「ホーキングさんが考えたこと・21」ではニュートリノ放出場合で、ホーキング放射に伴いBHが受け取るべき運動量Pを考慮するとどのような計算になるのかを示しました。
それと同じ計算を「ホーキングさんが考えたこと・16」で取り上げた、順次ホーキング放射を出しながらBHが自分の質量を減らしていく事例について行ってみましょう。
さてそれで「ホーキングさんが考えたこと・20」によれば⊿Eのエネルギーを持つ質量mのニュートリノが満足すべき式は
⊿E+m*C^2=sqrt(P^2*C^2+m^2*C^4)
となる事になります。
ΔEはニュートリノ・ホーキング放射のエネルギーEを質量ΔMに換算した値にC^2をかけて求めます。
整理して
P=sqrt((⊿E^2+2*⊿E*m*C^2)/C^2)
但しm*C^2=(1.1*10^ー34)*C^2=9.887E-18(J)
以上より⊿Eのエネルギーを持つ質量mのニュートリノの運動量Pが求まります。
このニュートリノを吸収したBHが満たす式は次のようになります。
(E-⊿E)^2=P^2*C^2+M^2*C^4
この式はBHは⊿Eのエネルギーを真空に対して支払い、運動量Pをニュートリノから受け取る事を示しています。
ここでMはニュートリノが飛び込んだ後のBHの静止質量を表します。
Eはニュートリノが飛び込む前のBHの質量にC^2を掛けて求めます。
以上をMについて解いて
M=sqrt(((E-⊿E)^2-P^2*C^2)/C^4)
を得ます。
まずは「ホーキングさんが考えたこと・16」の結果を再掲示します。
この計算ではエネルギー保存則のみを考量しています。
M(Kg) T(K) ⊿M(Kg) M-⊿M(Kg) 2*Rs/Lp
① 2.176E-08 5.638E+30 2.443E-09 1.932E-08 4.0
② 1.932E-08 6.351E+30 2.751E-09 1.657E-08 3.55
③ 1.657E-08 7.407E+30 3.208E-09 1.336E-08 3.04
④ 1.336E-08 9.186E+30 3.979E-09 9.378E-09 2.46
⑤ 9.378E-09 1.308E+31 5.667E-09 3.711E-09 1.72
⑥ 3.711E-09 0.68
そうして以下が今回の計算結果となります。
この計算ではエネルギーと運動量の保存則を同時に考量しています。
ニュートリノ吸収後の
ΔE P E BHの質量M
① 2.195E+08 0.73230 1.956E+09 1.916E-08
② 2.473E+08 0.82489 1.736E+09 1.634E-08
③ 2.884E+08 0.96190 1.489E+09 1.297E-08
④ 3.576E+08 1.19295 1.201E+09 8.492E-09
⑤ 5.094E+08 1.69911 8.429E+08 ------
⑥ 1.287E+09 4.29413 3.335E+08 ------
ニュートリノ吸収によるBHの運動量の増加はBHの運動エネルギーとなり、その分BHの質量減少の度合いが大きくなることは前回の説明と同じです。
そうして、今回特に注目すべきは⑤の状況においてはもはや計算が成立しなくなる、という事であります。
⑤においてはニュートリノ吸収後のBHの質量Mを求める式で
M=(((E-⊿E)^2-P^2*C^2)/C^4)
においてルートの中身がマイナスになっています。
つまり、⑤の状況においてはもはや想定したエネルギーでのホーキング放射は「運動量保存則とエネルギー保存則の両方を同時に満たす事は出来ない」という事であり、したがってこの条件でのホーキング放射は起こらない、という事になります。
(そのような仮想粒子がBHに飛び込んでも、BHはそれを無視する、という事になります。
つまり、その仮想粒子は実体化することなく、何事もなかった様にただ消えていくだけであります。)
但し、この計算の場合のホーキング放射のエネルギーはBH質量から決まるホーキング温度で最も多く発生すると予想されるものになっています。
(つまり、もっとエネルギーの値が少ないホーキング放射であれば⑤の状況のBH質量でも放射が可能である、という事です。)
そして今回の場合のBHのホライズン直径はプランク質量MpのBHの40%程度の所になっています。注2
ちなみに⑤の時に「ホーキングさんが考えたこと・16」で計算が可能だった理由は、「16」での計算は運動量保存則を考慮せず、エネルギー保存則のみで計算していたからという事です。
さてこれは従来、当方が主張してきた事「BHのホライズン直径がLp未満になった時点でホーキング放射は一旦とまる」という条件によるものではありません。
「運動量保存則とエネルギー保存則を満たす事」という条件があれば、BHのホライズン直径がLpに至る前にホーキング放射は自動的に止まるかの様であります。
そうして、そのように自然は、宇宙は出来上がっている、という事になります。
所で⑤の計算ではホーキング放射を出す前のBHの運動量はゼロとしています。
(①から⑥までそのようにして計算しています。)
しかしながら実際の状況ではこれまで見てきたように、BHはホーキング放射を出すたびごとにその方向とは逆方向の運動量を得て動き出す、という事でした。
そうでありますから本来はBHの質量Mを求める式
M=(((E-⊿E)^2-P^2*C^2)/C^4)
において、Pの値はそれまでそのBHが放射してきたホーキング放射によって生じた反作用としての運動量、それはまたBHに吸収されたニュートリノが持ち込んだ運動量でもありますが、その運動量Piを最初のニュートリノが運び込んだ運動量P1から今回運び込まれた運動量Pnまでの全ての運動量ベクトルPiをベクトル加算し、その合計されたベクトルの絶対値を入れる必要がある、という事になります。
その際に原点となる座標系はそのBHが誕生した時のBHの中心にある特異点の位置にとるのが妥当であります。
そうやって決められた座標系で、BHにいままで放出された全てのホーキング放射の反作用の運動量が合計され、その合計された運動量ベクトルの絶対値をとってPとし、そうして
M=(((E-⊿E)^2-P^2*C^2)/C^4)
の式によってBHの質量Mが計算されなくてはなりません。
その時にはΔEは今回の放射を含めて、今までホーキング放射でBHから出て行ったエネルギーの合計になります。
そしてエネルギーEはそのBHが誕生した時のBH質量M0にC^2をかけた値、BHの生まれた時の静止質量のエネルギー換算値となります。
そのようにしてMが計算できる場合はそのホーキング放射は可能でありますが、Mが計算できない場合はそのホーキング放射は禁止される、とそういう事になります。
式で書きますと
(E-⊿E)^2>=P^2*C^2 となり、
左辺が右辺より大きいか等しい場合のみが許されます。
そして等号が成立した場合はBHの質量Mはゼロになる、つまり「BHは消滅した」という事になります。
以上の内容がホーキング放射の許容条件、あるいは禁止則となります。
そうしてこれは当方の主張「BHのホライズン直径がLp未満になった時点でホーキング放射は一旦とまる」という事とは何の関係もなく、自然が、宇宙がもっている「決まり事」となります。
さて、今までの話からBHが消滅可能である唯一の条件が明らかになりました。
それは「最後の最後にこのBHに飛びこんだニュートリノによってそれまでこのBHが持っていた運動量がゼロに戻されるのと同時にまたこのBHの全エネルギーEをちょうど打ち消すようなエネルギーをそのニュートリノが運ぶことが出来た場合」という事になります。
それはつまり、このBHが今まで放出した全てのホーキング放射の運動量ベクトルのベクトル和を今回のニュートリノは知っていて、その合計されたベクトルと真逆の方向に運動量ベクトルを、その絶対値は同じ値に設定し、また同時に自分がもつエネルギーをこれから飛び込むことになるBHがもつ全エネルギーEと同じ値に出来る、という事であります。
そして当方の主張は「ホーキング放射の様なランダムプロセスでそのような事が起きる確率は1を無限大で割った値、つまりゼロである」と言うものであります。
・・・・・
以上をもちまして「BHは消滅する事が出来ない」と言う事の証明になります。
注1
BHは大きさを持ちます。
マイクロBHとて同様であります。
そうしてホーキング放射を考えた時に、BHにななめ入射したニュートリノが持っていた運動量はBHに角運動量を与えるのではないのか?と言う疑問は、ホーキング放射のシミュレーションモデルを考えている時からの問題認識であります。
しかしながら、「角運動量の保存則までを考慮に入れたBHの消滅条件を出す事」は当方の技量を上回っており、手に余る問題となります。
従いまして今回「従来のエネルギー保存則のみでの計算方法に対して、新しく運動量保存則を加味した場合でのBHの消滅条件を出せた」という所あたりが、当方の分相応の所かと思われます。
注2
詳細な計算は省きますが、BH質量がプランク質量の47.4%未満になると、今回の条件(その時のBH質量に応じて一番放射頻度が多いと予想されるエネルギーでの放射)ではホーキング放射が出来なくなるという計算結果になっています。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/6XnAa
http://archive.fo/IiYoz