雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

それぞれの生き様 ・ 小さな小さな物語 ( 1265 )

2020-06-17 15:44:55 | 小さな小さな物語 第二十二部

「身の丈に合わせて・・・」という文科大臣の発言が非難を受け、さらに大きな問題を引き起こしました。
ただ、文科大臣という立場での発言であることには、非難されるべき一面があったことは確かでしょうが、嵐の後は「結果OK」のようで、大臣の発言のおかげで、危く導入されかけていた大学入試試験制度が白紙になったことは、怪我の功名のような気がします。
大学受験を間近に控えている方や、そのご家庭などには戸惑いや混乱があるのでしょうが、伝えられている内容を聞きますと、計画されていた制度は問題が多すぎるような気がします。

文科大臣の立場で、「貧富の差を自覚せよ」と思わせるような発言はいただけないと思いますが、「身の丈に合わせて頑張る」というのは今一つ分かりにくいのですが、「身の丈に合わせた生き方」というものは、少なくとも大人であれば、心すべき至言ではないでしょうか。
「少年よ、大志を抱け」という有名な言葉があります。若い人たちが、家庭環境などには関わらず、すべからくそれぞれの目標に向かって努力できる社会であって欲しいと願います。しかし、残念ながら、幼い時から生まれた環境などによってハンディーが存在していることは否定できないのではないでしょうか。「少年よ、大志を抱け」とクラーク博士が呼びかけた生徒たちは、いわゆるエリートに近い少年たちであって、当時の日本には、そのような言葉が全く届かない少年たちが大勢いたのではないでしょうか。
現在の日本は、当時よりも機会の均等化が進んでいるとはいえ、ある時点では、私たちは自分の足元を見つめてみる必要もあるようです。

つい最近、テレビで心に残る話を聞きました。
一つは、今年阪神タイガースを退団した横田慎太郎氏に関することです。(無断で書かせていただくことをお許しください。)横田氏は、高校三年の2013年秋のドラフト会議で二巡目で指名を受け、翌年阪神タイガースに入団し、スラッガーとして大きな期待をかけられていました。実際に、その年に満塁ホームランを放つなどその片鱗を示していました。
しかし、2017年 9月に脳腫瘍であることが分かり、闘病生活に入りました。球団は、横田氏の将来に大きな期待を抱いていたようで、翌年からは育成選手としての契約として回復を待ったようです。しかし、病状は完治状態のようであっても、視力の回復はままならなかったようで、今年の9月に引退を表明しました。このクラスの選手としては異例の引退セレモニーが行われ、その状況や引退試合でのファインプレーがテレビで紹介されていました。胸がつまるような、二十四歳での引退表明でした。
もう一つは、ある芸人さんの話が紹介されていたものです。その男性は、芸歴二十年ほどの中堅クラスの芸人さんですが、たまにテレビにも登場していますが、その実情は、芸人の仕事だけで食べていくのが厳しい状況なのだそうです。この話を披露していた方が、その芸人さんは有能な方だけに、他の道に進むことは考えないのかと尋ねたそうです。その答えが、「自分はこの仕事が好きなんです。今までこの世界でやって来て、どんなに努力しても絶対に勝てない芸人が何人もいることを知りました。自分の力では絶対に勝てないことは十分わかっています。しかし、自分はこの仕事が好きなんです。必死に頑張って、この世界で生き残ることだけを考えて、これからも続けるつもりです」というものだったそうです。

私たち、残念ながら、努力だけではどうにもならない事って、あるのですよ。天賦の才などというものは認めたくありませんが、残念ながら、あるのかもしれません。努力が足らないからだと言われれば、その通りかもしれませんが、誰もが天才と言われる人ほどの努力をすることなど出来ないように思うのです。
「身に合った生き方をせよ」などと言われますと、腹も立ちますし、へそも曲げたくなります。
しかし、私たちには、私だけではなくほとんどの人は、そうそう思い通りの生き方など出来ないのではないでしょうか。「身に合った生き方をせよ」を「縮こまって生きよ」と受け取るならば腹も立ちますが、そうではなく、それぞれには、「それぞれの生き方」があるのであって、その生き方を模索する過程で、何かが見えてくるかもしれないような気もするのです。
「自分はこの仕事が好きなんです」と言い切る芸人さんに拍手を送りたいと思いますし、二十四歳でプロ野球選手という華やかな世界から決別しなくてはならなかった横田氏の今後に、懸命のエールを送りたいと思うのです。
なお、先日行われた、マリナーズのイチローさんが参加したことで話題になっていた「学生野球資格回復制度」の研修会に、横田氏も参加していたそうです。「ガンバレ、ガンバレ」。 

( 2019.12.23 )


  


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