『 ただいつはりに 』
よそながら わが身に糸の よるといへば
ただいつはりに 過ぐすばかりなり
作者 くそ(久曽)
( 巻第十九 雑躰歌 NO.1054 )
よそながら わがみにいとの よるといへば
ただいつはりに すぐすばかりなり
* 歌意は、「 何の関係もないのに わたしに糸という人が 言い寄っていると噂されるので ただ 偽りですよ と言って聞き流すだけですよ 」と言ったものでしょうか。
この歌の前書き(詞書)には、「従兄弟なりける男によそへて人の言ひければ」とありますので、「糸」という従兄弟に言い寄られているという噂を否定した歌なのでしょう。
* 作者のくそ(久曾)は、平安時代の女性です。
ただ、残念ながら、作者に関する情報は極めて少ないようで、私の力では探る事が出来ませんでした。
* 多くの参考書などは、源久曾として、源作(ミナモトノツクル)の娘としていますが、この源作の消息も探る事は出来ませんでした。
また、名前の「くそ」も、「久曾」であれば立派な物なのですが、「屎」の字を当てている物もあります。ただ、古代には、名前に「悪」「鬼」などのように人が嫌がるような文字を名前に付けて、魔除けとしたような風習があったようで、「くそ」もそうした一例かも知れません。
* また、文献の中には、この歌の作者を「安倍清行娘」としている物があるようです。
安倍清行( 825 - 900 )は、従四位上讃岐守まで昇った貴族です。
ただ、この人の子に「くそ」という娘がいたという記録は見当たりません。その替りというわけではないのですが、この人には「讃岐」と呼ばれた娘がいて、この女性も古今和歌集に歌が採録されています。しかも、その歌は、作者の歌の次の「NO.1055」の乗せられているのです。
これで以て、作者が安倍清行の娘であったとは言えないでしょうが、古今和歌集の編者は、作者と安倍清行、あるいは讃岐と親しい関係であった事を知っていたのではないでしょうか。
結局、作者の久曾については、讃岐と親しい関係であったらしい、と推定する事しか出来ませんでした。
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