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これは難しい(日債銀事件上告審判決)

2009-12-08 01:55:22 | 指定なし

 日債銀の当時の会長,頭取,副頭取に対する有価証券報告書虚偽記載罪の事件で,最高裁が,有罪とした2審東京高裁判決を,職権で破棄して,高裁に審理を差し戻した。


 


 この事件は,結論的には,粉飾決算見え見えという背景があって,したがって,客観的にみれば,虚偽であることが明らかな有価証券報告書ではあるが,それを,当時の実務慣行に,表面上従ったような形で作成したことが,「故意に」虚偽の報告書を作成した罪にあたるかどうかが問われた事件であった。


 


 判決でも触れられているが,元々,不良債権の償却は,法人税法の通達によって,無税償却ができるものとできないものに振り分けられており,多くは,これに従って, 償却の処理がされてきた。当然ながら,税法では,税金が少なくなるので,できるだけ無税償却させない方向で,基準が定められている。


 


 ところが,バブル崩壊後の不動産価格の下落で,金融機関の経営が悪化している状況下では,頼厳格に貸出金の回収可能性を査定する必要が生じ,当時の大蔵省が,資産査定通達を出して,貸出金の査定を厳しく,活客観的基準でする方向を打ち出したのが,問題となる平成9年から10年にかけての時期であった。


 


 大蔵省の資産査定通達は,金融機関の経営の実情を,粉飾なしに明らかにしようとするものであるから,どちらかといえば,手堅い査定をすることが基本にあり,ここに,税法の基準とは乖離が生じ,そのことにより,実務的にも混乱が生じていて,必ずしも,大蔵省の新通達に完全に従って,資産査定がされていたわけではないという状況もあった。


 


 まあ,極端なたとえをすれば,今まで右側通行だったのが,突然左側通行になったようなもので,考え方の方向が逆なだけに,混乱が生じるのは,ある程度やむを得ないことだったといえるだろう。


 


 その中で,日債銀の頭取らは,新基準に従えば,本来は償却しなければならない不良債権であることを,公表しなければならなくなり,日債銀の経営悪化を白日の下に晒すことることから,新通達に完全に従うことなく,従来の税法の基準に何となく寄りかかりつつ,有価証券報告書を作成した,ざっといえば,そんな事実関係であると考えられる。


 


 そういう事情が背景にあって,やっていることはけしからんのだが,虚偽の有価証券報告書を作成する「故意」があったかどうかが問われたのが,その刑事事件であったといえる。


 


 1,2審は,新通達こそが,唯一の公正な会計慣行であり,これに従うことが絶対的に要求されていたとして,それに下側大意上は,故意があって有罪としたが,上告審判決は,新通達が曖昧なところを残すもので,種々の解釈の余地があったし,実際にも,それが文言どおりに運用されていないという実務の実情もあった事実があることから,そのような状況下では,必ずしも故意があるものではないとしたものと考えられる。


 


 その上で,償却を認めない,すなわち,不良債権の範囲をできるだけ狭めようとしている,旧来の税法基準に照らしても,日債銀の不良貸出先への債権が償却対象であったかどうかを,差し戻して審理させることにしたもので,それでも不良債権にあたるのであれば,そこで初めて有罪とすべきであるとしたものということができる。


 


 要は,刑法の適用は,慎重であるべきであり,故意の認定についても,まあ,これくらいは許されるかな,他の連中もやっているし,という程度では,(多分刑法犯では無理だろうが,行政法上の犯罪であるがために)故意は認め難いとしたものということができよう。


 


 まあ,今回の判例が,どこまで射程距離があるかは,なかなか難しいところがあるように思える。


 



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