れはじめた。ファンタンの祠目当てで森に来た観光客が、森を荒らし始めたのだ。きれいな花があちこちで根こそぎとられてしまう。森は踏み荒らされて、草が枯れ始めた。森で一番大きな椎の木の、大枝が折られた。落ちたドングリを変な虫が食い始めた。
クリステラは、ティペンスさんの病院で眠っていた。意識がとぎれがちな日々がつづく。ティペンスさんは町の病院に移ることを進めたが、クリステラは村を離れたがらない。ファンタンを取り戻してと、うわ言のように言う。ティペンスさんは、そんなクリステラを大切に看病した。
実は、若い頃、ティペンスさんとクリステラは、恋人だったことがあったのだ。けれどもクリステラは、両親が亡くなって独りぼっちになったとき、都会の親戚を頼って村を出て行った。都会での暮らしは、とてもつらかったらしい。クリステラは、ほんとうにつらい目にあって、一時期は、女の人にとって、一番つらい仕事をしていたことがあるらしい。ティペンスさんは風の便りに聞いて知っていた。若い頃、臆病で、彼女を助けられなかったことを、後悔していた。
ある日、クリステラが目を覚ました時、ティペンスさんは思い切って、クリステラに長年の思いを告げた。今も好きだと言った。そうすると、クリステラは、ティペンスさんの話を聞いているのかいないのか、思い出話をした。
「ずっとひとりぼっちだったの。誰も助けてくれなかったから、いろんな仕事をしたの。つらかった。恨み言ばっかり言って、いいことなんか何もなかったの。都会の暮らしがほとほといやになって、もう死のうと思って、ティルチェレ行きの列車に乗ったのよ。そしてね、駅について、駅を出た時だった。…どんぐりが、降ってきたの。まるで、雨みたいに、たくさん。ぱらぱら、降ってきたの。びっくりしたわ。ファンタンは、わたしを忘れていなかったの。覚えていてくれたの。わたし、うれしかった。親に会えたよりも、ずっとうれしかった。…だからわたし、後の人生を、ファンタンのために使おうと思ったの」
ティペンスさんは優しい目で、クリステラを見つめた。
その頃、教会では、グスタフが、奇妙な発見をしていた。
(つづく)
ヨーミス君とアメット先生と子どもたちは、ファンタンを探す。グスタフも途中から参加する。椎の木の森を、ファンタンを呼んで探し回る。村人もファンタンを探した。だがファンタンは見つからない。
ファンタンがいなくなって、初めて、村人たちはファンタンが本当にいたことをはっきりと自覚した。風がさびしい。あの見えないけど暖かい気配がどこにもない。村人たちは悲しくなった。
椎の木の森が汚れはじめた。ファンタンの祠目当てで森に来た観光客が、森を荒らし始めたのだ。きれいな花があちこちで根こそぎとられてしまう。森は踏み荒らされて、草が枯れ始めた。森で一番大きな椎の木の、大枝が折られた。落ちたドングリを変な虫が食い始めた。
クリステラは、ティペンスさんの病院で眠っていた。意識がとぎれがちな日々がつづく。ティペンスさんは町の病院に移ることを進めたが、クリステラは村を離れたがらない。ファンタンを取り戻してと、うわ言のように言う。ティペンスさんは、そんなクリステラを大切に看病した。
実は、若い頃、ティペンスさんとクリステラは、恋人だったことがあったのだ。けれどもクリステラは、両親が亡くなって独りぼっちになったとき、都会の親戚を頼って村を出て行った。都会での暮らしは、とてもつらかったらしい。クリステラは、ほんとうにつらい目にあって、一時期は、女の人にとって、一番つらい仕事をしていたことがあるらしい。ティペンスさんは風の便りに聞いて知っていた。若い頃、臆病で、彼女を助けられなかったことを、後悔していた。
ある日、クリステラが目を覚ました時、ティペンスさんは思い切って、クリステラに長年の思いを告げた。今も好きだと言った。そうすると、クリステラは、ティペンスさんの話を聞いているのかいないのか、思い出話をした。
「ずっとひとりぼっちだったの。誰も助けてくれなかったから、いろんな仕事をしたの。つらかった。恨み言ばっかり言って、いいことなんか何もなかったの。都会の暮らしがほとほといやになって、もう死のうと思って、ティルチェレ行きの列車に乗ったのよ。そしてね、駅について、駅を出た時だった。…どんぐりが、降ってきたの。まるで、雨みたいに、たくさん。ぱらぱら、降ってきたの。びっくりしたわ。ファンタンは、わたしを忘れていなかったの。覚えていてくれたの。わたし、うれしかった。親に会えたよりも、ずっとうれしかった。…だからわたし、後の人生を、ファンタンのために使おうと思ったの」
ティペンスさんは優しい目で、クリステラを見つめた。
その頃、教会では、グスタフが、奇妙な発見をしていた。
(つづく)