「千里十里」が開くまで市街散策、と思ったところで予想外の事態が発生。駅のすぐ近くにある酒屋の袖看板に吸い寄せられると、店先には「関東煮」の赤提灯が。角打ちかと思い中をのぞいたところ、そこにはカウンターと短冊の品書きが並んでいました。そうです、昼から呑める大衆酒場が和歌山の駅前にもあったのです。ここで逢うたが百年目、これは何を置いても飛び込むしかありません。その「多田酒店」改め「多田屋」の暖簾をくぐります。
一周すれば30人近くはかけられる長いコの字のカウンターを左に置き、奥は厨房と小上がり、二階に宴会場を設けた造りは、まさに正統派の大衆酒場です。しかし、「多田酒店」の袖看板と玄関の造りに、酒屋の面影が色濃く残っています。おそらくは、かつての酒屋を模様替えして呑み屋に変えたのでしょう。それも、店内の古びようからしてつい最近のことではなさそうです。
カウンターの内側にはグリル、フライヤー、板場とおでん舟が機能的に配置され、頭巾をかぶったおばちゃん達がきびきびと立ち回る様子が様になっています。短冊の品書きは刺身、おでん、串焼き、天ぷら、一品料理にご飯もの麺類定食類と何でもござれで、昼間からまったり呑んでも、昼食がてら軽く一杯引っかけてもよし。どれをとっても安くておいしいのは、関西の大衆酒場の通例から推して知るべしといったところでしょう。こんな酒場がそこかしこに散らばっているのですから、関西の酒文化は偉大だと改めて思います。
特筆すべきは、酒屋を出自とする関係からか、全国各地の地酒が右手にずらりと並ぶことです。流行の銘柄よりも古くからの定番を中心とし、地酒は都会で聞き慣れないものを多数揃えるところは、昨日訪ねた岐阜の酒屋と同じで、一合の蛇の目になみなみ注いで450円均一という良心価格です。関西の大衆酒場というと、肴が主役で酒は灘の安酒というのが相場のところ、この店における酒の充実ぶりは、日本橋の「
初霞」と並ぶ双璧といってもよいでしょう。
よくよく聞けば、朝は九時から開いているとのことです。これなら朝食代わりにここで一杯引っかけ、近辺で一日活動してから「千里十里」で呑み直せば完璧ではないでしょうか。今までこの店を素通りしてきた自分は、随分と損をしてきたことになります。
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多田屋
和歌山市美園町5-11-18
073-436-4613
900AM-2200PM(日祝日 -2100PM)年末年始休業
太平洋・高野山
おでん三品
串焼き二品
天ぷら二品