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きょうの潮流

2017-08-23 | コラム

「それは、一度見たあとでは決して見紛(まが)うことのない特徴のはっきりしたものであった」。そう加藤周一が作品を評し、「純粋芸術家」と称したのがアルベルト・ジャコメッティでした針金のように細長い立像、どくろみたいに落ちくぼんだ眼窩(がんか)、細い線を幾重にも錯綜(さくそう)させながら立ち現れてくる肖像画。独特の身体表現で見る者を引き込む20世紀を代表する彫刻家の回顧展が、いま国立新美術館で開かれています虚飾を削るだけ削り、最後に残る姿。見えるものを見えるがままに表現することを追い求めました。その作業は人間の業をこえようとするほど激しく、破壊と試作の絶え間ないくり返しだったといわれますモデルとなった哲学者の矢内原伊作は来る日も来る日も深夜まで不動の姿勢。ちょっとでも身動きすると、画布の向こうの創作者は大事故に遭ったかのように絶望的な声を上げたといいます人間の本質を形にしようとしたジャコメッティは「戦争で多くの人が死んだ。私の知っている立派な友人もたくさん死んだ。私にとって戦争とはこういう知人の死にほかならない。生きていた人間がいなくなるということ、これはなんとしても納得できないことだ」と伊作も生前、こんな痛烈な批判を。「聖戦を呼号した軍国主義の責任者東条英機までが合祀(ごうし)されている靖国神社に参拝して首相たちは何を祈ろうというのか」。生の本質に迫る覚悟と勇気をもった芸術家と哲学者。世紀をこえた今も人間とは何かを問いかけています。


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