『 尼天狗に奪われる ・ 今昔物語 ( 20 - 5 ) 』
今は昔、
仁和寺(ニンナジ・代々法親王が門跡を継承する門跡寺院の筆頭。)に成典(ジョウテン・1044 没)僧正という人がいた。俗姓は藤原氏である。
広沢の寛朝大僧正を師として、真言の密法を学び、長年にわたり修行を怠ることなく積んで、僧正にまで上った人である。
そこで、この人は仁和寺で修行していたが、同じ仁和寺の中の辰巳(東南)の角に、円堂(エンドウ・八角御堂とも称された。)という寺があった。
「その寺には天狗がいる」といって、人々が大変恐れている所である。
ある時、この僧正が夜中に、たった一人でその堂の仏前に座って、秘密の修法を行じていると、堂の戸の隙間から、頭に帽子を被った尼が覗いたので、僧正は、「この夜中に、何処の尼がこのように覗いているのか」と思っていると、尼はすっと入ってきて、僧正が傍らに置いている三衣筥(サンエノハコ・僧が個人所有が許されている三種の衣を入れておく箱。)を取って逃げていくので、僧正がすぐに追いかけていくと、尼は堂の後ろの戸から出て、堂の後ろにある高い槻の木に登っていったので、僧正はその木を見上げて加持を始めると、尼はその加持の力に堪えられず、木の先端から地面に落ちたので、僧正は近寄って、三衣筥を奪い返そうとした。
しばらくは引っ張り合っていたが、僧正が奪い取ると、尼は三衣筥の片端を引き破り、それを取って逃げ去ってしまった。
その尼が登った木は、今もある。その尼のことを尼天狗といっている、
となむ語り伝へたるとや。
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