りなりあ

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約束を抱いて-42

2006-11-17 18:09:03 | 約束を抱いて 第一章

優輝は道路の反対側から店内を見渡す。店外にも並べられているテーブルには、数組の客が集まっていた。
ここから、むつみが叩かれる光景を見たのを思い出しながら、優輝は道路を渡り店の前に立つ。
先週の金曜日、練習を終えた優輝は、以前同じクラブに通っていた大西に声をかけられた。そして、この店で笹本絵里を紹介された。
「橋元?」
声をかけられて振り向くと大西が立っていた。
「晴己さんが迎えにきたんだろ?」
大西は不思議そうに尋ねた。
「晴己さんは関係ない。」
大西が笑う。
「そんな事、言えるようになったんだ?あの人の後ろばかり追いかけていたのに。」
優輝は深呼吸をした。
「大西さんは、卓也の事、何か知っているのか?」
「俺が?何をだよ?卓也は崩れてきた材木からおまえを庇った。それだけだろ?事故だよ。」
「俺たちはあの時、大西さんに呼ばれて」
「だから?救急車呼んでやっただろ?俺が行ったから助かった。感謝しろよ。」
優輝は唇をかむ。
「責任を人に擦り付けるな。絵里さんの話は受けるのか?」
「何処だよ。絵里…さんは。」
「もうすぐ来るだろ。中で待てば?」
促されて優輝は店の中に入り、座ろうと思った時だった。
「絵里さん?」
大西が優輝の背後を見て驚く。不思議に思った優輝は、振り向いた。
「な、なんだよ。」
絵里の隣に、むつみが立っていた。
「…本当に、斉藤むつみと知り合いだったのか?馬鹿じゃねぇのか?そんなに自分を追いつめてどうするんだよ?それとも、そんなに晴己さんを利用したいのか?晴己さんに取り入りたいのか?」
大西の言葉に優輝は反論しようとするが、絵里が割って入ってきた。
「驚いたわ。マンションの前で待っているんだもの。だから折角だから教えてあげたの、卓也君の事。それから私の提案もね。」
絵里は得意気に優輝に言う。
「私の事を酷いって言うのよ?私の出した提案は、そんなに酷い?無理強いしているわけじゃないでしょ?橋元君が決めればいいのよ。そうでしょう?」
優輝は絵里の言葉を聞きながら、むつみを見た。
「帰ろう、優輝君。」
むつみが、優輝に言う。
むつみは制服を着ていた。だけど、優輝の家にいた時に着ていた制服とは違う。
「橋元君は私と話があるから、ここに来たのよ?邪魔をしないで。橋元君が怪我をしたのは、あなたのせいでしょう?それなのに、しつこく付きまとうのね。晴己様の時だって。自分が疫病神だって分かってる?自分の存在がどれだけ晴己様に迷惑をかけているのか分かっている?」
絵里は強い口調だった。

「晴己様の邪魔になっているのが分からないの?」 
むつみは何も言い返せなかった。
「大西君。この子をむこうに連れて行って。邪魔だわ。目立つのよ、桜学園の制服は。」
言われた大西は戸惑っていた。
「それとも、私の部屋を使う?」
そして、絵里は鍵を大西の前に投げた。
「橋元君に嫉妬なんてしないで、この機会を利用すれば?斉藤むつみと話したくても、今までは無理だったでしょう?」
絵里がむつみの手を取り引張ろうとするのを、優輝は立ち上がって、絵里の腕を掴んだ。
「嫉妬しているのは、そっちだろう?」
優輝が絵里を見上げた。
「晴己さんが憎いのか?それとも俺達が憎いのか?俺達が特別な存在だから?」
優輝は絵里の腕を放し、むつみを自分の後ろに隠す。
「晴己さんが傍に置いたのは、晴己さんの意思だろ?」
優輝は、家の廊下で見た涼の瞳を思い出していた。むつみを見る涼の眼差しを懐かしいと感じた。
「そんなに悔しいのなら、自分がそれだけ価値のある存在になってみろよ。」
優輝はむつみの手を取る。
『優輝は自分の進みたい道を歩めばいい。もしそれに晴己が賛同してくれて与えてくれる好意は素直に全部受け取ればいい。だけど、それに縛られる必要はないから。』
周囲から疎まれて妬まれていた時に兄が言った言葉を思い出す。小学生の自分には理解できなかった兄の言葉。
『自分だけは見失うなよ。俺達は優輝の味方だ。俺達家族が出来ない事は晴己に頼ればいい。それは優輝自身にそれだけの価値があるってことだから。』
優輝は、むつみの手を強く握った。



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