雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

おぼつかなきもの

2014-12-16 11:00:49 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第六十七段  おぼつかなきもの

おぼつかなきもの。
十二年の山籠りの法師の女親。
知らぬところに、闇なるにいきたるに、「あらはにもぞある」とて、灯もともさで、さすがに並み居たる。

いま出で来たる者の、心も知らぬ、やむごとなきもの持たせて、人のもとにやりたるに、遅く帰る。
ものもまだいわぬ乳児の、そりくつがへり、人にも抱かれず、泣きたる。



心細くて気がかりなもの。
十二年の比叡山籠りをしている法師の母親。
よその家に、月のない闇の夜に行ったところが、「姿がはっきりと見えるといけない」ということで、気をきかせたのか従者たちは、ともし火もつけないで、それでも行儀よく並んで座っているのですよ。

新しく田舎から奉公に来た小者で、気心もよく分からない者に、貴重な物を持たせて、人のもとに使いに出したのに、なかなか帰って来ないのは気がかりなものです。
口もまだきかない乳飲み子が、そっくりかえって、人にも抱かれようともせず、激しく泣いているのは心細くなってしまいます。



「おぼつかなきもの」として四つの事例があげられていますが、いずれも私たちの感覚と殆ど変らないように思います。
二つ目にある「姿がはっきり見えるといけない」というくだりは、想い人を訪ねる男の様子のようですが、さて、お相手は少納言さまなのでしょうか。
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