言語空間+備忘録

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『対北朝鮮・中国機密ファイル』

2011-02-06 | 日記
櫻井よしこ 『異形の大国 中国』 ( p.313 )

 07年に出版された『対北朝鮮・中国機密ファイル』は、北朝鮮、中朝関係、韓国、さらにはアジアのなかの日本への、中国人の見方を理解するうえで極めて役に立った。
『機密ファイル』は文字どおり、中国政府中枢部の握る機密情報を書いたものだ。中国共産党の現役官僚を中心とする複数の人物が「欧陽善」というペンネームで書いたのが同書である。北朝鮮と中国の暗闘の歴史の詳細は、真に驚くべき内容だ。同書は、具体的かつ詳細な事例をあげて、昔も今も変わらぬ北朝鮮の徹底した中国嫌いの実態を抉り出している。たとえば、1950年6月25日に北朝鮮の攻撃で始まった朝鮮戦争の勃発を、金日成は毛沢東には知らせず、毛はそのことを外国の新聞のニュースで初めて知ったという。それから56年後の2006年7月のミサイル発射実験を、金正日は父親同様、中国に全く知らせることなく行った。同年10月9日の核実験は、一応、事前通告はしたが、それは実験の、わずか20分前という切迫した場面でのことだった。その結果、胡錦濤国家主席らが北朝鮮の通告を知ったのは、核実験直後だったという。
 中国嫌いは南北両朝鮮が共有する想いだ。前ソウル市長の李明博氏はソウルの中国語表記「漢城」を「首爾」に改めた。韓国政府は80年代から漢城は中国人が勝手につけた植民地主義的命名だとして変更を申し入れていた。中国側は応じなかったが、韓国側はさっさと変えてしまったわけだ。

★南北朝鮮に譲歩する中国

 では、中国嫌いを鮮明にする南北朝鮮に、中国はどう対処してきたか。触らぬ神に祟りなしとばかりに、終始及び腰だったと、欧陽善は強調する。とりわけ北朝鮮との関係は、中国の一方的譲歩によって成り立ってきた、とまで分析する。
 そのことは、歴史問題にも思わぬ影を落としている。抗日戦争のとき、日本軍に編入された朝鮮人兵士は日本人兵士より「凶暴」だったが、戦後の愛国教育のなかで、中国は朝鮮の罪を不問にし、それらすべてを日本の責任として日本だけを責めたというのだ。それだけ朝鮮半島に対しては "遠慮" しているのである。
 中国の北朝鮮に対する譲歩は領土についても同様だという。金日成ゆかりの聖地とされる長白山は元々中国領だった。北朝鮮が「朝中友好の大局」を楯に北朝鮮に移譲してほしいと要求したとき、毛沢東は長白山の分水嶺の東側の三つの峰と、その頂上にある天池の湖面の約4割を、気前よくプレゼントした。すると北朝鮮は間髪を入れず、黒龍江省の一部、吉林省の大部分と遼寧省の全てを要求した。中国は直ちに断ったが、日中関係のなかで、日本の領土である尖閣諸島や排他的経済水域をあくまでも中国領だと主張する対日強硬姿勢の中国が、北朝鮮の前では、姿を一変させているのが興味深い。
 北朝鮮の不法、不誠実な手法ゆえに、貿易、投資においても、中国は常に「被害」を受けてきたと同書は主張する。その結果、中国商務部(省)は、北朝鮮取引きで騙されないための警告書を作成した。そこには、具体的に北朝鮮の騙しの手口が書かれているが、よく読めば、これらの手口は、日本人や日本企業が中国投資で騙される中国式手法そのままである。
 では中国は、中国が騙され続け、それでも譲歩し続けてきた厄介な相手の北朝鮮をどのように分析しているのか。中国最高レベルの軍事大学である国防大学は、旅団長もしくはそれに準ずる軍事参謀、そして高級軍事研究者しか入学が許されないエリート養成施設だ。同大学が核を保有した北朝鮮を分析しているのを見ると、結論は、「中朝間の軍事的衝突は不可避」「中国は朝鮮との戦争に備えなければならない」というものだった。

国益のための敵情分析とは

 北朝鮮の核は韓国の朝野の支持を得ているのであり、それは将来、中国及び日本と対等に渡り合うための切り札であると位置づけて、朝鮮半島情勢の推移に並々ならぬ警戒心を抱いているのだ。
 核をもった北朝鮮が脱中国化を進めるいま、中国が「親朝反米」路線をとることはあり得ず、むしろ米国と連携して北朝鮮を抑制することが得策だと結論づける。だが、このような中国の思惑とは反対に、06年以来、米国と北朝鮮の緊密化が進んでいるのも事実である。
 中国の朝鮮民族に対する思いは、北に対するそれと南に対するそれとでは本質的に異なる。「なぜか韓国に対しては嫌悪感と軽蔑の感情」が先立つというのだ。92年に中韓国交が樹立され、両国関係は改善されたにもかかわらず、中国人の心は韓国から離れていくと、次のように書かれている。「韓国人に対しては、最初こそ強い親しみを抱くが、その国を知れば知るほど嫌悪感に変わっていく」と。
 同書で分析される日本及び、日本人像も興味深い。たとえば、韓国人に対するのとは対照的に、中国人は当初は日本人に「非常に悪い印象を持つ」が、日本に少し滞在すると、印象は「だんだん良いイメージに変わり、ついには感服へと変化する」というのだ。


 中国共産党の現役官僚を中心とする複数の人物が「欧陽善」というペンネームで中国政府中枢部の握る機密情報を書いた本、『対北朝鮮・中国機密ファイル』は、北朝鮮、中朝関係、韓国、さらにはアジアのなかの日本への、中国人の見方を理解するうえで極めて役に立った、と書かれています。



 私もこの本は知っていますが、ペンネームで書かれた本の内容を、「どこまで信用してよいのか」が気になります。

 ペンネームで書かれているなら、「真実ではない可能性」を考えなければならないと思います (もちろん実名であっても信用に値しない場合もありますし、逆に仮名であっても信用に値する場合もあります。今回の場合、仮名であるからこそ信用に値する、と考える余地もあります) 。



 しかし、それを言えば、「中国共産党秘密文書「日本解放第二期工作要綱」」も偽物かもしれないし、「中国は「2012年の台湾統一」を目指している」という情報も虚偽かもしれないわけです。どちらも、「機密情報」に基づいていることには変わりなく、「機密情報」が実名で公開されることは (情報公開制度によって数十年後に公開される場合を除けば) まず考えられないといってよいでしょう。

 したがって、仮名による情報であっても、「それなりの信憑性がある」とみてよいのではないかと思います (もっとも、「わざと虚偽の情報を流す」という「作戦」もあり得ることから、「公開情報」や「たしかな情報」との整合性に気を配りつつ、匿名による情報の信憑性を判断するに越したことはありません) 。



 著者(櫻井よしこ)が「どのように読んだのか(単純に信用してしまったのか)」は、私にはわかりませんが、この本の内容が検討に値することはたしかだと思います。

 機会があれば、引用・検討したいと思います。