りなりあ

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約束を抱いて 第四章-26

2008-04-03 19:07:26 | 約束を抱いて 第四章

「ゲームの商品を持ってきました。」
明良は箱を持っていた。
「これを所望した人も、まさかお菓子の詰め合わせだと思わなかったようで、僕に譲ってくれました。スポーツ用品ばかりだと僕も思っていたのですが、小さな子達も来ていたので何品か混ぜたんでしょうね。配ろうと思って、ここに来たのですが、っと、渡すのは…失礼かな?」
大江婦人は明良と慎一を見比べて、2つの歳の差があるとはいえ、同じ中学生だとは思えなかった。
桐島明良は背格好は中学生だが、実際の年齢よりも落ち着いていて、高校生だと言われても納得するし、今日のようにスーツを着ていると余計に大人に見える。対する慎一は、少し前まで小学生だったし、声変わりもしていない。それに、この数週間は食事や睡眠が充分ではないようで、以前よりも体が細くなっているような気がした。
「でも、是非どうぞ。凄かったですよ。テニスボールをポンポンッと見事に目的の品に命中させて。僕もリクエストしようかと思ったけれど。」
「しなかったの?」
大江婦人の問いに、明良が微笑む。
「その前に斉藤先生に、失礼しますと挨拶をしてしまったので。商品欲しさに出て行くのは格好が悪いでしょう?お見舞い?」
明良が慎一に問う。
「はい。母が入院しているので。」
「帰る時は気をつけたほうがいいよ。外は賑やかだから。僕も帰りはタクシーかな。大江さんもお気をつけて。」
「明良君…外って?」
「誰か入院しているのですか?有名人とか?カメラを持った人達がウロウロしてますよ。今日は他には移動せず帰ったほうが良さそうですね。」
大江婦人は明良が施設も訪問しようとしていたのだと予想した。
「お話し中に失礼しました。今日は、とても縁起の良いパーティだったんだ。」
明良が慎一の手を取る。
「従姉に長男が誕生したお祝いでね。」
慎一の掌に置かれたのは、一粒の飴だった。
「だから、その幸せを多くの人に。」
慎一は明良を見上げた。
「と、僕の従姉が言っていたから。」
立ち去る明良の後姿を、慎一は不思議な気持ちで見た。
「あ、あの!」
明良が振り向く。
「お手伝い…させてください。」
慎一は飴をポケットに入れると、明良が差し出した箱を受け取った。

◇◇◇

自分は悪くないのだと、優輝は自らに、そして晴己達に言いたい気分だった。
こういう状況になるから、晴己が色々と注意をするのだ。それを彼女は分かっていない。
むつみの行動に対応する術を持っていない自分を情けないと思うが、何も出来ない。突然、会話の最中に腕を伸ばして抱きつかれても、潤んだ瞳で見上げられても、優輝は目を逸らす事しか出来ない。
慎一の事で何かを悩んでいる彼女に何も出来ない事も悔しい。

悔しくて情けなくて、そして彼女の気持ちを受け止めきれない自分の未熟さに、余計に晴己の存在の大きさを感じてしまう。むつみが晴己を頼った事は予想できる。そして、晴己がむつみを慰めて宥めて、抱きしめる光景が嫌でも想像できる。
優輝は晴己と同じ事をしてあげる事が出来なくて、でも精一杯の気持ちで、彼女の髪を撫でてみた。むつみの髪は、綺麗で心地良くて柔らかい手触りだった。
何度か繰り返すと、次第に彼女自身の体から力が抜けていき、優輝に体重を預けてしまう。優輝は、ずっと触っていたいと思う気持ちを抑えて腕時計を見た。
「8分経過。走れば間に合うかもしれないけれど、そんな服で走れる?」
優輝の声に、むつみは慌てて彼から離れた。

◇◇◇

駆けて来た2人を見て、その行動が目立つのだと瑠璃は言いたかった。やはり、この2人は、自分達がどれだけ目立つのか理解していない気がする。
だが、むつみが随分とスッキリとした顔をしているのを見て、瑠璃は残りの時間を過ごせる事に安堵した。
「加奈子ちゃん達の演奏、もうすぐ始まるわ。」
瑠璃は走ってきた為に乱れてしまったむつみの髪を直そうと思って手を伸ばした。
「え?」
それなのに手首を掴まれてしまう。
「す、すみません。」
優輝が慌てて掴んだ手首を放した。
「あのねぇ…。ヤキモチ?ほら、先に戻って。」
瑠璃は追い払うようにして、優輝を会場に戻した。