今日は、朝からとても良い天気だったので、気分もすこぶる良い。
ベランダのお花に水をやりながら、朝食はスパゲッティを食べようとか、お昼は友人とランチしようとか、考えていた。
あっ、映画!
突然、閃いた。
確か今日で上映が終わってしまう作品があったはず。
「着信アリ Final」
「海猿 Limit of Love」
どちらかは観に行かなくっちゃ。
インターネットで上映時間の確認。
うーん、こりゃ12時40分からの「着信あり」だなぁ。
「海猿」は3時からしかない。
スパゲッティを茹でながら、スケジュールをたてた。
11時からランチ。45分でランチ終了。
移動時間20分。
うんうん、楽勝。
映画館の喫茶店でコーヒーでも飲んで・・・。
それより、何を着て行こうかな。
女友達と会うだけだし・・・。
お気楽なジーンズとTシャツでいいか。
冷房の効いた部屋から出て、待ち合わせのお店のJ&Mに向おうと自転車のペダルを踏み込んだ途端に、じゅって汗が噴き出した。
「あつっ、暑い!」
カンカン照りの太陽。白い雲が映える潔い位に青い空。
わたしは、ジーンズを選んだことを、たちまち後悔していた。
わたしは素足にジーンズやパンツが貼り付くのを嫌って、夏場でもパンストを着用している。冬場はパンストの2枚穿きなんてことをするが、真夏の炎天下でジーンズにパンストは暑い。ペダルを漕ぐ度に、わき腹に汗が滴り落ちる。蒸れそう・・・。
「車にするんだった。でもなぁ・・・」
J&Mは商店街の中にある。駐車が面倒なのだ。
やっとの思いで、お店に辿り着いた。冷房が心地よい。すうーっと汗が引いていくのが判る。腕時計を見ると、ちょうど約束の11時だ。馴染みのマスターの奥さんは、おしぼりとお冷を2つ持ってきた。
「里美さんは、遅れてくるんでしょう?」
里美というのは、わたしの会社の同僚で、いつもここでランチをしているのだ。休暇中にも拘らず、わたしはいつものとおり、彼女とここでランチをすることにしたのだ。わたしにとって、J&Mでのランチはほとんど習慣になっているので、この儀式をいつもどおり執り行わないと調子が出ない。
ところが、待てど暮らせど里美が来ない。20分も遅刻してやって来た。
「もおう、どうしたのよっ」
「ごめん、ごめん。minaが休んでいる分、忙しいのよ。なかなか仕事の流れが切れなくて」
そんなふうに言われちゃ、仕方がない。
休んでいる間の職場の出来事とか、いろいろおしゃべりして、楽しくランチを過ごした。
「あーっ、もう行かなくっちゃ。じゃね、mina」
里美が立ち上がった。時計を見ると、12時!
わたしもぐずぐずしていると映画に遅れちゃう。
再び、炎天下へ。
やっぱり暑い。
着替えたい。
ふと、この間、バゲーンで買ったさらさらプリーツの白いスカートのことを思い出した。1万8千円もしたのだ。薄給のわたしとしては、かなり頑張った出費だ。それなのに、その翌日、会社に着て行こうとしたら、いきなりのショック。
少しくらいだったらいいのだけれど、光に透けちゃって、下半身のシルエットがモロ判りなのだ。目を凝らせば、ショーツの色やデザインまで見えてしまう。とても出勤着にするわけにはいかない。泣く泣く、クローゼットの奥深くに仕舞い込んだ。
「そうよ、あれよ、あれ。こんな時でもなきゃ、着るチャンスはないわ」
こんな暑い時こそ、ああいう感じが涼しげでいいわ。同僚に見られるのは、恥ずかしいけれど、そうじゃないなら、別にいいもの。
自宅まで10分。
着換えに5分。
映画館まで20分・・・いいえ、急げば15分。
開演まで40分・・・どうせ最初の10分は、予告編だから・・・十分に間に合う!
わたしは自転車を必死で漕いだ。
自宅に付いた頃には、汗びっしょり。シャワーを浴びたいくらい。でも、時間がない。
急いで、スカートに穿き替えた。
「ああ、せめて冷たいビールを一杯」
頭の中に、映画館の大スクリーンの前で、冷えたビールを飲みながら映画鑑賞しているわたしの姿が浮かんだ。
「いいなぁ、それ」
彼氏(いないけど)とのデートでは、とてもできないこと。会社の同僚とでも、そんなの無理ね。せいぜいコーラ。
次の瞬間には、バックの中に冷蔵庫から取り出した缶ビールを2本、放り込んでいた。
サァァーーーッと風が足元を吹き抜けていく。下半身が嘘のように軽い。
「ああ、気持ちいい。やっぱ、着替えて正解。でも、急がなくっちゃ」
わたしは懸命に自転車を走らせた。実は、車にしようかと随分悩んだのだけれど、飲酒運転になっちゃうしね。(自転車でもそうなんだけれどね、へへへ。)そんなことを心配しながらビールを飲んだのでは、ちっとも美味しくないだろうと思って、自転車にしたのだ。それと、適度に汗をかいた後の方が、ビールが美味しい。
こうなると、噴き出す汗も苦にならない。
映画館には上映5分前に着いた。
「よしっ」
気合を入れたわたしはチケットを買い求め、場内に入った。
既に照明が落ちていたので、内部の様子が判らず、しばらく立ったまま様子を伺う。
次第に目が慣れてくると、観客は私の含めたった3人であることが判明した。
最終日だと言うのに、わたしと若いカップル1組だけとは何とも寂しい。しかも、彼らは、わたしのことなんか気にもせずに、キスをしたり、何やらごそごそしている。正に、傍若無人いちゃいちゃし放題である。正しい映画鑑賞の態度とはとても言えない。
ああ、羨ましい・・・もとい、嘆かわしい。
いい若いモンが、こんなところで。
やるなら、ズバッとラブホに行きなさいよっ、ズバッと。
ま、周りに誰もいないから、貴方たちが何をしようと、わたしには関係ないけどね。
むしろこの鑑賞環境は、わたしには好都合だ。
わたしも好きにやらせてもらうわよ。
へへへ。
わたしは意気揚々とバックから缶ビールを取り出し、栓を開けた。
プシュワァァァァァァァ・・・・・・。
『きゃあぁぁぁぁぁ・・・・・・』
わたしは、声にならない悲鳴を上げた。
小学生でも知ってる「缶ビールは振っちゃダメよの法則」
わたしは忘れていた。
全力で自転車を疾走させたわたしは、それこそ縦横前後、あらゆる方向に缶ビールをシェイクしていた。後の祭りとはこのこと。
盛大に吹き上げたビールは、わたしの下ろしたての白いスカートを瞬く間に侵食し、びしょびしょにしてしまった。
暗いからダメージのほどはよく判らないが、お漏らししたみたいに、ショーツまでぐっしょり濡れてしまった。気持ちの悪いこと、この上ない。
わたしは慌てて、缶ビールを隣の席のカップホルダーに置くと、バックからハンカチを取り出した。びしょ濡れのスカートは、ぺったりと太腿に張り付いている。
わたしは前をハンカチで押さえ、へっぴり腰で席を立った。
トイレで何とかしよう。
通路へのドアを開けると、まばゆいばかりの光がわたしの全身を射った。
ひぇぇぇぇぇぇぇぇ。
再び、上げる声にならない悲鳴。
濡れそぼったスカートは、全くの透明と化し、太腿はおろかパンストの縦の縫い目を通してショーツまで丸見えなのだ。
バタンッ。
わたしはドアを閉め、後ずさりした。
どうしよう。早く拭くかどうかしないと、スカートは黄色い染みになってしまいそうだし、かと言って、こんな格好では、10メートルも先にある女子トイレまで辿り着けそうもない。
!
そうよ。
一計を案じたわたしは、スカートを15度くるりと回した。
これで一番ひどい部分は、身体の側面になった。
よしっ。
わたしは意を決して、通路に飛び出した。壁際に身体をへばりつかせ、足早にトイレに向った。
女子トイレに辿り着いた時は、安堵から、思わず涙がこぼれそうになった。
わたしはハンカチに水を含ませると、一生懸命にビールを拭き取った。その甲斐あって、ビール臭とか黄ばみは取れたような気がした。
でも・・・、でもでもでも。
ショーツとパンストが・・・・・・。
わたしは意を決して、個室に入ると、パンストとショーツを脱いだ。
スッポンポンになると、行くとこまで行ったなという感じで、かえって覚悟というか開き直りというか、妙にさばさばした心境になって、心が落ち着いてきた。
「ふんっ。それがどうしたというのよ。人間、生まれた時は、みんな裸よっ」
わたしは不敵にそう呟くと、手にビールでびしょびしょのショーツとパンストを携え、洗面台に向った。勿論、洗うためだ。
わたしは、ハンドソープを大量にショーツとパンストに塗すと、ごしごしと手洗いした。自宅で洗濯する時も、こんなに一心不乱になったことはない。
ぎゅ~っ。
全知全霊をかけて、洗い終わったショーツとパンストを両手で絞った。
広げて匂いを嗅ぐと、ソープの匂いだけで、ビールの匂いはしなかった。
よしっ。オッケー、オッケー。
でも、乾かさないと、特にショーツは穿けそうになかった。
「仕方ないわ」
わたしは、ショーツとパンストをバックに忍ばせると、席に戻った。
これから先のことは、いくら窮余の策と言っても、映画愛好家として許されることではないと思うが、正直に告白する。
観客がほとんどいないことをいいことに、あろうことか、わたしは、濡れているショーツとパンストを前席にかけて乾かしたのだ。
「多分、この映画が終わる頃には、乾いているはずよ(by mina)」
心胆を寒からしめるようなこの所業、恐らくそれは、この作品「着信ありファイナル」が怖かったからだろうと思うのだが、観ている間中、ホント、スースーして震えがきそうだった。
エンドロールが始まったので、わたしはショーツを手に取った。
駄目だ、まだ、全然乾いていない。
おっ、パンストは腰のゴムの部分が湿っぽいけれど、他は乾いているわ。
よーしっ。
わたしはスッポンポンよりもましだ、せめてパンストだけでもと思って、パンストを穿いた。スカートの方は濡れてはいるが、透き通ってはいない。
よし、よし、よーしっ。これなら、誰にも判らないって。
わたしは、ショーツをバックに仕舞うと、席を立った。
悲惨な缶ビール事件があったとは言え、鑑賞環境も良く、作品自体もまずまず楽しめた。
いいんじゃないの、これで。
パンフレットを記念に買って、わたしは映画館を後にした。
映画館の外は、依然として炎天下だった。じめっとしたわたしの下半身も、みるみるうちに乾いてくる。
minaの人生の中で、暑いのをこんなにうれしく感じたことはなかった。
わたしは気分良く自転車の跨ると、帰路についた。
フンフンフン♪
鼻歌まででる。
あれは、交差点で信号待ちして、青になったので、交差点を渡り、しばらく行ったところだった。
大型トラックが歩道を走るわたしの自転車を追い抜いていった。
ブワァァァァッと一陣の風が舞った。
スカートがっ。
そんなっ。
わたしの左手は、映画のパンフレットが入ったビニール袋を持っている。
右手はハンドルを握っている。
どうしようもなかった。
盛大に捲くれ上がったスカートの端が、わたしの頬をかすめた。
いやぁぁぁぁぁぁぁっ。
自転車を急停車させたわたしは、眼を瞑っていた。
そのままの状態で、手探りでスカートの裾を整えた。
目を開くのが怖かった。
心臓がばくばくしている。
恐る恐る目を開くと、若いカップルと40歳くらいのおばさんが、わたしの斜め前を歩いてくる。
カップルの女の子は、わたしから目を背けた。男の子は、わたしの顔を興味津々で見ている。
おばさんは、変なものを見るような顔をして、わたしをじろじろ見ている。
あああ、やっぱり見られちゃったんだ。
顔から火が出るほど恥ずかしかった。
でも、わたしは何事もなかったかのようなふりをして、自転車をスタートさせた。
一刻も早く、その場を立ち去りたかった。
思うに、これは呪いに違いない。
あの映画を見た呪いだ。
恐るべし、「着信アリ Final」
えっ?
映画のレビュー?
そんなもの、書けるわけがないでしょう。
全部、あの衝撃の出来事で、どっかに飛んでいってしまいましたっ。
どんな話だったかも、忘れてしまいましたっ。
みなさんも、こんな怖い経験をしたくなかったら、「着信アリ Final」なんか観に行かないことね。
えっ? もう公開終了したって?
そうでした。わたしが観に行ったのは、最終日。
じゃ、これは、最終日の呪いということかしら。
ま、それでも観たいというのなら、DVDで観ることね。
彼女と2人で自室で観るといいわ。
そしたら、彼女が下着を脱ぐかもなんて、つまらない期待はしないことね。
絶対に、ビールを彼女のスカートにこぼしたりしちゃ駄目よ、いいこと?
ふうううう。
minaの最低な1日でした。
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ベランダのお花に水をやりながら、朝食はスパゲッティを食べようとか、お昼は友人とランチしようとか、考えていた。
あっ、映画!
突然、閃いた。
確か今日で上映が終わってしまう作品があったはず。
「着信アリ Final」
「海猿 Limit of Love」
どちらかは観に行かなくっちゃ。
インターネットで上映時間の確認。
うーん、こりゃ12時40分からの「着信あり」だなぁ。
「海猿」は3時からしかない。
スパゲッティを茹でながら、スケジュールをたてた。
11時からランチ。45分でランチ終了。
移動時間20分。
うんうん、楽勝。
映画館の喫茶店でコーヒーでも飲んで・・・。
それより、何を着て行こうかな。
女友達と会うだけだし・・・。
お気楽なジーンズとTシャツでいいか。
冷房の効いた部屋から出て、待ち合わせのお店のJ&Mに向おうと自転車のペダルを踏み込んだ途端に、じゅって汗が噴き出した。
「あつっ、暑い!」
カンカン照りの太陽。白い雲が映える潔い位に青い空。
わたしは、ジーンズを選んだことを、たちまち後悔していた。
わたしは素足にジーンズやパンツが貼り付くのを嫌って、夏場でもパンストを着用している。冬場はパンストの2枚穿きなんてことをするが、真夏の炎天下でジーンズにパンストは暑い。ペダルを漕ぐ度に、わき腹に汗が滴り落ちる。蒸れそう・・・。
「車にするんだった。でもなぁ・・・」
J&Mは商店街の中にある。駐車が面倒なのだ。
やっとの思いで、お店に辿り着いた。冷房が心地よい。すうーっと汗が引いていくのが判る。腕時計を見ると、ちょうど約束の11時だ。馴染みのマスターの奥さんは、おしぼりとお冷を2つ持ってきた。
「里美さんは、遅れてくるんでしょう?」
里美というのは、わたしの会社の同僚で、いつもここでランチをしているのだ。休暇中にも拘らず、わたしはいつものとおり、彼女とここでランチをすることにしたのだ。わたしにとって、J&Mでのランチはほとんど習慣になっているので、この儀式をいつもどおり執り行わないと調子が出ない。
ところが、待てど暮らせど里美が来ない。20分も遅刻してやって来た。
「もおう、どうしたのよっ」
「ごめん、ごめん。minaが休んでいる分、忙しいのよ。なかなか仕事の流れが切れなくて」
そんなふうに言われちゃ、仕方がない。
休んでいる間の職場の出来事とか、いろいろおしゃべりして、楽しくランチを過ごした。
「あーっ、もう行かなくっちゃ。じゃね、mina」
里美が立ち上がった。時計を見ると、12時!
わたしもぐずぐずしていると映画に遅れちゃう。
再び、炎天下へ。
やっぱり暑い。
着替えたい。
ふと、この間、バゲーンで買ったさらさらプリーツの白いスカートのことを思い出した。1万8千円もしたのだ。薄給のわたしとしては、かなり頑張った出費だ。それなのに、その翌日、会社に着て行こうとしたら、いきなりのショック。
少しくらいだったらいいのだけれど、光に透けちゃって、下半身のシルエットがモロ判りなのだ。目を凝らせば、ショーツの色やデザインまで見えてしまう。とても出勤着にするわけにはいかない。泣く泣く、クローゼットの奥深くに仕舞い込んだ。
「そうよ、あれよ、あれ。こんな時でもなきゃ、着るチャンスはないわ」
こんな暑い時こそ、ああいう感じが涼しげでいいわ。同僚に見られるのは、恥ずかしいけれど、そうじゃないなら、別にいいもの。
自宅まで10分。
着換えに5分。
映画館まで20分・・・いいえ、急げば15分。
開演まで40分・・・どうせ最初の10分は、予告編だから・・・十分に間に合う!
わたしは自転車を必死で漕いだ。
自宅に付いた頃には、汗びっしょり。シャワーを浴びたいくらい。でも、時間がない。
急いで、スカートに穿き替えた。
「ああ、せめて冷たいビールを一杯」
頭の中に、映画館の大スクリーンの前で、冷えたビールを飲みながら映画鑑賞しているわたしの姿が浮かんだ。
「いいなぁ、それ」
彼氏(いないけど)とのデートでは、とてもできないこと。会社の同僚とでも、そんなの無理ね。せいぜいコーラ。
次の瞬間には、バックの中に冷蔵庫から取り出した缶ビールを2本、放り込んでいた。
サァァーーーッと風が足元を吹き抜けていく。下半身が嘘のように軽い。
「ああ、気持ちいい。やっぱ、着替えて正解。でも、急がなくっちゃ」
わたしは懸命に自転車を走らせた。実は、車にしようかと随分悩んだのだけれど、飲酒運転になっちゃうしね。(自転車でもそうなんだけれどね、へへへ。)そんなことを心配しながらビールを飲んだのでは、ちっとも美味しくないだろうと思って、自転車にしたのだ。それと、適度に汗をかいた後の方が、ビールが美味しい。
こうなると、噴き出す汗も苦にならない。
映画館には上映5分前に着いた。
「よしっ」
気合を入れたわたしはチケットを買い求め、場内に入った。
既に照明が落ちていたので、内部の様子が判らず、しばらく立ったまま様子を伺う。
次第に目が慣れてくると、観客は私の含めたった3人であることが判明した。
最終日だと言うのに、わたしと若いカップル1組だけとは何とも寂しい。しかも、彼らは、わたしのことなんか気にもせずに、キスをしたり、何やらごそごそしている。正に、傍若無人いちゃいちゃし放題である。正しい映画鑑賞の態度とはとても言えない。
ああ、羨ましい・・・もとい、嘆かわしい。
いい若いモンが、こんなところで。
やるなら、ズバッとラブホに行きなさいよっ、ズバッと。
ま、周りに誰もいないから、貴方たちが何をしようと、わたしには関係ないけどね。
むしろこの鑑賞環境は、わたしには好都合だ。
わたしも好きにやらせてもらうわよ。
へへへ。
わたしは意気揚々とバックから缶ビールを取り出し、栓を開けた。
プシュワァァァァァァァ・・・・・・。
『きゃあぁぁぁぁぁ・・・・・・』
わたしは、声にならない悲鳴を上げた。
小学生でも知ってる「缶ビールは振っちゃダメよの法則」
わたしは忘れていた。
全力で自転車を疾走させたわたしは、それこそ縦横前後、あらゆる方向に缶ビールをシェイクしていた。後の祭りとはこのこと。
盛大に吹き上げたビールは、わたしの下ろしたての白いスカートを瞬く間に侵食し、びしょびしょにしてしまった。
暗いからダメージのほどはよく判らないが、お漏らししたみたいに、ショーツまでぐっしょり濡れてしまった。気持ちの悪いこと、この上ない。
わたしは慌てて、缶ビールを隣の席のカップホルダーに置くと、バックからハンカチを取り出した。びしょ濡れのスカートは、ぺったりと太腿に張り付いている。
わたしは前をハンカチで押さえ、へっぴり腰で席を立った。
トイレで何とかしよう。
通路へのドアを開けると、まばゆいばかりの光がわたしの全身を射った。
ひぇぇぇぇぇぇぇぇ。
再び、上げる声にならない悲鳴。
濡れそぼったスカートは、全くの透明と化し、太腿はおろかパンストの縦の縫い目を通してショーツまで丸見えなのだ。
バタンッ。
わたしはドアを閉め、後ずさりした。
どうしよう。早く拭くかどうかしないと、スカートは黄色い染みになってしまいそうだし、かと言って、こんな格好では、10メートルも先にある女子トイレまで辿り着けそうもない。
!
そうよ。
一計を案じたわたしは、スカートを15度くるりと回した。
これで一番ひどい部分は、身体の側面になった。
よしっ。
わたしは意を決して、通路に飛び出した。壁際に身体をへばりつかせ、足早にトイレに向った。
女子トイレに辿り着いた時は、安堵から、思わず涙がこぼれそうになった。
わたしはハンカチに水を含ませると、一生懸命にビールを拭き取った。その甲斐あって、ビール臭とか黄ばみは取れたような気がした。
でも・・・、でもでもでも。
ショーツとパンストが・・・・・・。
わたしは意を決して、個室に入ると、パンストとショーツを脱いだ。
スッポンポンになると、行くとこまで行ったなという感じで、かえって覚悟というか開き直りというか、妙にさばさばした心境になって、心が落ち着いてきた。
「ふんっ。それがどうしたというのよ。人間、生まれた時は、みんな裸よっ」
わたしは不敵にそう呟くと、手にビールでびしょびしょのショーツとパンストを携え、洗面台に向った。勿論、洗うためだ。
わたしは、ハンドソープを大量にショーツとパンストに塗すと、ごしごしと手洗いした。自宅で洗濯する時も、こんなに一心不乱になったことはない。
ぎゅ~っ。
全知全霊をかけて、洗い終わったショーツとパンストを両手で絞った。
広げて匂いを嗅ぐと、ソープの匂いだけで、ビールの匂いはしなかった。
よしっ。オッケー、オッケー。
でも、乾かさないと、特にショーツは穿けそうになかった。
「仕方ないわ」
わたしは、ショーツとパンストをバックに忍ばせると、席に戻った。
これから先のことは、いくら窮余の策と言っても、映画愛好家として許されることではないと思うが、正直に告白する。
観客がほとんどいないことをいいことに、あろうことか、わたしは、濡れているショーツとパンストを前席にかけて乾かしたのだ。
「多分、この映画が終わる頃には、乾いているはずよ(by mina)」
心胆を寒からしめるようなこの所業、恐らくそれは、この作品「着信ありファイナル」が怖かったからだろうと思うのだが、観ている間中、ホント、スースーして震えがきそうだった。
エンドロールが始まったので、わたしはショーツを手に取った。
駄目だ、まだ、全然乾いていない。
おっ、パンストは腰のゴムの部分が湿っぽいけれど、他は乾いているわ。
よーしっ。
わたしはスッポンポンよりもましだ、せめてパンストだけでもと思って、パンストを穿いた。スカートの方は濡れてはいるが、透き通ってはいない。
よし、よし、よーしっ。これなら、誰にも判らないって。
わたしは、ショーツをバックに仕舞うと、席を立った。
悲惨な缶ビール事件があったとは言え、鑑賞環境も良く、作品自体もまずまず楽しめた。
いいんじゃないの、これで。
パンフレットを記念に買って、わたしは映画館を後にした。
映画館の外は、依然として炎天下だった。じめっとしたわたしの下半身も、みるみるうちに乾いてくる。
minaの人生の中で、暑いのをこんなにうれしく感じたことはなかった。
わたしは気分良く自転車の跨ると、帰路についた。
フンフンフン♪
鼻歌まででる。
あれは、交差点で信号待ちして、青になったので、交差点を渡り、しばらく行ったところだった。
大型トラックが歩道を走るわたしの自転車を追い抜いていった。
ブワァァァァッと一陣の風が舞った。
スカートがっ。
そんなっ。
わたしの左手は、映画のパンフレットが入ったビニール袋を持っている。
右手はハンドルを握っている。
どうしようもなかった。
盛大に捲くれ上がったスカートの端が、わたしの頬をかすめた。
いやぁぁぁぁぁぁぁっ。
自転車を急停車させたわたしは、眼を瞑っていた。
そのままの状態で、手探りでスカートの裾を整えた。
目を開くのが怖かった。
心臓がばくばくしている。
恐る恐る目を開くと、若いカップルと40歳くらいのおばさんが、わたしの斜め前を歩いてくる。
カップルの女の子は、わたしから目を背けた。男の子は、わたしの顔を興味津々で見ている。
おばさんは、変なものを見るような顔をして、わたしをじろじろ見ている。
あああ、やっぱり見られちゃったんだ。
顔から火が出るほど恥ずかしかった。
でも、わたしは何事もなかったかのようなふりをして、自転車をスタートさせた。
一刻も早く、その場を立ち去りたかった。
思うに、これは呪いに違いない。
あの映画を見た呪いだ。
恐るべし、「着信アリ Final」
えっ?
映画のレビュー?
そんなもの、書けるわけがないでしょう。
全部、あの衝撃の出来事で、どっかに飛んでいってしまいましたっ。
どんな話だったかも、忘れてしまいましたっ。
みなさんも、こんな怖い経験をしたくなかったら、「着信アリ Final」なんか観に行かないことね。
えっ? もう公開終了したって?
そうでした。わたしが観に行ったのは、最終日。
じゃ、これは、最終日の呪いということかしら。
ま、それでも観たいというのなら、DVDで観ることね。
彼女と2人で自室で観るといいわ。
そしたら、彼女が下着を脱ぐかもなんて、つまらない期待はしないことね。
絶対に、ビールを彼女のスカートにこぼしたりしちゃ駄目よ、いいこと?
ふうううう。
minaの最低な1日でした。
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イタリアン・エロス映画のような
ストーリーですね。
これは、素晴らしいネタです。
えー、いつか、このネタを僕の
脚本に書いていいでしょうか?
ころんでもただでは起きないの。
なんちゃって、悲惨・・・。
でも、やってくれる女優さんがいるかしら?
悲惨な役よ、これって。
笑っては失礼なんですが、とても面白く読ませていただきました。
下着を前の席にかけて干したって全然構いませんよ。
前に坐っていなければ。
でも、そんなお客さんがいたら、ドキドキして集中できなくなりそう。
そして、その時のminaさんの刺激的な姿を想像したら……いえ、そんなこと想像してはいけません。
とにもかくにも、大変な一日、お疲れ様でした。
ちなみに、ワタクシは映画館でビールは絶対に飲みません。
トイレが近くなるから……。
とほほの映画鑑賞でした。
映画館でビールは飲まないようにします。
映画の中の「こねた」にいいです。
たとえば、ベティ・ブルーでも、
本筋と関係なく、こねたがあるような
かんじで。
あれでは、主人公のジャンユーグが
「おっとが相手してくれないの!」と
いう人妻におそいかかられたり・・
します。
ああいう、ヨーロッパ映画の
本筋と並行してある、こねた
が好きです。
ニューシネマパラダイスとか
だいすきです
おもしろそうですね。
いつかひがしさんの撮った作品を観てみたいです。
頑張って。
お邪魔させていただいております。
宋理亞です。
うわわ……ご愁傷様です;
本当にこんなことがあるのですね……
呪いかもしれません……
制作記録ドキュメンタリーのような番組で、着信アリ一作目で、何か得体のしれない影が映っていた……というのを聞いたことを思い出しました……
しかし、イヤな呪いですね……
着信アリ ファイナルは面白そうだと思っていながらも、一人では怖くて見に行けませんでした……
CMにビビリまくりでは、本編は余計ダメでしょう……;
着信アリシリーズは、名作のようなので、DVDが出たら、一回くらいは見てみようかな、と思っております。
彼女と二人で~♪ は、無理ですが;(いないのです……;)
乱文失礼いたしました。
気温の高い日々が続いておりますね。
お身体ご自愛ください。
それでは、宋理亞でした。
これからも、映画芸術のために
がんばってゆきます!