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『不思議の国の数学者』

2023年05月05日 | 映画(は行)
『不思議の国の数学者』(英題:In Our Prime)
監督:パク・ドンフン
出演:チェ・ミンシク,キム・ドンフィ,パク・ビョンウン,パク・ヘジュン,チョ・ユンソ他
 
前日、アップリンク京都で3本ハシゴして終電で帰宅したため、結構へろへろでした。
この日の晩は動物園前に落語を聴きに行くことになっていて、
夕方まで家でおとなしくしていようかと思いましたが、
これだけはどうしても観逃したくなくて、シネマート心斎橋へ。
 
チェ・ミンシクソン・ガンホに引けをとらないほど素晴らしい俳優だと思います。
だけど、すごく怖い作品に出ているイメージが強いのです。
特に『オールド・ボーイ』(2003)が凄絶すぎて、彼の顔を見るだけで狂気を思い出す。
しかしこの無愛想ながら愛情深い訳あり数学者には心底惹かれました。
 
母子家庭に育ったジウは、名門私立高校に特別枠で入学。
特別入学とは、経済的に恵まれないけれど成績優秀な子どもが学費を免除される制度。
富裕な家庭の子どもが圧倒的に多く、保護者たちは特別入学者をよく思っていない。
そんな状況下では友だちもできず、勉強もはかどらなくて落ちこぼれ寸前。
 
全寮制のこの高校で、同級生たちからいいように利用されているジウは、
ある日、酒やらつまみやらの持ち込みを託され、運悪く警備員ハクソンに見つかってしまう。
脱北者らしいハクソンのことを生徒たちはひそかに「人民軍」と呼んでいる。
 
教師に問い詰められても同級生の名前を口にしなかったジウは、罰として1カ月間の退寮を迫られるが、
母親に心配をかけたくないから、家に帰ることはできない。
校舎の隅に隠れているところをまたしてもハクソンに見つかり、
せめて雨が止むまではここにいさせてほしいと頼んだところ、しぶしぶ彼の部屋に入れてくれる。
 
翌朝、登校したジウは、自分には解けるはずもない宿題が解かれていることに気づく。
ハクソンが数学を得意とすると知り、自分に教えてほしいと懇願するのだが……。
 
学歴がすべての韓国社会で、親が子どもに望むのは、とにかく良い大学へ行くこと。
幼い頃に父親を亡くしたジウは、母親の期待に応えて進学校へ入学できたまではよかったけれど、
同級生たちとは暮らしが違いすぎるから、ちっとも親しくなれません。
教師は教師で、特別入学者たちをとっとと落ちこぼれにして追い出したいと思っています。
よその公立高校へ行けばトップの成績を取れるのだから、そっちのほうがいいじゃないか、てな感じで。
 
チェ・ミンシク演じるハクソンがジウに数学を教えるシーンが本当に面白い。
結果は関係ない、過程が大事だから、とにかく考えろと。
公式をまるごと暗記するのではなく、なぜそうなるのかを考える。
試験でいい点を取って成績を上げることしか考えられなかったジウの思考がだんだん変わってゆきます。
 
クラスで誰からも相手にされていないジウになぜか興味を示す女子生徒ボラム。
最初はウザイやっちゃなと思っていましたが、彼女には彼女の悩みがある。
「こいつのことが好きなの」とサラっとハクソンに明かしちゃうところがすごく可愛かった。
 
ハクソンにジウが音楽を聴かせてみるシーン、またその逆のシーンも素晴らしい。
円周率が音に変わる。生でこのピアノ演奏を聴いてみたいと思いました。
 
先月観た作品の中でいちばん好きでした。チェ・ミンシクのこと、もう怖くない。

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