雨の夜と下弦の月

毎日を静かに、穏やかに生きていきたいと思う日々。
そのわりにはジタバタと暮らすワタクシの毎日を綴っております。

格差社会。

2009-10-12 17:27:48 | books&magazine
3連休最後の1日、ふらっと立ち寄った本屋で石田衣良の「親指の恋人」を見つけて購入、2時間ほどで読了してしまいました。いくらフィクションだと分かってはいても、なんともやりきれなくなるお話でした。父親が外資系銀行の社長で六本木ヒルズに住む大学生と、年収200万円でパン工場の契約社員として働く女の子の恋愛小説です。小説の設定だからこその極端さではありますが、石田衣良は、今の日本国にはびこる格差社会なるものを恋愛小説の形を取りつつ提示しています。ワタクシ自身は、もちろん六本木ヒルズには全く縁もありませんが、娘が大学に行くために一生懸命働いて貯めたお金を、ギャンブルで使い果たすような父親にも育てられなかった。今だって、本当にありがたいことに、それなりに働けばそれなりのお給料がいただける環境にいるわけです。でも、自分と同じような環境にいる人に囲まれて暮らしていると、時として、それが当たり前なんだと錯覚してしまいそうになる。

大学生の彼は、時間がもったいないという理由でタクシーを使おうとする。ワタクシだって、タクシーに頻繁に乗る生活ではないけれど、時間がもったいないから…と日常生活の中でしばしば思います。だけど、彼女はそのタクシー代だって生活費に充てなければ生きていけないわけです。あるいは、横浜ニューグランドホテルのカフェでお茶をしようとする彼に、もったいないから家に行ってコーラでも飲もうという彼女。石田衣良の「格差」の提示の仕方に、なるほどなぁと唸ってしまいます。ここまで極端ではないけれど、吉田修一の「東京湾景」にもこういう恋愛が描かれていたなぁとふと思ってしまいました。ただ、吉田修一は小説の最後は曲がりなりにもハッピーエンドにするのだけど、この「親指の恋人」は救われない。20歳で人生に絶望することがあるのかと問われれば、理由は全く違うけれど、同年代の頃に人生に絶望した経験のあるワタクシとしては、それはありだと思うわけで。「美丘」もかなり強烈でしたが、「親指の恋人」はもっと救いがない。石田衣良って、実はとてもこわい作家なのかもしれません。