・その14での結論 では『従来方法ではEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2が単位時間当たりBHが放出する全放出エネルギーである、とされていました。
提案方法では補正係数0.10179を掛けたE=0.10179*Esが妥当であろう、という事になります。
こうして、BHの寿命は従来の約10倍にのびる事になった、とそういうお話であります。』という事でした。
これはこれで確かにそうなるのですが、従来方法では1とされている補正係数(補正をしないのに補正係数というのも何ですが、、、)の状態と言うものはどういうものであるのか、という事があまりはっきりと示せませんでした。
その状態はただ単に「BHを黒体とみなした場合にその黒体の表面から宇宙空間に放出されるであろうホーキング放射の全エネルギーを計算するとしたら、シュテファン=ボルツマン則に従ってその式で計算できる」という事でしかありません。
しかしながら、いままで検討してきたように「ホーキング放射は厚みを持った空間から素粒子が飛び出す」という「黒体の表面から放射がおきる状態」とはまるで異なる放射メカニズム、放射様式なのであります。
それをただ単に「黒体表面からの放射」としてとらえてBHの寿命計算をしていたのが従来方法でした。->http://astro-wakate.sakura.ne.jp/ss2013/web/syuroku/grcosmo_24a.pdf
それに対して当方の計算ではホライズン半径からその3倍の位置までの空間放射を考えればよい、として補正係数0.10179を算出しました。
またGiddingsさんの検討では「Ra=3*sqrt(3)/2*シュワルツシルト半径=2.5981*シュワルツシルト半径」つまりX=2.5981まで層を積み重ねればよい、として、つまりは積分範囲1(ホライズン半径)からその2.5981倍までで良いとし、補正係数0.101733 という値を得ました。
それでこの2者の補正係数の値はほぼ同じであって、ホライズンからどこまでの上空空間までのホーキング放射を有効なものとして考えるのか、という所に違いがあるだけです。
さてそれで話を戻して「ホーキング放射を空間放射である、とし、さらにその全放射エネルギーを式Es=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2で計算する」という事はどういう状況を想定して計算を行っているのか、という事を確認してみましょう。
・その14 で導出した積分対象の式はこうでした。↓
Es*(1/X^6)*(1-sqrt(X^2-1)/X)
この式でXはホライズン径で1となる様に規格化したパラメータです。そのように規格化されたパラメータXで示される位置Xにある層が放出する全エネルギーをこの式は表しています。但し、BHの中心から距離が離れるにしたがってBHからの重力がよわくなり、つまりはホーキング温度がさがり、ホーキング放射エネルギーもそれに従って下がる、という事を考慮しています。
それに対してBHのホライズンからどれだけ距離が離れてもホーキング温度はホライズンでのホーキング温度のままである、と想定した場合はパラメータXで示される位置Xにある層が放出する全エネルギーを現す式は以下の様になります。
Es*4*pi*x^2*(1-sqrt(x^2-1)/x)
4*pi*x^2は距離xにある層が作る球の表面積であり、(1-sqrt(x^2-1)/x)はその位置からどれだけの仮想粒子がホライズンの中に飛び込めるか;それはつまりホライズンの中に飛び込めた仮想粒子と対になって生成した仮想粒子が最終的にはホーキング放射として観測される、と言う状況を表しています。
さてそれで、求めるべきは 4*pi*x^2*(1-sqrt(x^2-1)/x)の式をホライズンの位置からスタートさせてその上空のどこまで積分したら1と言う値になるのか、という事になります。
そうしてそれは ウルフラムによれば 1から1.10187551の範囲でよい、という事になります。
つまりは『従来方法でEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2が単位時間当たりBHが放出する全放出エネルギーである』として寿命計算をしていたのは、空間放射という考え方の世界では『ホライズンでのホーキング温度のままでその上空方向に距離が離れてもホーキング温度は変わらずにホーキング放射を行うことが出来る、そういう層をホライズンからその1.1倍の所まで積み重ねてホーキング放射の全エネルギーを計算している事に相当する』という事を示しています。
しかしながらもちろん現実にはホライズンから離れれば相応のホーキング温度しか得られず、つまりはホーキング放射のエネルギーは順次減少していく、と言うのが正解となります。そうであれば補正係数は1のままでは過大であり補正係数0.1017をかける事が必要である、という事になります。
そうして空間放射するエリアをどこまで考えるのかによって小数点以下第5位の数字がGiddingsさんの検討と当方の検討結果では異なってきますが、補正係数0.1017とした場合は双方が同意できる値であり、また有効数字4ケタというのも十分な桁数であると思われます。
結論
従来BHを黒体として扱い、その表面から放出される全エネルギーをシュテファン=ボルツマン則に従ってEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2で算出し、その値からBHが蒸発するまでの時間:寿命を求めていた。
しかしこの方法では単位時間当たりにBHから放出される全エネルギーの値が過大に計算される事になる。これを実際の状況に合致させるためには補正係数0.1017をかける必要がある。
それはつまり、従来方法で計算されたBHの寿命は約10倍に伸びる、という事である。
追伸(3/25):上記結論については通常のホーキング放射での寿命式はホーキング放射される素粒子の種別を問わず、また光の放射についてはその波長サイズとBHの大きさの関係を無視して計算しています。
しかしながら実際は放射される素粒子の種別と光放射の場合では波長サイズとBHの大きさの関係は無視できず、これらの要素を加味する事でBHの寿命は上記結論よりもさらに延びる事になるのは確実であると思われます。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
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