世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ホロフェルネスの首を斬るユディト

2011-10-15 10:32:17 | アートの小箱

(「ホロフェルネスの首を斬るユディト」アルテミシア・ジェンティレスキ)

少し前にも、キリスト教絵画の世界では、男性が無残に殺されるという図が多いと書きましたが、これもその一つです。出典は旧約聖書外典のひとつである「ユディト記」から。

ユダヤの町ベツリアがアッシリアの軍に包囲されたとき、この町に住む美しい寡婦ユディトは町を救うためアッシリア軍の司令官ホロフェルネスのもとに飛び込む。彼女の美しさにホロフェルネスは気を許し、彼女を酒宴にまねく。ユディトはその夜、泥酔して眠るホロフェルネスの首を彼の短剣で斬り落とし、夜の闇にまぎれ、殺した男の首を持って町へと逃げ去る。司令官を失ったアッシリア軍は動揺し、ユダヤ軍の反撃のもとベツリアから去ってゆく。

こうしてユディトは町を救ったのですが、この話をもとにした絵画は多くの画家によって描かれています。中でもこのアルテミシア・ジェンティレスキの描いたユディトの図は見るものがぞっとするほど、凄惨です。

男の髪をつかんでしっかりと押さえながら、首にナイフを入れてゆく。大動脈から躍り出る血しぶき、短剣を持つユディトの手のゆるぎない力強さ。

画家アルテミシアは、画家としての成功は手に入れましたが、若いころに、絵画の師によって何度も辱めを受けるという、耐えがたき経験がありました。彼女はそれを訴えましたが、それも返って彼女を辱めることになっただけで、男は無罪となり解放されました。

アルテミシアはのちに結婚していますが、この絵をみると、男性に対する強い怨念を感じざるを得ません。よほどつらかったのでしょう。憎かったのでしょう。彼女の生きた時代には、女性はかなり低い立場にあったのです。おそらく、彼女が経験したようなことを経験した女性は、たくさんいたでしょう。男性は、古い古い時代から、こうして、女性を馬鹿にしてきたのです。

現代でも、性的被害にあった女性の苦しみは、アルテミシアの時代とそう変わってはいません。その男を、殺したいほど憎いと思うのは自然な感情です。それをやった男は、女性の心身に、洗い落とせぬ屈辱のあとを残していったのです。

わたしは思う。男性は、こういう女性の屈辱的経験に対して、どういう思いを持っているのか。女性に屈辱を与えた男はもちろんのこと、女性に触れたことすらない男性に対しても、聞いてみたい。長い長い間、女性が、このような屈辱にどれだけ苦しみ、耐えてきたかについて、男性はどう思っているのか。

答えられる人がいるのなら答えてほしい。ことこのことに関しては、男はだれひとり、何も語ったことがないのです。





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