雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

言葉の力 ・ 小さな小さな物語 ( 705 )

2015-03-15 15:24:53 | 小さな小さな物語 第十二部
インターネットの時代といわれて久しいですが、パソコンや携帯電話などを中心とした技術の革新はいちじるしく、一般の私たちなどが容易に手にすることが出来る通信手段は、止まる所を知らないかのように発展を遂げています。
まあ、それが科学技術がもたらす文化の発展ということなのでしょうが、同時に、半世紀前であれば想像もつかないような事件やいたずらの手段としても使われるようになってしまいました。
国際的な不幸な出来事においても、国内のまことに馬鹿げた事件にも、素人同然の知識の持ち主であっても、全世界にアピールすることが可能な環境を手にすることになってしまっているのです。

「言霊(コトダマ)」という言葉がありますが、わが国に限ったことではないのでしょうが、かつて、言葉には特別な霊力があると考えられていたようです。
「古事記」の中にも、天つ神々一同が、イザナギノミコトとイザナミノミコトの二柱の神に、「このただよへる国をつくろひ固め成せ」と『言依賜也』。と記されています。この「言依賜也」の読み方には諸説あるようですが、要は、「言葉で命じられた」ということだと思われます。この命令によって、わが国の誕生が始まるということが「古事記」には記されています。
この頃、天上の神々が文字を持っていたのかどうかは分かりませんが、イザナギノミコトとイザナミノミコトに命じられたのは「言葉」であり、その言葉には絶対的な力があったのでしょう。
時代が下ってからも、神仏などへの願い事や呪詛の場合も、文字にしたためることはあっても、自分や代理人(僧侶や神官など)が言葉に出して訴えることが必要であり、それには、単なる伝達ということ以上に、言葉そのものに霊力があると考えられていたのでしょう。

現代の私たちの日常においても、「言葉の力」を強く感じることは少なくありません。
あの、「たった一言」が、ある人に勇気を与え、ヒントを与え、その人の人生を大きく左右させることさえあるようです。優れた書物や指導書がその役を果たすこともあるでしょうが、インパクトの大きさは「言葉の力」が優っているように思われます。
同時に、「たった一言」が、一人の人間を絶望に追い込んでしまうことも、残念ながらあるようです。
「言葉の力」つまり「言霊」というものは、どうやら諸刃の剣のようです。

書店や図書館などには、名言や故事などに関する書物が数多くあります。
テレビやビデオや映画などを通じて、感動を受ける言葉に出合うこともあります。
確かに、優れた言葉や人に力を与えたり決断を助ける言葉もあるのでしょう。しかし、同じ言葉であっても、ある人には大きな力になっても、ある人にはさしたる影響がなく、ある人には害を与えてしまうことさえあります。
つまり、書かれていたり語られたりする言葉や文字が持っている力など大したものではなく、その言葉に、「言霊」と表現するかどうかはともかく、生命力のようなものが加えられてこそ、その言葉は輝きを見せるのではないでしょうか。
私たちは、一日にどれだけの言葉を話すのか知りませんが、「言葉は諸刃の剣」であることも心に留めておくべきのように思うのです。

( 2015.01.24 )

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