りなりあ

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約束を抱いて 第四章-13

2008-03-06 21:07:00 | 約束を抱いて 第四章

涼は振り向き、むつみを見る。
「一緒に、お願いしても宜しいですか?」
奈々江が困った顔をした。
「むつみちゃんが笹本家に挨拶をする必要は…ないわ。」
「挨拶しちゃダメなの?」

問われて奈々江は周囲に視線を送る。彼女と目が合って一歩踏み出した涼は、後ろから卓也に服を引張られた。
周囲を見渡すと、久保は大輔に止められ、優輝は哲也に止められている。
「客観的に見ると、結構異様な光景。」
後ろで呟く卓也の言葉に、涼は少し冷静になった。
「ダメじゃないけれど…。」
「奈々江さん、どうかしました?笹本先生は、今ならおじさまと一緒だから。」
「えぇっと…。そうね。そうだったわよね。むつみちゃん、笹本先生が担任…だったわね。」
奈々江の表情に少し笑顔が戻る。
「今の中学に入学する手続きとか、急に決めたから笹本先生に迷惑をかけたの。きちんとお礼を言っていないから。いいでしょ?奈々江さん。」
涼の身体からも緊張が消える。
「…恩師、かよ。」
「みたいだね。」
涼は自分の服を掴む卓也の手を払おうとするが、卓也はこの状況を面白がっているようで、服を放そうとしない。
「似ているよなぁ、涼ちゃんと優輝。数年後の優輝は涼ちゃんみたいになってるんだろうなって思うけど。あ、外見だけね。中身は全然違うし。でも、こうやって見ると同じ事してるじゃん。ほら、優輝は往生際が悪いよ。哲也さんに羽交い絞めにされてる。余計に目立つんだよ。だけどさぁ、涼ちゃん?弟の彼女に執着するのはヤバイと思うけど。」
涼は背後からの声に苛立ち、卓也の手首を掴んだ。
「いてぇな。涼ちゃん。図星かよ。」
言い返そうとした涼は、目の前に瑠璃の姿を見つけて、仕方なく卓也の手首を放した。
「涼さん。あとは…。」
瑠璃と一緒に姿を見せた祥子が会釈をする。
「橋元さん。あとは私が。ですから弟さんを少し落ち着かせてください。」

◇◇◇

「お久しぶりです。おじさま。」
笹本氏は驚いた顔を向けた。
座ったままでも構わないのに、席を立とうとした笹本氏を奈々江が止める。
「笹本先生。」
むつみは笹本氏の長男を見た。
「あの時はお世話になりました。先生に御迷惑をおかけしてしまって。でも…先生が両親を説得してくださった事、感謝しています。」
「受験生、だな。どうだ?志望校合格の可能性は。」
「先生?自信があると言えるほど受験は簡単ですか?でも、合格しないと桜学園に進学しなかった意味がなくなります。」
むつみは、その言葉を自分に言い聞かせた。
そして、絵里の姿だけが抜けた笹本一族に挨拶をする。
「鈴(すず)さん。」
むつみは、最後に彼女の名前を呼んだ瞬間、今までの緊張が解けそうになった。
一番伝えたいと思っている言葉を口にしてよいのかどうか迷い、だが言ってしまうと耐えられないと思った。泣いてしまうと大騒ぎになる。自分の後ろにいる人達が、このまま黙っていてくれるとは思えない。
「むつみちゃん大きくなったわね。」
鈴乃(すずの)の声が懐かしかった。
「はい。中学3年になりました。舞(まい)ちゃんも大きくなりましたね。」
小さな子供が鈴乃の足元に抱きついていた。
「こんにちは。」
むつみは身体を屈め、子供と視線を合わせる。
「はじめまして。舞ちゃん。」
「舞。ご挨拶は?」
鈴乃が促すが、舞は鈴乃の後ろに隠れてしまう。
「ごめんね、むつみちゃん。このような場所…この子初めてだし、それに…。でも、やっぱり晴己様と杏依様に会ってもらいたくて。」
むつみは立ち上がり、鈴乃に話す。
「同じ年頃の友達がいないと…ちょっと退屈ですよね。私も以前は、そうでした。雰囲気に圧倒されちゃうんです。だって、みんな自分よりも背が高いでしょう?足元をウロウロするしかなくて。それに、何処にでも隠れられるから。」
鈴乃が笑う。
「そうね。むつみちゃんがいなくて探したのよ?何処だろうって。そうしたら。」
笹本氏を囲む他の人達も笑う。