minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

紅蓮鬼

2005年04月29日 | Weblog
「紅蓮鬼」は高橋克彦の書いた凄く淫靡な鬼が出てくる伝奇小説である。
古本屋で、たったの105円で入手したものだが、新品でも中古でも小説の面白さは同じ。
随分と楽しめた。

こちふかば
にほいおこせよ
梅の花
あるじなしとて
春な忘れそ

この歌は、菅原道真が失脚して太宰府に左遷された時に、こよなく愛でていた自宅の庭の紅梅殿の梅に別れを惜しんで詠んだものとされている。
驚くことに、この梅は、主を慕って、一夜のうちに、京から太宰府に飛来したとされており、現在の太宰府天満宮の御本殿前の「飛梅」として有名である。

本書「紅蓮鬼」は、まさにその道真公が政敵の策略に貶められ、恨みを持って死んだとされる伝説をモチーフにしている。

上記の「飛梅伝説」はあまりに有名であるが、英才の誉れ高かった道真公には、この飛梅に象徴されるような不思議な力が備わっていたのかも知れない。

本書の描く世界に思わず引き込まれてしまうのは、やはりしっかりとした時代考証がなされ、現実とフィクションの世界が見事に融合しているからにほかならない。
史実に基づき、道真公を太宰府に左遷させる策略を謀った「三善清行」を敵役に据え、清行が道真公を追い落とした同罪の朝廷の貴族たちを手玉にとる展開は、実に見事である。
清行は、百済からの帰化人であり、道真公に引き立てて貰えなければ、到底、式部権大輔という要職には就けなかった。しかし、清行は己の実力はもっと上であり、この程度の位にしか就けないのは帰化人ゆえ差別であると考えていたのだ。だからこそ、あろうことか、道真公に右大臣の要職から引退するよう勧告する。
清行が道真公を排除しようとしたのには、彼なりに理由があったと考えられる。
道真公は、「遣唐使」を廃止したという実績があるのだ。つまり、帰化人である清行は、道真公が大陸文化を捨て、日本固有の文化を育てようとしていたことに脅威を感じていたのだ。このままでは、いずれ自分も不要とされ、切り捨てられる。それならば、いっそその前に道真公を・・・・・・。
確かに、道真公は、日本民族としての自立を目指し、日本固有の文化を重要視していた。

しかし、道真公は「梅」を愛していたのだ。
大陸から伝えられた「梅」こそ、大陸の象徴であり、道真公には清行が考えていたような大陸文化を排斥するような気持ちはなかったのだ。
この頃までは、花と言えば「梅」を指し「桜」ではなかった。
本書の筋書きには直接関係ないが、「梅」を詠んだ道真公の歌には幾重もの意味が隠されていそうだ。

こうして、清行は道真公を陥れてしまうのだが、その事情が本書の下敷きとなって、極めて奥行きの深い物語を形成している。

大陸から幽霊船に乗ってやってきた「淫鬼」は、絶世の美女にとり憑き、その美しい肉体を餌に時の権力者に近づいていく。
さらに、「淫鬼」は「道真公の怨霊」まで呼び出し、手下にしてしまうのだ。
この「道真公の怨霊」は、この作品の中では象徴的な役割が与えられており、必ずしも本物の「道真公の怨霊」である必要はない。
この怨霊は日本古来の「鬼」でありさえすればよいので、このことが先の「大陸VS日本」の図式にオーバーラップするという仕掛けだ。
「淫鬼」には、まぐわうことによって人間にとり憑くことができるという能力以外には、それほど特筆すべき妖力はないというのも「ミソ」である。
あまり強大な敵であると、「道真公の怨霊」が活躍する場がなくなってしまうからだ。
そのことを踏まえると、人間の業ともいえる性淫を唯一の武器とする大陸の「淫鬼」という設定が、実に巧みであるということが判る。

確かに、何人といえども、妖艶な美女には抗らうことができないだろう。

源光の愛妾「桔梗」にとり憑いた「淫鬼」の本当の目的が日本の国そのものである「帝」であると判った瞬間から、にわかに物語は緊迫感を増す。
万一、帝がこの「淫鬼」にとり憑かれてしまったら、日本の国は滅びてしまう。
朝廷の貴族らの謀略によって、鬼を封じる役目を帯びた「加茂」の一族は没落していたが、その末裔である忠峯と忠行は、国家の存亡を賭けて「淫鬼」に立ち向かうのだった。

一見、ストレートなプロットで書かれていると錯覚するが、このように基本構造からしてダブルになっているのであって、何重にも張り巡らされた伏線と仕掛けは、読み手をぐいぐいと最終結末まで引っ張っていく。

史実では、道真公の気持ちを知ってか知らずか、この後、「梅」は「桜」に急速に植え替えられていくことになるのだ。
押さえつけようとすれば、反発が起こるのは道理である。排日、反華、いずれもろくなことはない、同罪ということを知るべきである。

現実世界の問題や史実はどうであれ、本書は伝奇小説として文句なくおもしろかった。minaお勧めの1冊。
ハートは最高の3つを差し上げたいと思う



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紅蓮鬼

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