りなりあ

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約束を抱いて:番外編-傍観者-5・完

2007-05-14 15:02:52 | 約束を抱いて 番外編

沈黙が続く。
「由佳?」
「あ…ごめん。星碧の家、なのね。」
「由佳も杏依の結婚式で会っているよね。むつみちゃん、松原君の事、覚えていたし。」
「…綺麗な子だったから、覚えているわ。あの時は私立じゃなかった?」
「中学からは公立に変えたみたい。私達の高校を受けるのに桜学園だと物足りないって事で。」
視線を伏せていた由佳が顔を上げる。
「意外だわ。瑠璃が、その子の家に行っているなんて。」
「でしょう?私も突然でびっくりよ。年末に新堂さんに頼まれてね。杏依にも頼まれちゃったし。」
「…それなら断れないわね。大丈夫?他人の家庭を見ると、ストレスが溜まるでしょ?」
「最初はね、そうだろうって思っていたんだけど。今は違う意味でストレス、って言うか。」
あの子達を見ていると、心が痛くなる。
真っ直ぐに彼を見つめる彼女。
そして、戸惑いながら、周囲の視線を気にしながら、彼女を見る彼。
幼い2人の視線の絡み合いは、見ていて最初は私が恥ずかしかった。
でも、今では私の中に違う気持ちが生まれている。
2人は自分の状況を素直に喜べないようで、2人からは幸せな雰囲気が漂ってこない。
そんな光景は、“恥ずかしい”と感じる気持ちを消してしまった。
「見ていて…こっちが切なくなる。」
「瑠璃?」
私が中学生の頃の周囲の付き合いは、もっと幼い感じだったと思う。
唯一、杏依だけが特別な感じで、でもそれは彼女と新堂さんの環境を考えれば仕方がないことだと思った。
正直、今でも杏依の相手がどうして新堂さんなのだろうと思う気持ちはある。
杏依はいつか松原君と付き合うのだと思っていた。
由佳が松原君を好きなことは知っていたが、松原君が杏依以外の人と付き合う事など考えられなかったし、想像もしなかった。
だけど、それは実現されず、杏依は新堂さんと付き合い結婚した。
そして、松原君は由佳と付き合い始めた。
そんな友人達の付き合いを見てきた私には、むつみちゃん達を見ていると、妙な気持ちが沸き起こる。
確かに私の友人達だって、何の苦労も悲しみもなく幸せを手に入れた訳ではないと思うが、それでも幸せそうだと感じる事が出来た。
そんな風に、幸せそうで楽しそうで、笑顔に満ち溢れる付き合いではなく、むつみちゃんの恋は、まるで壊れそうな脆いガラス。
外部からの力が加わると確実に壊れてしまうガラスの建物。
それを分かっていながらも、丁寧に組み立てる彼女。
「とても真っ直ぐな子なの。あまりにも真っ直ぐで素直で。全部、1人で抱えて困っているって言わないの。見ていれば分かるのに、それなのに大丈夫、平気だって。頼ってくれないから見ていて辛い。」
「そんなに真剣に考えなくても。まだ3日目でしょ?」
「…そうね。」

突然、私は自分の中に気持ちが落ち着く場所を見つけた。
祥子が言ったように、私は引き返せない。
でも、他の何にも惑わされないで、他の人なんて関係なく。私は個人個人だけを見ても許されると思う。
「でも、この恋を見守りたいって思ったの。」
私が何かをして“守る”事は出来ないけれど近くにいて、でも遠い存在の私が見守る事は、許されるのだろうか?
「私に出来る事は協力したいの。」
杏依が望んでいるから、そう思う気持ちは確かにあるが、それとは別に、私自身の中に何かが生まれ始めていた。
傍観者の1人である私を、動かす何かを、あの少女は持っている。
「瑠璃。」
顔を上げると、由佳の笑顔があった。
「私は何も出来ないけれど、私も、その恋が守られていく事を…祈っているわ。」
むつみちゃんとは無関係である由佳からの言葉を、私は心から嬉しいと思った。
「でも瑠璃。自分の事は?当分彼氏を必要としないわね。」
由佳の少し呆れた声を聞き、私は笑い声を零した。
「そっちは、また今度。」
今日も彼女の笑顔が見れますように。
少しでも一瞬でも。
心から彼女が笑ってくれるように。

壊れそうな冷たいガラスが、暖かいぬくもりに包まれますように。

 

                   ◇傍観者・完◇