『・・・以上の説明の通り、ホーキング放射が実現するには時空が一方通行となる事象の地平面が必要であり、事象の地平面に限りなく近い場所 (計算上は無限に近い場所) で起こるブラックホールに限定された現象であると長年考えられてきました。
実験室でブラックホールを作ることはできないのでホーキング放射が実証されたことはありませんが、事象の地平面と非常によく似た状態を設定した実験ではホーキング放射のような現象が確認されています。このため、「ホーキング放射は事象の地平面に限りなく近い場所でのみ起こる」という認識は正しいようにも思えます。
しかしWondrak氏らは、「シュウィンガー効果」と呼ばれるアプローチを適用することで、ホーキング放射は事象の地平面よりずっと遠くでも起こることを理論的に証明しました。
シュウィンガー効果は、1951年にジュリアン・シュウィンガーによって示された電磁力学的な現象であり、「十分に強い電場や磁場の下では、真空から粒子と反粒子のペア(より具体的には電子と陽電子のペア)が生成される」という現象です。
・・・
重要なのは、強大な電場や磁場が必要なシュウィンガー効果は、ブラックホールの近辺という強大な重力場の下で起こるホーキング放射によく似ていることです。真空から粒子と反粒子のペアが生成されるという状況もまた似ています。
大きな違いは、シュウィンガー効果が起こる確率は電場や磁場の強度に依存しており、どこでも起こり得る現象であるのに対し、ホーキング放射は事象の地平面付近という極めて狭い範囲でしか起きないと予測されていることです。これは本当なのでしょうか?
Wondrak氏らは、重力場に対する計算 (※1) を行うことで、ホーキング放射が重力の強い場所ほど起こりやすい現象であることを証明しました。
重力の強い場所、つまりブラックホールの近辺である事象の地平面付近で最も起こりやすい点はこれまでの認識と同じですが、今回の研究では「重力場が強い場所ならば事象の地平面から遠く離れていてもホーキング放射が起こる」ことを証明したのが重要なポイントです。・・・』
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当方も含めて「BHのホライズン上空域からもホーキング放射がでている」という主張はこの論文の前にも提示されていました。
そう言う意味では「また一つ、空間放射タイプのホーキング放射に賛同する論文が出た」と言えそうです。
とはいいながら「BHを必要としないホーキング放射」という考え方、面白いのですがその認識が正しいのかどうか、従来からある「空間放射タイプのホーキング放射」と詳細に比較検討して見ないとわかりません。
とはいいながら、なかなかその時間が取れないので、一応この論文の記事はアップしておきます。
以下はarxivに投稿された元論文のアドレスです。ご参考までに。
Gravitational Pair Production and Black Hole Evaporation
https://arxiv.org/pdf/2305.18521.pdf
ちなみにこんな記事もありました。
ブラックホールの蒸発が理論的に正しいことを証明 蘭ラドボウド大
https://archive.md/TfGTY