言語空間+備忘録

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自由貿易推進論と幼稚産業保護論

2011-08-05 | 日記
N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.298 )

 世界のいくつかの最貧国は、内向き志向の政策を追求することによって急速な経済成長を達成しようとしてきた。この政策は、世界の他の諸国との相互の影響を避けることによって、国内の生産性と生活水準を引き上げることを目的としている。このやり方は、一部の国内企業から支持を得ている。それらの国内企業は、競争し成長するためには、外国との競争から保護されることが必要だと主張する。この幼稚産業保護論は、外国人に対する一般的な不信感と結びついて、発展途上国の政策立案者が関税やその他の貿易制限を課す傾向を生み出した。
 現在では、大多数の経済学者は、最貧国を世界経済に統合するような外向き志向の政策を追求するほうが、最貧国をより裕福にすると信じている。本書のはじめのほうで、国際貿易がいかに一国の市民の経済的福祉を改善できるかを示した。貿易はある意味で一種の技術である。ある国が小麦を輸出して鉄鋼を輸入すると、その国は小麦を鉄鋼に変える技術を発明したのと同じ利益を得る。したがって、貿易制限を取り除いた国は、大きな技術進歩の後に起こるのと同じような経済成長を経験するだろう。
 内向き志向が好ましくない影響を及ぼすことは、多くの発展途上国の規模が小さいことを考えれば明らかである。たとえば、アルゼンチンのGDPの総額は、フィラデルフィアのGDPとほぼ等しい。フィラデルフィアの市議会が市の住民に対して、市の境界の外に住んでいる人々と交易することを禁じたらどうなるかを想像してみよう。交易による利益を利用することができないので、フィラデルフィアでは自分たちが消費する財をすべて生産しなければならなくなるだろう。また、他の市から最新技術の設備を輸入する代わりに、必要な資本財をすべて自分たちで生産しなければならなくなるだろう。フィラデルフィアの生活水準はたちどころに低下し、時間が経つにつれて問題はさらに悪化するだろう。このことは、アルゼンチンが20世紀の大半を通じて内向き志向の政策を追求してきたために起こったことにほかならない。対照的に、外向き志向の政策を追求してきた韓国、シンガポール、台湾は、高い経済成長率を享受してきた。


 自由貿易こそが高い経済成長率をもたらす。自由貿易を否定すれば、国内ですべての消費財・資本財を生産しなければならなくなるので、幼稚産業保護論は好ましくない、と書かれています。



 著者の
貿易はある意味で一種の技術である。ある国が小麦を輸出して鉄鋼を輸入すると、その国は小麦を鉄鋼に変える技術を発明したのと同じ利益を得る。
という主張には、強い説得力があります。



 しかし、

   自由貿易を否定すれば、
   国内で消費財・資本財を生産しなければならなくなるので、
   幼稚産業保護論は「好ましくない」

という主張は、幼稚産業保護論に対する反論としては、不適切だと思います。なぜなら、幼稚産業保護論者は、

   自由貿易を否定すれば、
   国内で消費財・資本財を生産しなければならなくなるので、
   幼稚産業保護論は「好ましい」

と考えているからです。どちらも自由貿易を否定した場合に起こる出来事については同じことを述べています。両者の相違はその出来事に対する評価なので、これでは反論として不適切です。

 私は幼稚産業保護論にも、強い説得力があると思います。なぜなら小麦生産などの農業分野は自動化・効率化しづらいのに対し、鉄鋼生産などの工業分野は自動化・効率化しやすいからです。効率化の「しやすさ」という観点を考慮に入れて考えれば、農業分野に特化している国の交易条件は、次第に悪化します。すなわち、農業分野に特化すれば、次第に「貧しくなる」のです。

 これについて、考えていることはいくつかあるのですが、まだあまり煮詰めていないので、いまは書かないでおきます。



 いまはとりあえず、
  1. 経済学では(経済学者は)自由貿易が好ましく、幼稚産業保護論は好ましくないと考えていること、
  2. 自由貿易に否定的な態度をとったアルゼンチンは貧しくなり、自由貿易を積極的に推進した韓国・シンガポール・台湾は経済発展したことをみれば、この経済学サイドでの立論には強い説得力があること、
を確認するにとどめます。



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