りなりあ

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約束を抱いて 第四章-10

2008-03-03 20:38:27 | 約束を抱いて 第四章

涼は斉藤氏と会話をした事は何度もある。
だが、今日の斉藤氏は普段とは随分と印象が違うと感じた。
涼は、むつみの父親である斉藤氏と会った事があるだけで、医師としての彼も、それ以外の彼も知らなかった事に気付く。
祝賀のパーティだから当然だが、斉藤氏は饒舌だった。
そして、その原因の1つがアルコールの可能性が高いと感じた。
以前、晴己が大量の料理を斉藤家で作ったことがあり、涼と優輝が招かれた事がある。その時、斉藤氏がワインを飲まなかった事を思い出した。

「先生、何か飲みますか?」
瑠璃がアルコールを勧めようとする。
「ありがとう。少し控えておくよ。まだ始まったばかりなのに随分と飲んでしまった。まだ勝海君に会っていないのに。」
斉藤氏は上機嫌だった。
「先生。お酒を飲まれるのは滅多にないでしょう?」
瑠璃が再度勧めた。
いつでも患者の為に、すぐに病院に戻れるようにと、斉藤氏が自宅で酒を飲む事は滅多にない。それを知っている瑠璃は、今日は許されるだろうと思った。
「そういえば…前回も、この場所だったかもしれないな。」
「ここ、ですか?」
涼が問う。
「晴己君の結婚式の時以来だ。」
数年間、酒を飲んでいないのなら、尚更今日は堪能してもらいたいと、涼はグラスを1つ斉藤氏に勧めた。
「先生。彼の家は…桐島家は代々政治家、ではないのですか?」
涼は桐島明良の話題に戻した。
「明良君は次男だからね。太一郎先生の後継者は、兄の賢一(けんいち)君じゃないのかな?」
涼は斉藤氏の視線を追った。
引退している今でも充分に風格のある人物を見つける事ができ、彼が杏依の祖父である桐島太一郎だと分る。
そして、彼を囲むようにして立っているのが、桐島一族だった。
「瑠璃さん。」
斉藤氏が瑠璃を呼ぶ。
「むつみは、どこだろうか?」
「加奈子ちゃんと話していましたよ。えぇっと今は…。」
瑠璃が周囲を見渡すが、むつみの姿は見つからない。
「瑠璃さん。もしむつみを見つけたら宜しく頼むよ。涼君、また後で。」
そう言って斉藤氏は立ち去った。
「瑠璃。」
瑠璃は別の声に呼ばれて、むつみを探す事を中断した。
「瑠璃。次、私達の順番だって。」
瑠璃を呼んだのは目黒祥子で、涼は、その場を離れようと思った。だが、祥子の声が涼を止める。
「こんにちは。橋元涼さん。」
当然だが、目黒祥子は涼の事を知っていた。
「杏依の…結婚式以来ですね。目黒祥子と申します。」
笹本絵里の従妹に、どう対応したら良いのかと考えていると、祥子が先に口を開いた。
「瑠璃。私達は別々に行きましょう。先に松原君達と行って。心配しないで。絵里姉さんは、まだ到着していないから。」
新堂勝海は、このパーティ会場とは別の部屋にいる。
お披露目といっても、相手は新生児。殆どを寝て過す時期だ。パーティ会場は、待合室の役目も果たしていて、少人数に分けられたグループが、順番に勝海の部屋を訪問する事になっている。
瑠璃が去った後、残された涼は祥子の視線を感じた。
「お疲れになったでしょう?」
涼は答えに迷った。
「お疲れなのにごめんなさい。お伝えしたい事が。」
涼が眉根に皺を寄せた。
「でも、今は本当にお疲れみたい。少しゲームを見てきたら如何ですか?先ほども言いましたように、絵里姉さんは暫くは来ませんから。」
「どうして、来ないんだ?」
「ここに、絵里姉さんの事を好意的に見る人なんて、少ないから。今日は祝賀のパーティでしょう?それに水を差すほど絵里姉さんは世間知らずじゃないわ。」
笹本絵里が気の回る人物とは思えない涼は、祥子の言い分に首を傾げた。