minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

愛人 その3

2005年03月21日 | 官能私小説「愛人」
その朝、わたしは、どうしても布団の中から起き上がることができなかった。
身体が鉛のように重い。
男のものを扱き続けた右腕はパンパンに張っていたし、太腿には鈍い痛みのような痺れがあった。そして、男たちが執拗に触ってきた胸や股間は、自分のものでないような妙な違和感があった。
これが、風俗で働くということなのかと思った。
時計の針は、午前8時を指していた。今から起きて準備をしたところで、会社の始業には間に合わない。
わたしは、のろのろと携帯を取り出し、会社に電話した。この時間なら、早出当番の誰かが出勤しているはずだ。
電話に出た上司に、発熱を理由に休まして欲しい旨を連絡すると、再び、泥沼に沈み込むように苦しい眠りについた。ずっと唸り声を上げていたような気がする。
昼過ぎになって、ようやく起き上がる決心がつき、わたしは重い身体と痛む頭を庇いながら、バスルームに身体を運んだ。
ジャァァァーッ。
シャワーの熱い刺激がようやくわたしを現実世界に呼び戻した。
「会社を休んでしまった」
わたしは口に出して、そのことを言った。
秘密のアルバイトのはずだった。あくまでも、ローンを返済するための仮の姿のはずであった。それなのに、そのせいで正業の昼間の仕事を休むなんて、本末転倒も甚だしい。わたしは、何度も自分の頭を小突いた。
「馬鹿ね、わたし。なんて馬鹿なの。死んじゃいたい」
シャワーを浴びて、随分と体調は改善したが、気分的な重苦しさはそのままだった。
シャワーで濡れた髪を梳かしながら、鏡に映った自分の顔を見ると、たった一晩の出来事なのに、目の下には隈ができ、疲労の色がありありと出ていた。両手で乳房を下から持ち上げてみると、なんだか重い。うっ血しているみたいだ。乳首が敏感になっているような気がした。
「ふううう・・・・・・」
わたしは長い嘆息をつくと、下着を身に着けた。何を着ようか、しばらく考えた後、刺繍が施されたお気に入りのジーンズを穿いた。上はニットのタンクトップに、このジーンズに合わせて買った同じデザインのジャケットを羽織った。
財布を確認すると、20枚近い1万円札が入っている。これまでのわたしにはあり得ないような大金で分厚く膨らんでいる財布が、昨晩のことは現実のことだったのだと再認識をわたしに迫っているような気がした。
「いいじゃないの。立派なものよ。この身体を使って、お金を稼いだだけのこと。何も悪いことはしていないわ」
そう自分に言い聞かせながら、なぜか涙がこぼれた。
今晩は7時には出勤するように、オーナーから直接命令されていた。例のオーナーのお友達がわたしを指名しに来店するらしい。オーナーのお友達は、名前をアキラということと、大層なお金持ちで実業家ということくらいしか教えて貰えなかった。彼にはVIP扱いでサービスしろとの命令である。どんな要求にも決して逆らうなということだ。それは、店長にも徹底されていたから、もうあの店では絶対的な命令である。しかも、その翌日の土曜日は、朝から彼と店外デートすることまで決められている。
「ふうう・・・・・・」
要は、彼のおもちゃになれということね。彼が要求すれば、セックスは勿論のこと、この身体をどのようにされても拒絶できないということなのね。
突然、わたしの身体は、瘧にかかったようにぶるぶると震えが来て止まらなくなった。
ああっ、忘れてしまいたい。何もかもっ。
わたしは、衝動的にリッチなランチを食べたくなった。お金はたくさんある。
わたしはタクシーを呼ぶと、以前から一度は行ってみたいと思っていた郊外の高級レストランに向った。

そのお店は、しばしばグルメ雑誌にも取り上げられ、若い女性の憧れのお店であった。わたしも行こうと計画したのだが、ランチですら5千円以上の料金設定に、薄給のOLでしかないわたしは、二の足を踏んでいたのだ。だが、今は違う。5千円どころか、最も高価な料理長おまかせの本日スペシャルメニューだって注文できるだけの余裕がある。
わたしは、颯爽とそのお店の入り口をくぐった。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客ですか」
・・・へ? 予約? そんなのしてないわよ・・・
「生憎、当店は完全予約制となっておりましてね・・・・・・」
わたしの進路を阻むように立ち塞がった黒服の男は、わたしを値踏みするように頭のてっぺんから脚の先まで見ている。
・・・な、なによっ。人のことをじろじろ見てっ。変態っ・・・
わたしは、手に持っていたバッグで男を殴りたい衝動にかられた。
そんな時だった。
「おや。こんなところで奇遇だね。minaさんだったよね」
わたしの背後から、ぽんと肩をたたいたて、声をかけてきた男がいる。
わたしは、内心、ひやりとした。だって、今日は、会社をずる休みしているのだ。会社の取引先にせよ、こんなところで遊んでいるのを目撃されたら、大変、まずいことになる。
恐る恐る振り向くと、そこには、昨晩のあの男が立っていた。
「あ、あなたは・・・・・・」
わたしは、絶句してしまった。
よりによってこんなところで、彼に会うなんて。わたしは、穴があったら入りたくなるほど恥ずかしかった。頭の中に、彼の上に跨って、あられもない声をあげているわたしの姿がフラッシュバックした。
「やはり君とは、縁があるみたいだね」
彼は、わたしを見てにこにこと微笑んでいる。わたしは、恥ずかしさに下を向いたまま、動くこともできないでいた。
「村上様、こちらのお客様は、お知り合いでございますか」
さっきの黒服が、わたしに対する態度とは明らかに異なるへりくだった対応で話している。
「ああ。そうだよ。彼女が、昨日お願いしておいた明日のディナーにお連れしようと考えていたminaさんだ。どうかしたのかね」
「わ、わたし、ランチを食べようと思ってやってきたら、予約がないと駄目だというので・・・・・・」
黒服の男が何か言いかけたので、わたしは慌てて割って入って、彼に説明した。
「なんだ、そんなことか。丁度よかった。僕もこれから食事なんだ。ひとりでは寂しいと思っていたから、ご一緒にどうかな。ご馳走させて貰うよ。予約なんかなくても、僕の場合は、大丈夫なんだ。いつもここを使っているからね。いいだろう? 君」
黒服の男から「村上様」と呼ばれた昨晩3番目の客アキラは、黒服の男に言った。
「もちろんでございます。村上様のお知り合いと分っておれば、直ちに、お席をご用意させていただきましたものを、全くもって失礼いたしました」
黒服の男は、わたしに深々と頭を下げた。
わあー。すごいじゃん。彼、頼りになるっ。わたしは、溜飲が下がると同時に、彼のことを見直していた。こんな彼に抱かれるのなら、それもいいかななんて、思い始めていた。
それからのわたしは、しばらくの間、夢見心地だった。
通されたのは、一般客のためのラウンジではなく、奥まったところにひっそりと設置された個室だった。客の一人一人に選任のメイドがつき、給仕してくれるのだ。食前酒から始まって、メインディッシュがお肉とお魚の両方がついている料理長オリジナルのフレンチ風フルコースだった。いつもは、お金がなくて、お昼と言えば、せいぜい380円のカラアゲ弁当、酷い時には、カップ麺で済ましているわたしにしてみれば、信じられないような豪華なランチだった。
食後のコーヒーの深い香りを楽しんでいると、彼がさらっと訊いてきた。
「minaさんは、この後、予定が入っているの」
覚悟していた質問だから、食事をしている間に、ちゃんと答えは用意していた。
「いいえ。7時からのお店のほかは、予定はありません」
「そうか。それはよかった。じゃあ、お店は同伴してあげよう。それでいいね」
「同伴って?」
「あはは。同伴も知らないのかい? それはいい。今度、奴に会ったら、そのことも話してやろう」
奴って、オーナーのことかしら。ふたりは、随分と親しいんだわ。
わたしが困って黙っていると、彼は説明してくれた。
「同伴っていうのは、それまで客とデートして、そのまま店に出勤することを言うんだよ。まあ、あの店は、そんな制度はないだろうな。minaちゃん、あの店は辞めて欲しい。どうしても働きたいなら、もう少し高級な店を紹介してあげるから」
それって、愛人になれっていうことでしょう? わたし、そんなことできません・・・。
わたしは、口には出さなかったが、心の中でそう言っていた。
しかし、結果から言えば、この時、彼に縋り付いてでも、愛人にして貰っておけば、こんな悲惨な結果を招くことはなかったのだ。本当に悔やまれる。
「さあ、それじゃ、そろそろ出ようか」
彼は、わたしの肩を抱き、優しくエスコートしてくれた。わたしは、この後、起こるであろうことを想像して頬を赤らめて俯いた。彼がわたしを恋人のように紳士的に扱ってくれればくれるほど、余計に恥ずかしかった。本能は正直だ。理性がどのような言い訳をしようと、わたしの身体は彼に抱かれるために勝手に準備をしていた。既に、わたしの身体は、どうしようもないくらい溢れていたのだ。
彼の車は、銀色のポルシェだった。いつも乗りなれている国産のセダンよりも、相当に車高が低く、乗り込むのに少し戸惑った。この時は、ジーンズで良かったと思った。いつものミニ丈のスカートだったら、見苦しくないように乗り込むことができそうもなかったからだ。
彼は、何も言わなかったが、車は、当然のように郊外のラブホテルに入って行った。わたしも覚悟していたので、何も言わなかったし、できるだけ表情に出さないように努力した。
だが、身体の中心に火が灯ったかのように、身体中が火照っていたし、頬は燃えるように熱かった。わたしは、明らかに発情していた。
(続く)


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
バトン、書きました (mina)
2006-04-08 12:24:35
猫姫さまからのご依頼のバトン、やっと書きました。

最近、何事もうまく書けなくて、悩んでいます。

スランプなのかもしれません。

「愛人その9」も、とうとう全面的に書き直しました。どうしてなんだろう・・・。

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ごめ~ん! (猫姫少佐現品限り)
2006-04-04 03:42:13
バトン、お願い~!!
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