りなりあ

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約束を抱いて 第三章-23

2007-09-11 15:20:20 | 約束を抱いて 第三章

練習を終えた優輝と久保が斉藤家に来た時、テーブルには既に料理が並べられていて、仕事を終えた涼も到着していた。
「これ全部晴己さんが?むつみは?」
優輝に問われて、むつみは首を横に振る。
「晴己さんって、器用とか何でも出来るとかっていうより、使用人大勢いるのに、これって無駄な能力じゃねえの?」
優輝は本当に不思議に思い、そこに嫌味な気持ちは少しもないのだが、晴己は優輝の言葉が気に障る。
出来る限り優輝の機嫌を損ねる事は避けたくて、むつみに会いに来る事を最近は控えていた。

優輝を呼び、久保と涼にも来てもらい手厚く歓迎しようと思っていた晴己の気持ちは消えそうになる。
「そうかな?むつみちゃんは、どう思う?」
大人気ないと分かっていても、晴己は優輝の言葉を素直に受け入れたくなかった。
「ずっと小さな頃から、僕の作った料理を美味しいって食べてくれていたよね?」
晴己の口調は優しいが、それは有無を言わせない強さを持っている。むつみは頷く事も否定する事も出来なかった。
「晴己様。」
和枝が咎める声を出し、むつみはホッとする。
「むつみの料理の方が美味いじゃん。変なの。にーちゃんも晴己さんも、就職してから苛々してるし。」
独り言のように優輝は言って、そして椅子に座る。
「食べていい?」
「…いや…ちょっと待て。」
晴己が優輝を止めた。
「すぐに先生が戻るから。」
「はいはい。」
仕方ないというように優輝は再び立ち上がる。
「むつみ。今日の宿題だけど。」
優輝とむつみがリビングへと移動するのを晴己は見ていた。
「不思議だよな。」
晴己の隣に立つ涼が囁く。
「少し前まで綱渡りみたいな感じだったのに、今は凄く自然に当たり前みたいに2人が一緒にいて。そりゃ、もちろんハラハラするような時もあるけど。」
涼が小さな溜息を出した。
「優輝は少しは成長したと思わないか?この環境を受け入れようとしている。晴己の事も。」
「…余裕がないのは…僕の方だな。」
晴己は優輝を見て、自分の行動を思い出す。晴己が優輝に言い返した言葉を、優輝が気にも留めずに聞き流した事が、優輝とむつみの関係に余裕がある事を示していた。
「それは俺も同じだな。」
「涼?」
「社会に出て、それまでも分かっているつもりだったのに、俺の知っている事は本当に一部で。これから先も色んな事を知って巻き込まれていくのかと思うと…嫌になる。」
「…涼?」
「晴己は何を知っているんだ?どうして、あんなに反対していたのに今は2人が会うことを認めてるんだ?」
晴己は用意していたワインを手に取り、そのラベルに視線を落とす。晴己がワインを開けようとするのを、涼は止めた。引き下がれば、簡単に晴己に話を変えられてしまう。
「涼と同じだよ。涼だって2人が付き合う事に反対だっただろう?誰でも同じように思う。最初が普通じゃなかった。」
晴己は仕方なく、ソムリエナイフをテーブルに置いた。
「幸せになって欲しいとか笑っていて欲しいとか、そう思うだろう?だけど僕は違う。」
晴己の視線がリビングへと向けられる。
その眼差しは、愛しそうにむつみを見ていた。
「どうすれば、あの子を守れるだろう。それだけを考えてきた。例え悲しむ事があっても泣くことがあっても、最終的に守れるのなら、それも仕方ないと思う。」
「晴己?」
「僕は守りたかっただけなんだ。だけど…それを望むと」
晴己が悲しそうに微笑む。
「いつも…あの子が犠牲になる。」
晴己が再びワインを開けようとするのを涼は見ていた。
「…晴己の話は矛盾していないか?俺の解釈は間違っているのか?」
むつみの事が大事なら、彼女の幸せを望み彼女を犠牲になどしなければいいのに。
涼は考えながら、過去の事を思い出そうとした。
「分からないな。」
涼の呟きに晴己が反応する。
「僕もだよ。」
「え?」
「僕の選んだ方法が正しかったのかどうか、分からない。」
晴己がグラスにワインを注ごうとするのを、涼は止めた。
「斉藤先生が、もうすぐ戻るんだろ?」
涼の言葉に、晴己は苦笑した。



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