雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

雪に埋もれて ・ 小さな小さな物語 ( 362 )

2012-08-01 15:15:36 | 小さな小さな物語 第五部~第八部
旅人は大雪に見舞われ、西も東も分からなくなってしまいました。途方にくれているとすぐ前に一本の丸木のようなものが立っていました。旅人は、その木に馬を繋ぐと、あるったけの衣類などで身を守って寝てしまいました。そして、ぐっすりと眠った後目覚めますと、何と、旅人は教会の高い塔の上にいたのです。馬を繋いだのは、教会の塔の十字架の先端だったのです。
うろ覚えで申し訳ないのですが、これ、何のお話だったでしょうか。


落語にはこんな話もあります。
旅自慢のいい加減な男が、ご隠居さんに雪国への旅の話をするものです。
北国の冬は寒いので、何もかも凍らせてしまいます。そして、何もかも雪に覆われてしまいます。
秋の空っ風で森のあちこちで火災が発生しますが、ひとたび北風が吹きつけると、火事さえも凍ってしまいます。赤い炎もそのまま凍ってしまい、雪に覆われてしまいます。しかし、春になって雪解けの頃になりますと、あちらこちらから炎が活躍し始めるのです。
これも、正確に覚えているものではありませんので、ごめんなさい。


さて、今、北国は大雪で大変なようです。
その一方で、被災地も雪に覆われて、家も田畑も流されたあたりも雪に覆われて、実は何もなかったのではないかと錯覚してしまうような場所もあります。
春になって、雪が解けると、実は自分は大きな家に屋根に坐っていて、眼下の景色は昔のままで、あの大地震や大津波はやはり夢だったのだ・・・、と、切ない願いを抱く人も少なくないことでしょう。
しかし、現実は、雪が解ければ、凍りついていたが炎が燃えだすような、厳しい現実が待っています。


津波の傷跡も、地震の悪夢も、悲しい思い出までも、雪は覆ってくれるかもしれません。
一面の雪景色は、何もかも等しく覆い隠してはくれますが、ひとときの目隠しを与えてくれているにすぎません。やがて、雪解けとともに、避けることのできない現実が、浮かび上がってきます。
私たちは、意識的に、あるいは無意識のうちに、苦しいものに雪のようなものを被せてしまいます。
調子のよい言葉や、正義面した人々・・・、何を頼りにすればよいのか見分けの難しい今日には、雪のように、ほんのひとときだけ甘い思いをさせてくれるものがたくさんあります。
しかし、雪解けの下には、必ず現実があります。辛くとも、それを否定することは出来ません。

( 2012.01.31 )

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