メカニック日記

メカニックです。仕事ネタから感じた事思った事など気まぐれに更新していきます…

エンジンオイルの重要性。

2019-10-22 23:22:00 | ふそう
題名はさておき、まずは近況です…

先日、振興会の方から連絡があり、ようやく陸運局による現地審査日が決定しました。

申請から審査まで本当に1ヶ月かかりました…

我々民間の業者からするとなかなか理解しがたいですが、色んな業種の方と話してるとお役所はそんなもんらしいです…
知り合いの方も飲食店を開業する時に苦労したと言ってましたが…

1日でも早く営業したい側からすると1ヶ月営業出来ない場合の損失がどれほどのものなるのかは到底理解してもらえないんでしょうかね…
実際には審査に来てから認証が下りるまでにも更に日数がかかりますから…

まあ、とにかくこれで少しは前に進めそうです。

そんなこんなで悶々とした日々が続いておりますが…


まずはFP54スーパーグレート。

たまにエアーが全然たまらない時があるという事でお預かりしたんですが…
車両を引取回送中に見事に症状が発生。

エンジン回転を中速まで上げレーシングさせても4kg/㎤にも満たない状態が続き、走行不能になりました。

話を聞いた時点でおおよそ予想はついてましたが…

点検ハンマーでプロテクションバルブを軽くコンコンしてあげると、シューンという音と共にエアがたまりました。

コレ、どこのメーカーの車両でもこの手の不具合は発生しますが…
原因はマルチプロテクションバルブ内部のバルブ固着や摺動不良。

で、そのバルブ固着や摺動不良の原因となるのがドライヤーの機能低下によるもの。

更にそのドライヤーの機能低下の原因となっているのがエンジンオイルなんですが…

まあこの話は後で詳しく書くとして…


とりあえずマルチプロテクションバルブの交換とエアドライヤーのオーバーホールを行う事に。



プロテクションバルブのリビルトもあるらしいのですが値段的にはあまりメリットを感じないので、プロテクションバルブは新品交換、エアドライヤーはオーバーホールという形をとりました。


ゴソゴソしてドライヤー&プロテクションバルブを取り外し…





取り外したエアドライヤー&プロテクションバルブ。



エアードライヤーはコンプレッサーで圧縮されたエアー中に含まれる水分や油分を除去するための機構で、プロテクションバルブはそのドライヤーから出た乾燥した空気を各機構に分配します…
更にプロテクションという名の通り、万が一、分配先の機構でエアが急激に減るような事態が起きても他の機構(ブレーキ用のエアなど…)に与える影響を最小限に抑える役目を持っています。

つまり、このプロテクションバルブがエアーで制御される各機構への分岐点という事になります。
よくある症状で特定のタンクにだけエアがたまらない…なんてトラブルはプロテクションバルブ不良によるものがほとんどです。


まずはドライヤーのバルブボディーからオーバーホールする事に…
開けてすぐにこのオイルの量ですよ…




更にエアーコンプレッサーからの導入口はスラッジが蓄積しています…



エキゾーストバルブはこんな状態だし…


フィルターはこんな状態…
というより詰まってます。


フィルターが詰まっているためOリングを押しのけてエアーを排出していたようです…
妙な形に変形してます。



エキゾーストバルブを抜き取るとゴテゴテ…





チェックバルブを取り外し…





ガバナーも分解。



ちなみに今回のオーバーホールキットにはガバナーのアジャスターボルトとキャップもキットに入っている為に交換するんですが、元のアジャスターボルトの突き出し量を測定しておいた方がいいです…

画像の赤丸の部分がアジャスターボルト。



このボルトの突き出し量を測定しておきます…


で、測定した数値と同じ寸法になるよう新品のボルトを組む時に調整しておきます。
スプリングは再使用なので取り外す前の突き出し量に合わせておけばパージ圧の調整はまず必要ありません。
もちろん車両取付後の確認は必須ですが…


再使用する部品は洗浄、ゴム関係は交換して…



バルブボディー側の内部も洗浄して…



各部を組み付けていきます。



ガバナーキャップの取付ボルトは1.5Nm…



エキゾーストバルブのフィルターの新旧比較…
詰まっているのがよく分かると思います。



組み付けてバルブボディー側は完了。





今度は乾燥剤側の作業を…



もう中の状態は想像に難くないですね…
フタを開けてみると案の定オイルでベッタリ。






こちらもケースの洗浄やゴム関係の部品を交換して組み付け…



新品の乾燥剤を入れてカバーを取り付け。




カバーのボルトは6.9Nm…



更に新品のプロテクションバルブを取り付けて…



後は車両に取り付けて、パージ圧を確認して作業は完了です。



残ったプロテクションバルブを分解すると、中はオイルやスラッジでゴテゴテの状態…





シートが張り付いて取れなかった箇所もありました。





これではトラブルになるはずですね…

ここから題名のエンジンオイルの重要性の話。

エンジンオイルの重要性なんて分かってるぜ!今更何言ってんだ?…と思うかもしれませんが…
以前どこかの記事にも書いたんですが、今回のエアドライヤーのトラブルに限らずインジェクター、DPF、EGR、ターボなどのトラブルは突き詰めていくとエンジンオイルに原因がある事が分かってきています…
もちろん100%ではありませんが、多くのケースでエンジンオイルに起因しています。

どういう事かと言うと…

エンジンオイルのベースオイルはAPIによって大きく分けて5つのグループに分類されており…
今、国内に出回っているディーゼル用のエンジンオイルのほとんどがグループ1というカテゴリに属するエンジンオイルで…
このグループ1のオイルは鉱物油ベースの精製方法も簡単ないわゆる一番安価でグレードの低いオイルになります。
(ちなみに大型トラック4社の純正指定オイルは全てグループ1のオイルです)

グレードが低いとはいえ、エンジンを保護する為の役割は果たしており、定期的に交換する事で今までのディーゼルエンジンには特に問題はありませんでした。

ところが、排ガス規制がだんだんと厳しくなりEGR、ブローバイガス還元装置、高精度インジェクター、高効率ターボ、DPF、SCRなどの環境対策の為の機構が採用されるようになってからはディーゼルエンジンのトラブルは激増しました。
これは以前にも書きましたが上記のトラブルがディーゼルエンジン全体のトラブルの約7割を占めています。

そのトラブルを起こす原因の中の1つにエンジンオイルがある…という事なんです。

そもそもエンジンオイルには必ず代表性状というものがあり、これはエンジンオイルを精製販売する上で必ず必要になるもので、いわゆるスペック表みたいなもの。

その中の数ある項目の中の1つにNoack(ノアック)と呼ばれる項目があるんですが、これはエンジンオイルの蒸発性を示すもので、ある一定の条件下でエンジンオイルの蒸発量を測定したものです。
で、メーカー純正品も含めグループ1のエンジンオイルのNoackは基準こそ満たしてはいるものの、どれも高い数値でそれは言い換えると蒸発しやすいエンジンオイルと言えます。

この蒸発したエンジンオイルの成分が各機構に入り込みトラブルを起こしているわけです…

蒸発したエンジンオイルがブローバイガスと一緒に吸気側やシリンダーにまわりインジェクターの先端に付着、熱で焼かれる事で固着…
結果インジェクターの噴霧不良に繋がり…

他にもシリンダーで燃えきらなかったエンジンオイルの成分が排気ガスと一緒にEGRクーラー内部やバルブに付着する事でこれまた固着…
オイルとススですから…
どうなるかはディーゼルエンジンを整備してる方ならEGRクーラーやバルブ、更にはインマニ内部がどんな状態なのかは散々見てきているかと思います…笑

DPFしかり…
インジェクターの噴霧状態が悪くなり、EGRの効率が下がれば、もうどうなるかを説明するまでもありませんよね…

もちろんこれらには裏付けがキチンとあり、インジェクター表面、EGRクーラーやバルブの表面、DPFやDOC表面に付着している物質の成分分析をした上で、平均して付着物の約35%がエンジンオイルの成分だという事が分かっています。

もちろん、個体によってはオイル上がりや高効率タービンの副作用というケースもあるので全てのケースが蒸発したエンジンオイルという訳ではないと思いますが、蒸発したエンジンオイルが原因となっているケースは少なくありません。

では何故そんな事が言えるのか…

ディーゼルエンジンを整備している方なら比較的理解しやすいと思いますが、仮にエンジンオイルが蒸発した事によるトラブルと仮定した場合、妙に納得出来る部分が多いと思いませんか?

先ほども言ったように全てのケースで当てはまる訳ではありませんが、少なくとも私は多くの部分で今まで納得出来なかった点が線で繋がるイメージがありました。

実はその情報を元にある検証を行っていたのですが…
その検証というのが今回の車両のようなエアドライヤーにオイルが混入するというケース。
このトラブルはどこのメーカーの車両でも頻繁に起きていますが…
今までどうにも納得いかなかったのはオイル上がりが原因と踏んでコンプレッサーを換えても改善されないケースが少なくなかった事。
仮にオイル上がりが原因ならコンプレッサーを換えれば症状は緩和されるはずですが、それが全然改善されないんです…

その車両が下の車両で今回とは別の車両ですが、以前高年式の車両なのにエアドライヤーにオイルが混入してトラブルを頻繁に起こす症状でした。

一番初めはドライヤーとコンプレッサーをオーバーホールして様子見…
その時のドライヤーの状態がこちら。




酷いでしょ?

ところがその2ヶ月後に車検で入庫した時のエアドライヤーの状態がこちら…
コンプレッサーをオーバーホールしたはずなのに既にオイル汚れがありました。


底の方の写真は探したけどありませんでしたが…
底側約1センチ程はキャビア化していたのを覚えています。

で、この車両今年の3月にディーラーさんで車検をやったんですが、その時にカートリッジのオーバーホールに加え蒸発しないエンジンオイルに交換してもらったんです…

そこから半年後の点検時に検証のため、お客様にワガママ言ってドライヤーの状態を見せてもらえないか⁉︎とお願いしたところ快諾頂きカートリッジを交換してもらい、取り外したカートリッジを回収してきたんです。


その回収してきたドライヤーのカートリッジがコレ。
オイル交換後、半年で約2万キロ走行。









オイルの油分も明らかに少ないのが分かると思います…



で、カバーを開けてビックリ。
にわかに信じられませんでしたよ…
だってコンプレッサーオーバーホール後2ヶ月でオイルが混入していた車両が半年経ってもこの状態なんですから…



底の方も水分は多く付着してますがそれはドライヤーなら当然の事で、驚いたのが油分が殆ど付着していないという事。




もちろんコンプレッサーはレシプロなのでオイル上がりで混入するケースもあるとは思いますが、今回の劇的な差が使用するエンジンオイルのスペックを変えた事によるものだとしたら多くのトラブルを未然に防ぐ事が出来ます。

この信憑性を更に上げるため、実はコレ以外にも複数の車両で検証しており、最終的な結果はもう少し先にはなると思いますが、途中経過は良好です。

他にも以前勉強会に来て頂いた方々から色々と有益な情報もあるので、それらを加味して色んな角度から検証、原因を追求する事で無駄なトラブルを防げるメンテナンスに繋がればと思います。


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13 コメント

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Unknown (mac)
2019-10-23 01:10:02
初めまして!!
最近ブログを楽しく見させていただいています!
自分もいすゞで整備士をしているのでブログを見て勉強になることがたくさんです…
少し前にお客さんにどうしてもドライヤーからオイルを排出したくないというお客さんがいてドライヤー交換とコンプレッサーをやったお客さんがいたので今回の様なパターンの可能性を知らなかったのでものすごくためになります…
これからもブログ更新楽しみにしてます(・∀・)!
Unknown (GK)
2019-10-23 08:45:23
おはようございます。

ふそうのエアー関連の不具合は多いですね・・・

以前、FP54の冷却水噴き返しがありエアーC/Pのヘッドのみ交換。しかし半年後にまた噴き返し。
再度ヘッドのみ交換したのですが症状が治まらず、ドライヤー、マルチプロテクションバルブも交換。

その際にエアー配管やホースを外して確認すると、C/Pからドライヤー間の配管等のほとんどがかなりの動脈硬化状態!
配管断面の半分ほどがスラッジが固まってエアーが通りにくくなっており、ドライヤー直前の配管に至っては三分の一程度しか通り道が無い状態でした。
配管・ホースを新品交換すると不具合は無くなりました。

当時はわかりませんでしたが、今思えばこれもエンジンオイルが蒸発した結果の動脈硬化だったのかと・・・(゚д゚)!

オイル蒸発や様々な情報を教えていただいた勉強会は、目から鱗が落ちまくりしたねぇ!
うちも、外注のTGさん経由で例のオイルに切り替え始めました(^▽^)/
不具合減少に期待大です!
Unknown (元UDさーびすまん)
2019-10-23 10:35:34
オイルが起因しているトラブル
あと、考察程度になりますが、コンプレッサーの回転速度に因る物も考えられます
エアーの供給を急ぐあまり、高速回転でコンプレッサーを回す
当然ながらオイルも微量ながら汲み上げられる
因ってドライヤーに溜まる
特に「フルエアーブレーキ」車に多い症状ですね
昔の様に「ツインピストン」のコンプレッサーにして、供給してやれば、この手のトラブルは皆無になると思う
エアドライヤーが付いて無い車では起きなかったトラブル
オイルに関して余談になりますが、その車が作られた年代の規格のオイルを使う事です
高性能なオイルだからと言って古い車に使うと内部(メタル)が洗われ過ぎて薄くなったり最悪無くなったりしますから
やはり「餅は餅屋」ってヤツです
Unknown (CHAU)
2019-10-23 13:15:29
こんにちわ~。
ウチの方は、あるお客様に限ってなのですが、
そのお客様のイスズの平成17年以降で
4t、大型、関係なくエンジンオイル量が減るという
事例に悩まされてまして、
あの勉強会に参加した際に、例の各メーカーの
オイルの性能表見てから、シェルのリムラ5か
国際興業のパワーDを検討しましたが、
リムラ5は扱っているトコが無く、
パワーDは20L缶設定が無く、勉強会の時にIさんから
名刺もらってたので、200L缶の見積り依頼してる
のですが、返答未だ来ず・・・・・。
なので、とりあえずワコースのMR-30使用、
様子を見てますが、これで改善されたら
ウチで使用しているエンジンオイルについて
考えなければなりません。
因みに今現在使用中のオイルは三菱純正オイル・・・。
Unknown (黒猫)
2019-10-23 17:24:24
お元気さまです〜♪

役所への申請、骨が折れた分、開業への気持ちが上がりますね。

オイル!私はメカではありませんが、路線バスのトラブルはオイルと思ってます。
エアーが貯まらないことで、2回出動!
案の定、整備がその場でオーバーホール。
どうしても出口の汚れ。
インジェクターはオイルですよね?
オイル交換するように運転士に言っても行わない奴、最終的には大きく故障。
やる気のない奴は、そんなものです。
いよいよ整備でオイル交換を行うようになりました。
職人が道具を大事にするように、バス運転士は担当のバスでお給料を貰っていると忘れてます。
もうこんな人に労を費やす自分が嫌です。

オイルの成分、コストもあり会社では難しいです。
Unknown (mikiaxis)
2019-10-24 11:50:19
@mac macさん 初めまして。

こんなブログですが整備をする上で何かのヒントになれば幸いです…^ ^
私もこの情報を知ったのは一年程前です。
それまでは昨今のクリーンディーゼルのトラブルはしょうがないモノと考えていましたが…
こういった整備業界だけでは到底分かり得なかった事実もその分野のプロフェッショナルな方々と協力する事の相乗効果は必ずエンドユーザーにとってメリットになります。
これからも更に新しい情報は出てくると思うので我々整備士もそれが正しい情報かどうかを判断出来るように常に勉強していないといけないですね…
Unknown (mikiaxis)
2019-10-25 06:59:43
GKさん お疲れ様です。

ふそうさんは多いですねぇ…
あと、日野さんも…笑

GKさんの仰る事例は一部リコールになってますよね…
チャージパイプ内のオイルミストが酸化劣化してなんとか…って内容だったと思いますが…
私も今まではエアドライヤーにオイルが回るのはコンプレッサーからのオイル上がりしかないと思ってましたが、今回の検証の途中経過を見ると蒸発したエンジンオイルの可能性も大いにあり得ると思います。

今検証中の車両に加え、今後ウチに入庫する車両は基本的にはパワーDエンジンオイルを使用する事になるので、今後、色んなケースでデータを取りたいですね…
また新たな事が分かったら共有させていただきますね^ ^
Unknown (mikiaxis)
2019-10-25 07:28:56
元UDさーびすまんさん お疲れ様です。

確かにコンプレッサーに対する負荷の面も大きいと思います。
今の機構は多くがエアーで作動しますからね…
アンローダ付きのコンプレッサーなら症状が緩和される…という話も聞いてますから、コンプレッサーのオーバーロード状態はあると思います。

ただオイル上がりにしては混入する量のバランスが明らかにおかしいケースも多々あるのも事実です。
昔の車両でトラブルが起きなかったのはエアーで制御する機構が少なかった事もあると思いますが、決定的に違うのはブローバイガスのリターンが無かった事です。
昔のブローバイガスは大気開放でその頃のブローバイホース出口は例外なくオイルでベタベタでしたよね…

あと、当時モノの車両に当時モノのオイルを使うというのに関してはなんとも言えないです…(^_^;)
もちろんオイル成分とエンジン内部の材質との科学的な相性には気を使う必要はあると思いますけどね…

私の友人が乗っている古いハーレーなんかだと、以前は当時モノの鉱物オイルがベストと思われてたらしいのですが、最近では100%化学合成オイルも当たり前のように使われてきているらしいですから…
Unknown (mikiaxis)
2019-10-25 08:01:02
CHAUさん お疲れ様です。

もちろん個体によってはオイル上がりというケースもありますが、逆に言えば蒸発しないエンジンオイルに変える事で、オイル上がりやオイル下がりなのかどうなのかという判断も出来る事になります。
今、国内で蒸発しにくい、又は蒸発しないエンジンオイルはリムラR6とパワーDだけです…

パワーD商品に関しては当社でも取り扱ってますのでメール頂ければ見積もり可能です^ ^

三菱純正オイル…ですか。
ノーコメントで…笑
Unknown (元UDさーびすまん)
2019-10-25 09:12:37
一概に言い切れませんが、当方の「41年会」のメンバー(ブルーバード510)が目の当たりにした事案です
コンコンからカンカン音になりエンジンがロックしましたからね
今のSHは、怖くて手が出せません
SEやsFが限度ですね敬具

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