minaの官能世界

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入院録(その8)~私が痩せた理由~

2014年03月18日 | 入院録

極度の食欲不振から体重が63キロから43キロに激減した。
入院後、僅か1か月間のことである。
食欲不振の理由は、
頚髄損傷特有の全身の痛みによるものに加え、
食べることに対する恐怖、
そして、食べることによって必然的に発生する排泄への恐怖だった。
頚髄損傷によって排泄障害を引き起こしていたのだ。
尿はカテーテルで強制的に排泄させられていたから、
それはそれで苦痛だったものの、とりあえずは解決していた。
問題は大便のほうだ。
排泄障害の説明を受けた時には、便秘のひどいもの程度に軽く考えていた。

「入院して一週間が経ったけれど、まだ一度も出ていないわねぇ。
まずは下剤を試してみて、それで出なかったら浣腸しましょう」
と看護課長は明るく言った。
夜、眠る直前に下剤を飲んだ。
予定では、明日の午前中には穏やかな便意が催され、すっきりと排泄できるはずだった。
しかし、まる1日過ぎても、遂に排泄できなかった。

「仕方ないわね、浣腸しましょう。
溜まれば溜まるほど苦しくなるからね、ここらへんで浣腸して出しておくのが楽よ」
そう言って、看護課長は若い看護士に私への浣腸を指示して、部屋を出て行った。

私も仕方ないと浣腸を受け入れた。
浣腸液を注入される時に少し気持ち悪いだけと気楽に考えていたからだ。
それは、大きな間違いだった。

浣腸の担当になった看護士は、私の「おむつ」を外して浣腸液を注入すると、
再び「おむつ」を付けてくれた。
「気を楽にしてくださいね、10分くらいは我慢してください。
このまま「おむつ」の中に出してください。終わったら、呼んでください」
楽に排便されることが前提の簡単な説明だった。
私もそんなものだと思っていた。
次第に便意は高まってくる。
ベッドに横たわったまま「おむつ」の中で排泄するなどという事態は、
私の人生の中でも(赤ちゃん時代を除いて)初めてのことだ。
10分くらい経過した。
・・・
ううむ、もうそろそろ限界かな、
出さなければ
・・・
あれ?
出ない?
出せない!
・・・
私はパニックに陥った。
猛烈な便意がお腹の中で暴れている。
にもかかわらず、出せないのだ。
何かで出口が塞がれているような感じがする。
「うわぁぁぁーーー」
私は叫んでいた。
「く、苦しい・・・助けてーーー」
懸命にナースコール(ボタンではなく、マイクに息を吹きかける形式のもの)を繰り返す。

「どうしました? 出ましたか?」
スピーカーから看護士の声が流れた。
その看護士の声が、なんだか間延びして聞こえる。
私は必死の思いで、出なくて苦しいことを訴えた。
「判りました、もう少し頑張ってみてください」
「そ、そんなっ」
私は、しばらくの間、一人で悶絶していた。
・・・
5分くらいして、先程の看護士がやってきた。
「出ましたか?」
「出ない・・・苦しい・・・助けて」
「うーむ、出てないわね、出せないの?」
看護士は私の「おむつ」を外して、私の下半身を覗き込みながら言った。
私は息も絶え絶えに「はい」と言うしかなかった。
「困ったわね、ちょっと待って」
そう言って、彼女は私の下半身を剥き出しのままにして、部屋から出て行ってしまった。
なんということだ!
茫然自失、阿鼻叫喚、、、
浣腸されて出せない苦しみというのは、想像を絶する。
その苦痛の前では、羞恥心など消し飛んでしまう。
「だれか助けてっ」
私は恥も外聞もなく喚いていた。

実際には1分も経っていなかったのかもしれないけれども、数分後、
・・・それはとてつもなく長い時間に感じられた・・・
先程の看護士が別の看護士二人を連れて、戻ってきた。
「どうですか? うーん、やはり出てないですね・・・」
彼女は私に尋ねるともなく、ほかの看護士と話している。
私は苦しくて返事すらできない。
「出すだけの力がないのよ、これは・・・」
「摘便するしかないわね、、、」
「そうですね」

・・・摘便? 何? 
「いいですか、これから、肛門に指を入れて、便を出します」
「何も怖くありませんよ、力を抜いて楽にしてください」
・・・ぎゃぁぁぁぁぁっ
思わず、私は叫んでいた。
猛烈な痛みだった。
お尻に真っ赤に燃えた火箸を突っ込まれたような痛みだった。
「あっ、出た出た、一杯出てますよ、よかったですね」
看護士は嬉しそうに話しかけてくるが、
私は気絶しそうになっていた。
それからだ、食べるのが怖くなったのは・・・。
出すことへの恐怖から、食べることまで怖くなったのである。

その後、何度も浣腸したけれど、幸いにも摘便には至らず、
次第に恐怖心は薄れていった。

こうして、私は排泄障害がどのくらい恐ろしいか、
身に沁みて理解したのであった。

後になって、浣腸自体、そんなに簡単なものではないと聞いた。
主治医の診察と指示のもと、綿密なスケジュールをたてて実施しているらしい。
あんなに恐ろしいものなら、そういう取扱いも当然だ。
そして、それでも出なくて苦しんでいる方も多いらしいのだから、
とにかく出せたことは喜ぶべきことなのだ。


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