英語・ダイエット・その他徒然なるままに

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言語だけを追うな(1)

2017年10月28日 23時29分47秒 | 英語
お久しぶりです。

唐突ですが、「語用論」という学問分野があることをご存知でしょうか?文学部出身の方なら聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、一般的にはあまりメジャーな言葉ではないと思います。

でもこれ、”人が他者の発話の意図を理解できるのはどのような仕組みによっているのか?”という、人間を人間たらしめる本質的な営みである言語活動の、その中でもかなり本質的な部分を解明しようとする、とても重要な学問分野なのです。

簡単に言ってしまったので、「他人の発話の意図を理解できるなんて当たり前じゃないか。我々人間には言葉を理解する能力があるんだから」と、そのように思われると思います。でも、”言葉”って、我々が考えているほど発言者の意図を緻密にコード化している(できる)ものじゃないんですね。

こういう風にいうと、いわゆる比喩や皮肉などの言外の意味、みたいなものを思い浮かべると思いますが、もちろんそういうのもありますけど、もっとシンプルな、一見言葉そのものだけを解読しているように見えるケースでも、実は人間は言葉以外の所から色々な情報を補って”言葉の意味”を解釈しているのです。例えば誰かが、

(1)寿美子のネックレスは高価だ。

と言ったとしましょう。もしあなたがこの言葉を聞いたらどのような意味を思い浮かべると思いますか?こういう風に言うとおそらく、

(2)寿美子が着けているネックレスは高価だ。

という解釈を普通は思い浮かべると思います。しかし、(1)の”言語そのもの”が表現しうる意味は決して(2)だけではない、言い換えれば、(2)は(1)の”意味そのもの”ではなく、解釈の1つに過ぎないのです。その証拠に、(1)が導き得る解釈は(2)以外にも次のように色々あります。

(3)寿美子がデザインするネックレスは高価だ。
(4)寿美子がくれるネックレスは高価だ。
(5)寿美子が所有しているネックレスは高価だ。
(6)寿美子が欲しがっているネックレスは高価だ。
(以上、「ことばの意味とは何だろう」岩波書店、より)

何を屁理屈を、と思われるかも知れません。でも、コミュニケーションがなされている状況次第では、(1)の発言の意味が(2)ではなく、当たり前のように(3)とか(4)とか(5)とか(6)のように解釈され得る、そういう状況はいくらでもあります。そして、我々は(母国語においては)そのような意思伝達を、無意識に、何の苦もなく平然と行うだけの能力を持ち合わせています。

ここではあまり深入りはしませんが、(1)の言語そのものが表す意味は同じ出典によると、

(1a)寿美子は、寿美子自身と何らかの関係において、そのネックレスが高価だ。

となるそうです。これはもはや我々が日常的に用いている言葉とは異なる、論理式とでも呼ぶべき形態のものですが、表出された言葉そのものが表すこのような意味を解析する学問を「意味論」と言います。意味論は聞いたことがある方も多いと思います。(1a)は(1)の「意味論的意味」です。一方、(2)~(6)は(1)の「語用論的意味」の例です。

つまり語用論とは、(1)を聞いて(1a)の意味論的意味の解析まで完了した人間が、次にどうやってその場の状況や文脈に応じて(2)~(6)の”本当の意図”を導き出しているのか、その仕組みを解明しようとする学問です。

語用論のイメージが大体掴めたと思いますが、これは英語学習のブログですから、私が本当に言いたいことは当然そっち方面の話に関係します。次回につづく。