雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

漢の高祖誕生 ・ 今昔物語 ( 10 - 2 )

2024-05-20 14:46:57 | 今昔物語拾い読み ・ その2

      『 漢の高祖誕生 ・ 今昔物語 ( 10 - 2 ) 』


今は昔、
震旦に漢の高祖(コウソ・劉邦)という人がいた。
この人の母は、もとは身分の低い家柄の人である。父は、竜王である。

高祖の母、その昔、道を歩いていて、池の堤を通り過ぎようとした時、にわかに雷震が起り、辺りは闇の如く真っ暗になった。
母はこれを恐れて、堤にうつ伏せに身を伏せた。すると、雷はたちまち女の上に落ち掛かって、女を犯した。
その後、女は懐妊して、男子を生んだ。その後、また、女子を生んだ。

その男子は、数年を経て、成長していった。
ある時、その母が自ら田に入って耕作していたが、一人の老人がその近くを通りかかった。
老人は、田仕事をしている女を見て、「そなた、特に優れた相をお持ちだ。きっと国母になるでしょう」と言った。
女は、「わたしは、決してそのような相を持っているはずがありません。わたしは、貧賤・下姓の女でございます。どうして、国母の相など持っていましょうか」と答えた。
その時、女の男女二人の子がやって来た。
すると、その老人は、また、二人の子を見て言った。「そなたは、この二人の子によって、国母の相を備えたのです。兄の男子は、きっと国王となるでしょう。下の女子は后となるでしょう」と言って、去って行った。
兄の男子というのは、漢の高祖その人である。下の女子というのは、[ 欠字。名前らしいが不詳。]という后は、この人である。

その後、高祖は、この事を聞いて、老人の予言を信じて、心の内に国王となることに期待を抱いた。世間の人に知られることなく、芒碭山(モウヨウセン)と言う山に隠れ住んだ。
ところが、秦の始皇帝の御代に、五色の雲が常にその芒碭山にたなびいた。始皇帝はこれを見て不思議に思い、「我こそが、天下にただ一人の者として世に君臨しているのに、なぜ、いかなる者があの山に住んでいて、常に五色の雲をたなびかせているのか」と怪しみ、使者を遣わして命令した。「あの芒碭山には常に五色の雲がある。間違いなく行って、その様子を見て、もし人が居れば殺して参れ」と。
命令に従って、使者が赴き、住む人を尋ね捜すこと数度に及んだ。しかし、高祖は逃れ去っていて、討たれることはなかった。

芒碭山に、高祖が隠れ住んでいた木の上には、常に五色の竜王が現れていた、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆ 


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