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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ガラスのたまご・4

2015-02-05 06:37:34 | 瑠璃の小部屋

★手品師さんの悩み

詩人さん、画家さん、手品師さんは、高校時代からの友達である。何となくうまがあって、学校を卒業しても連絡を取り合い、定期的に会ってきた。

今日はその、三人が行きつけのカフェで会う日。仕事の一番忙しい手品師さんの休みに合わせて、二人がスケジュールをあわせてくれた。

手品師さんは、三人の中で、唯一、社会的成功を手に入れている人である。まだ若手だが、人気も高い。もちろん、収入も高い。手品師さんはそれを、少し、友人に対して遠慮している部分がある。画家さんはいまだに売れない画家だし、詩人さんは無職で病気療養中。自分だけ、若くして突出してしまったことを、友人たちに自慢してないか、態度に少しでも偉そうな感じが出てないか、手品師さんはいつも自分に言い聞かせている。この二人の友達だけは、一生失いたくないからだ。

都会にある彼のマンションの一室には、リビングの壁に、画廊を通して内緒で買った画家さんの風景画が飾ってある。本棚にはもちろん、詩人さんの詩集もある。手品師さんは、詩人さんが詩集を出した時、それを三〇冊も買って、仕事関係の人に配ったことがある。でもそんなことは、ふたりには何も言っていない。何となく、傲慢な感じがするような気がして、二人には知られたくないのだ。

仕事から、疲れて家に帰ってきたとき、画家さんの絵を見ると、なぜだかほっとする。暇なときに詩人さんの詩を読むと、ああ、自分と同じ仲間がいると、感じる。手品師さんは、きらびやかな世界にいるけれど、そこは、本当に、みんなが孤独な世界なのだ。だから。

ともだちだけは大切にしたい。どんなに忙しくても、一年に一回くらいは、二人に会いたい。

ともだちとはいいものだな。


★画家さんの悩み

画家さんの悩み。それは…

かっこいいことです。(ふっ)

もてることです。(なぐってもいいです。)

でも本人にとっては、とても真剣な悩みなのだ。

今までにも、何度か女の子のことが原因で辛い目にあったことがある画家さんであった。画家さんは女性がとっても苦手なのだ。いろいろと面倒くさくて、女の子と遊んでいるよりは、気の合う男友達と駄弁っている方がいいと言う人である。いまだにね。

実は画家さん、ある画廊の協力の元、今度、個展を開くことになった。こちらからもいくらか出費しなければならないが、条件は良い。場所もかなりいいところだ。それで、勇んで画廊に作品を持っていったりして、いろいろと準備していたのだが…

途中で気がついた。どうやら画家さん、画廊の女主人にほれられてしまったらしい。

これはまずい。と画家さんは思う。今更個展をキャンセルするわけにはいかないし、自分としても個展はぜひやりたい。けれど、なんだかんだで、女性と妙なことになってしまうのは困る。どうすればいいか。

カフェへの道を歩きながら思い浮かぶのは、やはり詩人さんの顔であった。やっぱりあの暇人に頼んで、今度から画廊についてきてもらおう。カフェのコーヒー券もたまっていることだし…

ちなみのこのコーヒー券、カフェの常連によく配られるのだが、詩人さんや手品師さんは一枚しかもらえないのに、なぜか画家さんだけいつも三枚もらえるのだ。

ともだちとはいいものだな。


★詩人さんの悩み

詩人さんの悩みは、たくさんある。無職であること、心療内科に通院中であること。いろいろあって、まともに職につけないこと。

一応詩など書いてるし、詩集も出版していて、ある方面には、ペンネームがかなり知られている。けれども、実際のところ、彼の社会での身分は、家事手伝いなのだ。

詩人さんは気が弱すぎるのだ。他人に良い顔ばかりしてしまって、率直に自分の意見を言うのが苦手だ。それで、仕事で失敗ばかりして、心のバランスを崩し、どうしても出社できなくなり、会社を辞めた。もう何年前になるか、あの頃は詩人さんにとってどん底だった。

自分が、この世界にいる必要のない人間だと言う気がして、いない方がずっといいような気がして、生きているのが苦しかった。病院でもらった薬を飲みながら、何とか心を安定させようとしていたけれど、日を重ねるにつれ、心はカビで膨らんだ蜜柑のように、重くなってくる。

ある日、詩人さんはとうとう、自殺することを決めた。自分をこの世界から消してしまおうと考えたのだ。頭の中に、近くにある川と、よくその上から人が飛び込むと言われる古い橋が浮かんだ。今から思うと、何かお化けのようなものにとりつかれていたのかもしれないと思う。詩人さんは、ぼんやりと上着をひっかけながら、その橋に行こうと玄関に向かったのだ。

玄関先の電話が鳴ったのは、そのときだった。何気なく受話器を取ると、画家さんの勢いのいい声が耳に飛び込んできた。

「コーヒー券あるんだけど、おまえヒマ?モデルやってほしいんだけど」

詩人さんは、泣いていることに気がつかれないように、できるだけ明るく声を上げて答えた。

「ああ、いいよ。ただし上着以外は脱がないからね」

「脱ぐな、馬鹿野郎」

そして詩人さんは、玄関を開けて、町に出かけた。川の方ではなく、画家さんの家に向かって。

今でも、時々画家さんが言う。「お前が一番先に死にそうだな。おれもずいぶんだけど」

すると手品師さんは、少し苦しそうな顔をして、詩人さんを見つめる。知っている。手品師さんは、画家さんよりずっと、わかるのだ。何かがあったってこと。

詩人さんは笑って、画家さんに答える。

「そんなことはないよ。ぼくみたいのが、けっこうしぶといんだ」

あのとき、電話があったのは、偶然じゃないかもしれない。

とにかく、詩人さんはまだ生きている

ともだちが、いてくれたから、生きている。

(つづく)




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ガラスのたまご・3

2015-02-04 06:22:05 | 瑠璃の小部屋

★手品師さん、お仕事中

手品師さんのお仕事はもちろん、マジック。舞台の上で華麗にマジックをしてみせます。彼は高校を卒業してすぐ上京して、師匠について学び、若いとこから頭角を現して、今は結構売れっ子のマジシャン。テレビに出たこともあります。

カードやハンカチを使った小さな手品から、大きなボックスを使った大掛かりな手品まで、見事にこなす。ルックスの良さもあって、かなり売れてます。けれど、彼はそんなものに溺れない。好きなのはマジックの練習。柔らかに指を動かすこと。マジックのアイデアのために、頭を柔らかくすること。

今日も手品師さんは舞台でお仕事。
銀のスーツを着て、ハンカチを手にまずは簡単なマジックから。観客が彼の手元を真剣に見ています。手品師さんが指を動かし、呪文を唱えると、ハンカチが一瞬炎に変わって、そこから3羽の白い鳩が。

これくらいは軽いね。


★画家さん、お仕事中

画家さんのお仕事はもちろん、絵を描くこと。それだけでは食べていけないので、バイトもしてますけどね。今は自宅のアトリエで、花瓶に挿した黄色い薔薇の絵を描いています。

どうやら、誰かに、花の絵を描いてくれと頼まれたらしいです。こういう仕事は、かなりあるらしく、画家さんにとって、よい収入源ともなっております。時には、ペットの絵や子供の絵を描いてくれという注文もあるらしいです。

画家さんはかなりうまく、写実的にも、印象派っぽい絵も、時にはルネサンス期の宗教画っぽい絵も描けます。そこは、お客さんの注文にそって、器用にできるそうです。こういうことには、器用なんだな。油絵だけでなく、テンペラ画も描けるそうだ。

でも本人が好きなのは、アンリ・ルソーと、ゴッホだそうです。自分らしい絵を描こうとすると、なんとなく、ルソーやゴッホに似て来るらしい。今描いてる黄色い薔薇の絵も、どことなくゴッホのひまわりに似ている。

あ、でも彼は、棟方志功だけは絶対認めないそうだ。大嫌いなんだそうです。なんでだか知らないけど。

描くのは主に風景や静物画。人物画も好きなんだが、モデル代が高いので、なかなか描けないらしい。なので、ときどき、詩人さんを、行きつけのカフェのコーヒー券30枚で、三時間ほどモデルとして雇うらしい。そのとき詩人さんは、「上着以外脱がないからね」と言って引き受けるらしいです。

ともだちとはよいものだな。


★詩人さん、お仕事中

詩人さん、PCを見ながら真剣な顔してます。

彼は今無職で、病気療養中。まあ家事を手伝いながら、詩を書くという毎日を送ってます。詩集を一冊出版しており、数は少ないですが、ファンはいます。で、彼は今、ある詩の全国誌から、原稿依頼を受けて、そのために詩を書いてるとこなんです。詩人さんにとっては、わずかながらも原稿料が入る、大切な仕事。詩集を出してから、ときどき、こういう仕事も入るようになった。

けれども、詩人さんには悩みがありまして。彼が、詩を全国的な詩の専門誌に発表するたびに、ある遠くの詩人から、詩人さんの詩に対する批評を書いた長い手紙やはがきが届くのだ。それも、なんというか、読むととても胸が苦しくなるような内容。一見ほめられているようで、全部を否定されるような。そんな批評なんです。

この仕事をすると、またあの人から手紙が来るなあ、なんて思うと、心も重くなる詩人さんなのです。

詩人の世界にも、いろいろなことがあるらしい。人間とはつらいな。

こういうことを、画家さんに相談すると、一言で、「そんなものは破ってすてろ。気にするな」という。

手品師さんは、ただ笑って、何も言わない。多分、それくらいのことは、当たり前だと言う感じなんだと思う。

でも詩人さんは、そういうこまかいとこ、気にするたちで。また手紙が来るなと思うと、心が暗くなる。

でもとにかく、原稿は書かなくては。

で、詩人さんは、批評家によく言われるような、甘い夢のような詩を書くわけだ。だって、そういうのしか、書けないから。結局は、批評家に何を言われたって、詩人さんは詩人さんの詩しか書けない。

で、詩人さんは、今日もワードで詩を書くわけです。

(つづく)

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ガラスのたまご・2

2015-02-03 06:37:32 | 瑠璃の小部屋

★ある日

詩人さんと画家さんと手品師さんは、高校時代からの友達です。学校を卒業して社会人になっても、定期的に行きつけのカフェで会うことにしています。今日はその日。大人の男が三人、昼間からカフェに集まって何話してるんでしょうね。

詩人さんは、三人の中では、一番生命力の弱い人です。学校出て会社勤めしたものの、正直すぎて、人づきあいが下手で、人間社会についていけなくて、心のバランスを崩して、会社をやめ、今は自宅で病気療養中。髪を女の子みたいに長く伸ばしてるのはそのせいです。画家さんも、絵だけでは食べていけなくて、アルバイトなんかしてますが、詩人さんはそれすらできないんですよ。弱すぎるんだ。

若いころから詩を書いていたので、一応詩人として、詩集を発表しています。きれいな詩を書くそうで、ファンはいるそうですが、あまり売れてはいません。まあ、詩集は一部の有名詩人を除いて、そう売れるものじゃないですが。

画家さんはこの詩人さんのことが一番心配だそうです。いつも、「おまえは早死にしそうだな」というそうです。そうすると詩人さんは「そんなことはない。意外にぼくみたいのが、しぶといんだよ」というそうです。そうすると手品師さんは、何も言わずに笑って、なんか手の中に突然、魔法みたいにカードを出して、テーブルの上に並べて簡単なマジックを始めたりする。ほかのふたりはじっとそれを見てる。

だまっていても、なんだかお互いの気持ちがわかるような気がする。
午後のカフェのひとときは、なんだか幸せだ。日差しも温かい。

(つづく)




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ガラスのたまご・1

2015-02-02 06:22:35 | 瑠璃の小部屋

これはかのじょが最後に残した物語である。ヤフーブログに連載していたものを、ところどころ修正してピクシブに小説として発表していたものだ。てんこではなく、詩島瑠璃という作家のキャラクターを自分でつくって、それになりきって書いたという感じのもので、読んでみたら、他の作品とはずいぶん趣が違うことがわかるだろう。瑠璃はてんこよりぶすで明るく少々やんちゃな性格という設定だ。これもずっと隠しておくのはもったいないと思うので、何回かに分けて発表していく。



  ☆☆☆☆☆



★登場人物

・詩人さん

詩人さんの住む町には、ケヤキ並木のある石畳の舗道があります。秋には、ケヤキの落ち葉を眺めながら、その舗道を歩いて行きつけのカフェに向かいます。詩人さんは腺病質で細っこい人。神経が繊細すぎて、社会になじめず気持ちを病んでいる。それでも何とか生きようとしている。

詩集を一冊出版していて、この世界ではかなり名前を知られているんですが、生きるのが下手で、つきあいが下手で、壁にぶつかってばかりいる。
でも友達がいてくれるので、なんとかがんばっています。

身長172センチ。


・画家さん

画家さんは詩人さんのお友達。

彼は背が高くて足がすらりと長くて、すごくかっこいいんだけど、曲がったことが大嫌いで、間違ったことを見ると我慢できず、くっきりとそれは間違いだと言うので、とても損をしています。彼を理解してくれる人は少なくて、いい絵を描くし、もっと認められてもいいと思うんだけど、なかなか認められない。

不器用なんじゃない。こんなことで器用になれるほうがおかしいんだ。そういう人です。でも、いつもそれで、貧乏くじを引くんだ。わかってても、自分はやめられないよね。
優しい人だけど、怒ったら怖いんですよ。

身長190センチ。


・手品師さん

詩人さんと画家さんのお友達です。
彼は、どちらかというと人付き合いが上手で、かなり仕事もうまくいっています。マジックの腕もなかなかで、大きな舞台にも出たことがある。彼も、正しいことは正しい、間違っていることは間違っているということが、性根に座っていて、画家さんのように、ちょっときついことを人に言ったりすることもあるんだけど、人柄なのか、それがあまり悪いように受け取られないのだな。

でも、人の世で、仕事をしていると、やはりつらいこともあるのか、ときどきふと、彼は人前からいなくなることがあるんだ。そして、心配した誰かが探しに行くと、彼は、近くの海辺とか、家の中の練習室などで、ひとりでマジックの練習に熱中している。多分、人には言えない苦しいことを、それで何とかしているんだと思う。

器用だと言ったけど、ほんとは画家さんのように、器用になるなんてできないのかもしれない。

(つづく)




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