日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

最後のランチ(2)

2013-10-30 22:43:50 | B級グルメ
今の職場を離れるとき、「最後の晩餐」ならぬ「最後のランチ」に選びたいのは洋食の「津つ井」で、最終週に訪ねる他の店も決まっていると申しました。本日は最後から二番目の店について綴ります。

今では信じられない話ながら、一昔前の自分は飲み食いに何の頓着もなく、昼食といえば牛丼、ほか弁、Mcを来る日も来る日も使い回していました。昼食に千円出せるようになったのは、前の職場に移って懐具合に最低限の余裕ができ、なおかつ職場の連中と連れ立って昼食をとるのが習慣化してからです。これにより、ジャンクフードに慣れきった味覚が、多少なりとも洗練されていったわけです。これに対し、ランチに1500円出せば相当いいものがいただけると知ったのは、今の職場に移ってからでした。そのことを知るきっかけになった店こそ、本日紹介する「鮨兆」です。

赤坂の目抜き通りに面した古い雑居ビルの三階、10席少々のカウンターを中心にテーブルを二つ置いた店内は、お客の一人一人に目を配るには適度な広さといったところでしょうか。きれいに拭き上げられた白木のカウンター、それに負けず劣らず分厚い俎、背後に設えた扉付きの食器棚など、店の造りは質実剛健としています。つまり、目玉が飛び出るような高級店ではないにしても、修行を重ねた板前が仕事をする由緒正しい店ということで、少なくとも日頃から通っている呑み屋と同列にはできません。ただし、この私が通う店ですから、少なくともランチに関する限り決して高額ではなく、満足感を考えればむしろ非常にお得といえるのがこの店なのです。
お昼の品書きは「おまぜ」と呼ばれるちらし寿司のみです。しかし、店内のどこにもそのような品書きはありません。要は、一つしかない以上、いちいち品書きにはしないということで、「普通」「多目」「大盛」の中から盛りだけ選ぶというのがここでの注文の仕方になります。たとえばにぎりのランチというと、8貫10貫あっても目一杯腹が満ちることはないのが常です。しかし、ここのちらしの盛りは非常に気前よく、人並み以上の大食である自分も「多目」で十分腹が満たされます。しかも単に量だけを売り物にしているわけではなく、味わいについてもさすがは赤坂の老舗というべきものです。
四角い漆塗りのちらし桶に味付けしたシャリを盛り込み、鮪と鰤を中心にいか、白身、光り物を混ぜ合わせ、いくら、海老、とびっこ、胡瓜に玉子焼きを散らすのがここの「おまぜ」です。こんもり盛られた出で立ちは美しく、なおかつ食べ応えがありそうに見え、当然ながら期待を裏切るはずもありません。加えて秀逸なのは、白出汁、赤出汁とお椀が二杯出ていずれもおかわりでき、さらにはデザートに葛餅、お土産にどら焼きまで出ることです。これらを含めての1500円なのですから、星の数ほどある赤坂の飲食店の中でも、値頃感に関しては一番と言い切りましょう。

いくらお得といっても、昼食に毎日1500円かけられるほど金が有り余ってはいないのも事実で、さすがに毎週通うわけにはいきません。しかし、たとえば月に一回、ほんの少し贅沢していただくここのランチは、日常生活における楽しみの中でも、間違いなく最上位に数えられるものの一つです。しかもありがたいのは、土曜も全く同じ値段と内容で営業していることで、やむなく土曜出勤を強いられたときなどは、ここのランチをせめてもの埋め合わせとして重宝してきました。職場が替わっても、自転車ならば十分に行動圏内ではあり、「津つ井」と並んでこれからも世話になりたいと思う名店です。

鮨兆
東京都港区赤坂3-6-10 第3セイコービル3F
03-3585-7917
1130AM-1400PM/1730PM-300AM(土曜 -2330PM)日祝日定休
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