minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

mina外伝(その2)

2005年03月12日 | mina外伝
喫茶店を出たわたしと里美は、件の居酒屋がオープンする6時まで、まだ少し時間があるので、街中をブラブラすることにした。
特に目的もないのに、デパートや商店街に足を運んで、あれこれと観て回るのは、我々女性の楽しみのひとつなのだ。
例え何も買わないとしても・・・わたしの場合、それはいつものことで、その理由はお金がないという単純な理由からだったが・・・こんな新しいデザインのバッグや服があるとか、あそこに新しいお店がオープンしたとか、そういった情報を、いち早く入手しておきたい。そうじゃないと生き腐れしてしまうような気がして不安で堪らなくなる。そんな強迫観念がいつもあるのだ。そんな気持ちは男性には理解できないかも知れないけれど、それがなくなったら、わたしはもうおしまいだと思っている。わたしにそんな時がくるとしたら、それはわたしが女であり続けること自体に興味がなくなり、生きる意欲も失った時だろう。
何も買うことができなくたって、観て回るだけで楽しいのだ。何が楽しいのかと問われれば、それは、もちろん来るべき時に備えているのだと答えるつもりである。お金持ちの彼氏ができれば、そうやって仕入れた情報をフル動員して、あれもこれも買って貰うのだ。そんな夢みたいなことをいつも考えている・・・・・・。だから、こうやって里美と何気なく街中をぶらついているように見えても、わたしの眼は、獲物を狙い、品定めするハンターのように、ぎらついているのだ。
どんなに聖人君主を気取っていたって、男が若い女と一番したいことはセックスだろう。わたしは、男がそう考えることに、失望はしない。それどころか、性欲が強いということは、極めて重要なことだと考えている。その本能がなくなれば、人類は滅びてしまう。女にだって性欲はある。わたしも好きな男に抱かれたいと思う。セックスそのものが快感を与えてくれるからだ。そして、そのこと以上に重要なのは、セックスの代償として、男は女に様々なものを与えようとする。与えるものは、結局はお金だ。男のその行為は、女を自分の支配下に置き、所有するための不可欠な儀式なのだ。正式に結婚している夫婦だって、夫が妻に生活のためのお金を渡すことは当然の義務とされているし、夫がそれをしなくなったら、たちどころに離婚の理由になる。一方、夫婦間のセックスは夫婦としての義務とされていて、正当な理由もなくセックスを拒めば、やはり離婚の理由になるそうだ。ならば、結婚していない男女がセックスする場合、その対価として、女がそれなりのものを請求しても、なんらやましいことはないはずだ。
身体を売っているのと同じだと軽蔑されてもよい。結局、どんなものをどのくらい買って貰えるかが自分の値打ちを決定するのではないか。わたしは、そう考えている。所詮、若い女の価値なんて、そんなふうにしか世の中は評価していないはずだ。
男を繋ぎとめる手段として、わたしがこの身体を利用しているのは事実だ。この若い肉体、つまりセックス以外に、わたしが男に差し出すものがないから。
それのどこが悪いのか。かぐや姫だって、求婚してくる男たちに、無理難題を言って、いろんなものを貢がせたではないか。
わたしがこんなふうに考えるようになったのも、つきあっていた彼氏にひどい仕打ちを受けたからだ。
わたしは俊夫に捨てられてから、やけになって、何人もの男とつきあっては肉体関係を結んだ。そうすることによって、俊夫を忘れようとしたのだ。男たちは、わたしの若い肉体に群がって、その美肉を堪能した。わたしは躊躇うことなく、彼らにその代償を求めた。そのことは、わたしを経済的に満たしはしたが、精神的には最低の状態にした。わたしは自分を正当化するために、あらゆる理由を考えたが、結局は自分自身を騙すことができなかった。果てしない堕落感と罪悪感に苛まれ、それを癒すために、さらに同じことを繰り返す。男から別れ際に手渡される1万円札を握りしめ、わたしはどうしようもない惨めさを感じていた。そこには、愛情なんて全くなかった。
私の唯一の親友である里美は、そのことを知っていた。合コンで知り合った男たちと、わたしが次々と肉体関係を結んだことも知っていた。彼女は彼女なりにわたしのことを心配して、誰かひとりの男と付き合うことを勧めてくれたのだ。
「さてと、お腹も空いてきたし、時間も丁度良くなってきたから、例のお店にいこうか?」
交差点で信号待ちをしている時に、里美が言った。時計を見ると、丁度6時になったところだった。
「そうね・・・・・・」
わたしは、「それじゃあ、あの居酒屋に行きましょう」と言いかけて、交差点の向こうに信じられないものを見つけて、目が釘付けになってしまった。
夢の中に現れたあの貧相ななりをした餓鬼が、交差点の向こうからこちらを見ていた。
「さ、里美~っ」
わたしは半泣きで、里美の袖を引っ張り、餓鬼の方を指差しながら、必死で訴えた。
「あそこに、夢に出てきた餓鬼が立っている」
里美は、びっくりしてわたしの顔を見て、わたしが本気で言っていることを確認すると、わたしの指差す方向を見た。
「どこ? どこにいるの?」
里美の声も上ずっている。
「ほら、あの赤いワンピースを着た女の人の後ろよ」
わたしは、里美に縋り付いて、立っているのがやっとの状態だった。
「ええ~っ? 赤いワンピースを着た女の人の後ろには、誰も居ないよ」
「そんなことないっ。ほら、わたしの時と同じよ。また、釣針のついた糸をひゅんひゅんと回している。きっと誰かを狙っているのよっ」
わたしは懸命に説明したが、里美は首を傾げるばかりだった。どうしたというのだろう。わたしにしか、あの餓鬼の姿は見えないのだろうか。
ひゅんっ。
風の切る音がして、餓鬼の放った釣針は、わたしの目の前に立っていた高校生くらいの男の子の背中に喰らいつくように突き刺さった。
「痛てっ」
男の子は、反射的に背中に手を回した。わたしには長さが5センチほどの釣針が、男の子の背中に突き立っているのが見えたし、痛そうだから、とってあげようかとも思った。ほんの1メートルも離れていないのだ。手を伸ばせば、簡単に届く距離だった。
しかし、次の瞬間、わたしは信じられない光景を見た。男の子の手は、その釣針を素通りしたのだ。男の子は、ちゃんとその釣針が突き刺さっている場所に手を持っていったのに、釣針に触れることができなかった。
男の子は、不思議そうな顔をして、後ろを振り返った。
切れ長の眼をした、まだ幼さの残る横顔だった。わたしは、彼のその時の顔を忘れることができない。
やがて信号が青に変った。わたしの前に立っていた男の子は、よほど急いでいたのだろう、脱兎のごとく、横断歩道に駆け出した。
「ききききーーーっ」
鋭いブレーキ音がして、続いて、どーんという衝撃音がした。
わたしの目の前から、高校生の男の子の姿は消え、かわりに大きな黒いレジャービークルが立ち塞がった。
「きゃーーっ、事故よ。人身事故っ。高校生が車に轢かれたっ」
みんなが口々に叫んでいる。
わたしには、ぴんと張った釣り糸がみるみるうちに赤く変色していくのが見えた。
「早く、車の下から彼を助け出せっ」
近くにいたサラリーマン風の男性が叫んでいる。
わたしは、何もできず、呆然とその様子を見ていた。男の子が車の下から、引きずり出されたが、頭からは出血しているし、もはや助かりそうもないのは明白だった。
赤い釣り糸が、ビーンと鳴った(ように聞こえた)。ぐっと力の入った釣り糸は、ビリビリと共鳴しながら、少年の身体から何かを引きずり出そうとしているように見えた。
その時であった。わたしは、確かにこの眼で見たのだ。ぼうっと青白く光る彼の身体が、引き剥がされるように、宙に抜け出すのを・・・・・・。
彼の光る身体は、全裸だった。背中に打ち込まれた釣針によって、彼は地上から釣り上げられていた。アスファルトの上には、相変わらず、彼の横たわった身体がある。それでは、今、目の前に釣り上げられている彼の身体は一体何なのだ。
全裸で青白く発光した身体から伸びている赤い釣り糸の先に眼をやると、そこには、あの餓鬼が必死の形相で釣り糸を手繰り寄せていた。餓鬼は、わたしが睨みつけているのに気付いていない。自分の姿を見ることのできる人間なんて存在しないと思い込んでいるのかも知れなかった。
わたしは、何故だか判らないのだが、無性に怒りが込み上げてきた。
「許せない」
わたしはそう叫んだ。
わたしは右手を天にかざした。わたしの右手とばかり思っていたそれは、毛むくじゃらの岩のような筋肉をもった鬼の手だった。爪は伸び放題で、切っ先は鋭く研ぎ澄まされており、触れただけで女の柔肉など切り裂かれてしまいそうだった。
「ああああーーーーっ」
わたしは意味不明の何かを絶叫していた。途端に、振りかざした右手の指先から白い稲妻がほとばしり出た。さすがに只ならぬ気配に気付き、餓鬼がわたしの存在を悟った時には、手遅れだった。まばゆいばかりの白い稲妻は、逃げることも叶わず、驚愕に眼を見開いたままの無防備の餓鬼にまともにぶち当たった。
とどーーーんっ
凄まじい震動音がして、わたしは吹き飛ばされ、尻餅をついた。見ると、赤い釣り糸は、稲妻の衝撃によって分断され、支えるものがなくなった男の子の身体が落下してくるではないか。
あぶない。
わたしに抱きとめられるとも思えなかったが、わたしは、男の子の身体を受け止めようと、落下地点に走った。間一髪、わたしは彼の身体を抱きとめた。
なんて軽い・・・・・・。
そして、なんて温かい・・・・・・。
彼の身体は、わたしの腕の中で、びくびくと鼓動していた。青白く発光した彼の身体は、まるで生命そのもののようだった。恐らく、わたしが抱いているのは、幽体離脱した彼の魂に違いなかった。
わたしは、彼の魂を抱き上げ、アスファルトに横たわる彼の身体の許に歩いて行った。
野次馬が取り囲んでいる彼の身体の横に立つと、わたしは、彼の魂をゆっくりと彼の身体の上に降ろしていった。真綿に水が吸い込まれるように、彼の魂は、彼の身体の中に戻っていった。
完全に戻ったのを見届けると、わたしは、彼の身体に覆いかぶさるようにして、一心に念じた。どうか生き返りますようにと・・・・・・。
それから後のことはわたしはよく覚えていないのだが、ずっと見ていた里美は、まるで奇跡を見ているようだったと言った。わたしが彼に口付けをすると、時間が戻るように、広がっていた血痕がみるみるうちに彼の身体に吸収され、やがて血色を取り戻した彼が眼を開けたと言うのだ。彼は立ち上がり、わたしに「ありがとう」と言った。
わたしはというと、彼のことよりも餓鬼のことのほうが気になっていた。
宙空を見ると、憤怒の表情で餓鬼がわたしの方を睨んでいる。稲妻の衝撃か、もともとぼろぼろだった衣服は、跡形もなく、消し飛んでいた。あばら骨が浮き出た痩せた体躯を震わせながら、餓鬼は叫んだ。
「おのれっ、酒呑童子っ。お前は、自然の摂理を妨げたのだぞ。それは決して許されることではないのだ。その少年の運命は、ここで死ぬことになっていた。それをお前は邪魔をした。必ず、神のお咎めがあろう。覚えておけっ」
呪詛の言葉を残すと、餓鬼の姿は空気に溶け込むように消えた。
「あの・・・・・・。お姉さんの名前を教えてくれませんか。助けてくれたお礼をしないといけませんから。僕は、武神俊夫と言います」
立ち上がった彼は、そう言った。辺りは、割れんばかりの拍手と歓声で沸いていた。
「そんなこと・・・・・・。気にしなくていいのよ。それよりも本当に大丈夫?」
正直、わたしにも何がどうなったのか、全く判っていなかった。彼が何ともないと言うので、わたしと里見は、その場から一刻も早く立ち去りたかった。なんだか面倒なことに巻き込まれるような気がしてきたからだ。
現に、お節介な野次馬が、「奇跡だ、奇跡だ」と叫び始めていた。
わたしはその高校生の彼を連れて、その場を逃げるように立去った。

30分後、わたしたち3人は、例の居酒屋に並んで腰掛けていた。
「ねえ、美奈。あなた、一体、彼に何をしたの?」
「別に・・・・・・」
わたしの隣には、すっかりわたしに心酔した高校生の彼が、潤んだ瞳でわたしを見詰めて座っている。彼の顔には、「もう貴女から離れません」という強い意志が、きっぱりと浮かんでいるし、里美は里美で、あの奇跡のような彼の復活劇が信じられないようなのだ。
それは無理もない。あんなことをやってしまった張本人のわたし自身が信じられないのだから、彼女に信じなさいと言っても無理な話だ。
「そう言えば、このお店の名前、酒呑童子じゃないの。偶然にしては、出来過ぎているわ」
里美は店の内装をぐるっと見回しながら、そう言った。
「そうねえ。わたしも今、気付いたわ」
「マスターに訊いたんだけれど、酒呑童子のお面なんて、飾っていないってさ。美奈、あんた、ホントにヤバいんじゃない。酒呑童子が取り憑いているのかもしれないわよ」
「よしてよ、そんな話・・・・・・」
「美奈さん、酒呑童子って、何のことですか」
隣でコーラを飲んでいた俊夫が、口を挟んで来た。
ああ、そうだった。今晩は、未成年を同伴しているんだった。これって、まずいよねぇ。彼に酒を飲ませたり、何か間違いがあったりしたら、青少年保護法でわたしが逮捕されてしまう。
「あなた、俊夫君って言ったわね。俊夫、俊夫、としおっ・・・・・・。あああ、わたしって、どうして、こうなんだろ」
それを聞いた里美がプッと噴き出した。
「美奈、あんた、ほんとに不幸な星の許に生まれてきたんだね。彼が俊夫っていう名前なのも、何かの縁よ。そうそう、俊夫君にはこの優しい里美お姉さんが教えてあげるね。この美奈お姉さんの前の彼の名前が俊夫っていうの。だから、貴方の名前が同じ俊夫って判ったので、ちょっと動揺したというわけなのよ」
「もう、よしてよ」
わたしは元気なく呟くように言った。
「前の彼って、美奈さんがフッたんでしょ? 気にしなくていいですよ。美奈さんには、もっと素晴らしい彼がすぐできますから」
高校生の俊夫が、一生懸命になってそんなことを言うので、わたしと里美は、思わず顔を見合わせてしまった。
「そう言えば、俊夫君、あの時、あなたはどこかに急いで向かおうとしていたみたいだったけれど、そちらの用事はもういいの? こんなところで、お姉さんたちと遊んでいて大丈夫なの?」
「あっ。しまった。彼女と待ち合わせをしていたんだった」
「ほら、言わんこっちゃない。きっと彼女、カンカンよ。どうする?」
「どうしよう。今から行っても、2時間も遅刻だし・・・・・・」
「とにかく、彼女に会って、素直に謝ることね。正直に言えば、きっと許してくれるわよ」
「正直に? そんなの信じてくれないに決まっているよ。車に轢かれて、一度、死んだみたいなんだけれど、綺麗なお姉さんが助けてくれたなんて話、誰が信じるっていうの」
「うう・・・、それはそうかもね」
「ねっ、美奈さん、携帯の番号を教えて」
俊夫がそう言うので、勢いに押されて、わたしは彼に携帯の番号を教えてしまった。里美がおやおやという顔でわたしと俊夫のやりとりを見ている。
「ありがと。また、連絡するね。じゃあ、今日は、ごちそうさまでした」
彼は、爽やかな笑顔を残して、行ってしまった。
「美奈、あの子は駄目よ。いくつ違うと思っているの」
「えっ? まさか、そんなこと・・・・・・。わたしが彼と? ありえるわけないじゃないの。馬鹿いわないでよ」
わたしは里美にそう答えたものの、内心、彼のことを気にし始めていた。わたしにだって、理性はある。もし、彼となるようになってしまったら、世間はわたしのことを許さないだろう。年増女が青少年を誑かしたと非難されるに決まっている。それでも、気になるのは、彼がわたしの好みのタイプだったからだ。
酒呑童子のことを調べることが目的だったのに、とんでもない方向に物事が進んでいきそうだ。
結局、その晩、判明したことは、酒呑童子のお面なんて、このお店には飾っていなかったということと、わたしが正真正銘のとんでもない大酒飲みであるということだった。
この晩も、気付いた時には、わたしは1升瓶を3本も開けていた。もちろん、ほとんどわたし1人が飲んだのだった。コップに2~3杯飲んだだけで、すっかり良い気分になっていた里美は、それほど飲んでも、ほとんど乱れないわたしを見て、「やはりあんたは酒呑童子が憑いているのよ。そうじゃなけりゃ、人間じゃないわ」とのたまった。
その後、1人で歩けない里美を放ってもおけず、わたしのマンションまで連れて来た。
「さあ、里美。あんたは、こっちの部屋のソファで寝て。わたしは向こうの部屋で寝るからね」
わたしは里美を寝かしつけると、シャワーを浴びたくなった。
洗面所に入ると、洗面台の鏡に、わたしの姿が映してみる。
「何よ。別に何の変りもないじゃない。今までのわたし同じ・・・・・・」
わたしはそう呟いた。
肩までの髪。黒目勝ちの瞳。ちょっぴりつんとした唇。こんな顔だって、綺麗だと言ってくれる男はたくさんいる。
わたしは、着ているものを全て脱いだ。
鏡の中の暗い背景に、浮かび上がったわたしの上半身は、自分でも溜め息が出るくらい、美しかった。弾力があって、形よく上向いた乳房は、俊夫もいつも褒めてくれた。それなのに、あいつは別の女を選んだのだ。お金持ちのお嬢さん。それがそんなにいいの。
許せない。でも戻ってきてくれたら。僕が間違っていた、そう言って。
戻ってきて。戻ってきてくれたら、わたしは・・・・・・。
許すの? あんなにひどいことをしたのよ。それでも、許すの?
やっぱり、許せない。でも、でも・・・・・・。
あああ、いつも思考が袋小路に陥ってしまう。
ふと気がつくと、わたしの後ろに、巨大な人影が見える。
でも、わたしは、もう驚かない。
「酒呑童子・・・・・・。あなたなのね」
「そうだ」
「今日の出来事は、みんな、あなたの力なのね」
「そうだ。しかし、みんな、お前が望んだことだ」
「あなたには、身体がないと聞いたわ。どうして、わたしにはあなたの身体が見えるの?」
「それは、お前が特別だからだ。わたしの首を切り落とした源頼光は、わたしの身体と首とを別々の場所に運び隠した。わたしの復活を恐れたのだ。以来、わたしは引き離された胴体を探して、国中を彷徨うことになった。お前には、あの源頼光の血が流れておるのだ。遠い先祖の記憶がお前にわたしの身体を見せているのだろう」
「わたしが源頼光の子孫? そんな馬鹿な」
「しかし、本当のことだから、仕方がない。こんなことになったのも、なにやら因縁を感じる」
「こんなこと? わたしと肉体関係をもったこと?」
「いや、お前の命を救ったことだ」
「それじゃあ、わたしが風呂場で転倒して死んだという餓鬼の話は、本当のことだったの?」
「そうだ。お前は、あの時、一旦、死んだ」
「どうして、わたしを助けたのよ」
「それは、あの酒場で、お前と約束したからだ」
「あのトイレの赤い鬼の面、あれは、あなただったの?」
「そうだ。わたしは、全国を放浪して、酒の飲めそうな場所に辿り着く。あの晩もたまたまそうだった」
「わたしを助けて、その見返りのつもりで、わたしを抱いたの?」
「普段なら、そんなことは考えもしない。今のお前は、3つあるという鬼の命で、生きている。わたしの命の1つを分け与えたのだ。お前の命が消えようとしている時、はっきりと源頼光の痕跡が見えたのだ。それならば、お前を抱けば、古の記憶に辿り着くやも知れない。わたしの身体の隠し場所が判るかもしれないと思ったのだ」
「とにかく、わたしはあなたにとって特別の存在なのね」
「そのとおりだ。鬼は決して嘘はつかない」
「あなたの身体の隠し場所を探すうえで、わたしが必要だということなのね」
「そのとおりだ」
「どうすれば、隠し場所が判るの」
「お前を抱くことによって、お前の中に眠っている古代の記憶の一部が、わたしの頭の中に入ってくる」
「それじゃ、あなたもわたしを抱きたいのね」
「そうだ・・・・・・」
「じゃあ、きて・・・・・・」
わたしはお尻を彼に掲げた。恥ずかしいことだが、彼と話しているうちに、どうしようもなく昂ぶってきて、わたしのあそこは洪水のようになっていた。ひょっとしたら、彼から貰った鬼の命の影響なのかも知れなかった。
「いいのか?」
彼はわたしに確かめた。
「いいって言ってるでしょう。はやく入れて」
自分から誘うなんて、言っているはなから恥ずかしくなる。
でも、仕方なかった。わたしの身体の中心は、セックスがしたくて堪らなくて、わたしの理性を完全に封じ込め、本能だけを目覚めさせていた。わたしは、彼の目の前に、お尻を突き出し、さらに、両手で左右に開いて見せた。
「ねっ、びっしょりと濡れているでしょう。もう、堪らないの。はやく突き刺してっ」
「うむ」
彼は岩のように盛り上がった筋肉のついたごつい両腕で、わたしの尻を引き寄せると、一気に奥まで突き入れてきた。
「ぅぅぅ・・・・・・・」
わたしは声にならない悲鳴を上げた。彼の怒張は、あまりにも大きく硬かった。びっしりと充填された満足感は、比較するものがなかった。彼が、もし、本物の自分の肉体を取り戻したら、恐らく、それで得られる快感は、こんなものではないだろう。そう思うと、さらに濡れてきた。
鏡の中のわたしは、後ろから大男にのしかかられて、顔を真っ赤にして喘いでいた。自分でも見たことのないような淫らな表情だった。

(続く)


☆ブログランキングに参加しています。

 気に入ったら、プチッと押してね、お願い → 

 こちらもお願いね → 


最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新境地! (Ken)
2006-10-17 23:12:18
一見、日記文ふうな、私小説ふうな、告白エッセイふうなトコから、いつの間にかワンダーなSF的エンタメ世界に入る‥。何処にでもありそうな日常の人の営みが描かれていながら、摩訶不思議な世界とも交錯している‥。僕、けっこうこういう雰囲気、好きなんですよ。リアルな日常生活感とSF的エンタメが替わりばんこにある世界。

昼間ケータイで読みました。

普通だったらつい長々感想文書いてしまうトコですが、ちょっと今忙しくて。

異形に犯されるシーンてけっこうコーフンしますね。
返信する
kenさんへ (mina)
2006-10-18 21:07:02
前々から、こういうのを書いてみたかったのです。

友達にも約束していたし・・・・・・。

「マタンゴ」は、3年ほど前に、どこかのホテルのテレビで観たような気がします。

眠れなくて、何気なくつけたケーブルテレビでやってたのです。

キノコを食べたら、キノコの怪物に変身してしまうのが、妙に怖かった。

難破船が漂着した島には、このキノコしか食べるものがなくて、それで次々と乗組員たちが犠牲になっていくのだけれど、キノコ人間になって生きていくのもいいんじゃないかなあ、なんて思ってしまう今日この頃。だって、今の日本、悲惨だもの。
返信する
Unknown (エクスカリバー)
2006-10-18 21:54:05
伝奇モノかと思いきや、笠井潔とか一昔前の平井和正(「ウルフガイ」とか「幻魔大戦」の頃)のような感じもしてきましたね。

まぁバイオレンスやホラーっぽい要素はないですが。



話変わりますが、『マタンゴ』はなかなかの秀作だと思っています。

水野久美が色っぽい。
返信する
エクスカリバーさまへ (mina)
2006-10-18 22:20:23
書き込み、ありがとうございます。

平井和正は、むかーし、読んだことがあります。

狼に変身する能力を持った男が主人公で、

その特異な体質故に、いろんな組織に狙われるみたいな話だったような気がします。

ところで、ミラーマンやレンジャーものを本気で鑑賞されているので、本当にびっくりしました。

わたしには、あの世界はちょっと無理です。

仮面ライダーは見てましたけれど。
返信する
Unknown (エクスカリバー)
2006-10-18 23:04:14
はい・・・卒業し損ねてます、その手のジャンル作品から(汗)。
返信する
Unknown (higashi 公爵)
2006-10-19 04:23:59
なるほどー。



こういうファンタジーもいいですね!



帝都物語みたいな、、。



なんか、自分でも描いてみたいジャンルです。。
返信する
美奈 (猫姫少佐現品限り)
2006-10-19 21:35:04
美奈の欲望=minaさまの欲望、

ってことで良いですね?
返信する
猫姫さまへ (mina)
2006-10-19 21:59:03
はい、Yes, I do.

ほんのささやかな欲望ですが・・・。

返信する
higashi公爵さまへ (mina)
2006-10-19 22:26:03
minaもhigashi公爵様の書いたファンタジーを読んでみたいな。
返信する
Unknown (公爵)
2006-10-21 13:07:57
そうですねー。英国・倫敦(ロンドン)

の1800年代後期ぐらいを舞台にして

やるとおもしろいかも。。

・・・スティームボーイは

そのへんが時代設定だったが、あれは、

「科学」的な観点から、あの時代の

様子を見ていたので、もっと、

こう、『魔人』みたいなのが出てくる

観点から描くのもいいかも。。

しかし、たいへんな作業になりそうなので、

むりかも。。
返信する

コメントを投稿